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太田克史 @FAUST_editor_J
今を遡ること十有余年、94年のゴールデンウィーク。講談社のある編集者が朝から出社して仕事に励んでいたところ、突然、編集部の電話が鳴った。「講談社では小説の投稿を受け付けているでしょうか?」という電話だった。
太田克史 @FAUST_editor_J
多くの編集部では小説の直接の投稿=持ち込みは受け付けていない。編集者は電話の主に新人賞への投稿を促したのだが、「新人賞の応募規定にある枚数を大幅にオーバーしてしまう枚数の小説で、どこにも応募する賞がない」とのこと。
太田克史 @FAUST_editor_J
編集者は電話の主に軽く小説の内容を伺ったところ、その小説は民俗学的なテイストのミステリー小説・・・らしかった。興味を惹かれた編集者は、「それでは僕に原稿を読ませて下さい」と電話の主に告げ、名前と編集部の住所を連絡して、電話を切った。
太田克史 @FAUST_editor_J
ゴールデンウィーク明けに講談社に出社した編集者は、机の上を見て愕然とした。そこには一通の封筒が載っていたのだが、それは封筒というにはあまりも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く(以下略)。編集者はすっかり失念してしまっていたのだが、それは件の電話の主からの投稿作品だったのだ。
太田克史 @FAUST_editor_J
編集者は、まるで引き寄せられるかのように封筒を破いた。原稿を眺めてまず彼が驚いたのが、その小説の「タイトル」が読めなかったことだった。
太田克史 @FAUST_editor_J
編集者はおもむろに投稿作品を読み進めた。それは素晴らしい小説だった。いや、素晴らしすぎる小説だった。編集者は10枚読んだ時点で出版を決定し、20枚読んだ時点で書き手の天才を確信した。
太田克史 @FAUST_editor_J
そして30枚目からは、彼はこれは誰か高名な作家が講談社の編集部の力量を試すための壮大な引っかけではないかと疑いながら読み進めていった。ふと気がつくと、彼は小説を読み終えていた。それは完璧な小説だった。
太田克史 @FAUST_editor_J
運命的な出会いを感じた編集者は出社してきた上司に熱っぽく掛け合い、はたしてその日のうちに投稿作品の出版は決定された・・・。その小説のタイトルは、『姑獲鳥の夏』。
太田克史 @FAUST_editor_J
・・・と、いうわけで、ゴールデンウィークに出社して一生懸命仕事をしている僕もみんなも、いずれ必ずいいことがあるよ! 運命の出会いを信じて頑張ろうぜ!!
太田克史 @FAUST_editor_J
ふー、ちょっと休憩。お昼前に京極夏彦さんのデビューにまつわるエピソードをご紹介したんだけれど、あのエピソードは、ミステリー界隈の編集者のあいだではまさに知らぬ者の誰一人としていないエピソードです。僕もいったい何度耳にしたことか。そして憧れたことか。
太田克史 @FAUST_editor_J
ゴールデンウィークに出社して、京極さんからの電話を受け取った編集者は僕の先輩です。僕の社会人としての初仕事は「京極夏彦インタビュー」なので、思えば先輩と京極さんは僕の編集者人生の「原点」に位置しているんですね。
太田克史 @FAUST_editor_J
そういえば、その昔、ある作家さんと京極さんのデビューについて語っていたとき、僕が「編集者として、一生に一度でいいから先輩と京極さんみたいな出会いをしてみたい。先輩の強運はすごい!」と話をしたら、「太田さん、僕たち作家からしてみたら、逆ですよ」と言われたことがあります。
太田克史 @FAUST_editor_J
ある作家さん曰わく。「編集者の太田さんからすると、京極さんとめぐりあえた先輩の編集者さんの強運が素晴らしいと受け取るんでしょうけど、僕たち作家からしてみたら、その先輩の編集者さんと一撃でめぐりあえた京極さんの強運こそが羨ましいんです」
太田克史 @FAUST_editor_J
引き続き、ある作家さん曰わく。「僕たち作家がたとえどんなに良い原稿を書いたとしても、最初の読者である編集者さんの眼が確かでなければ、その原稿が日の目をみないことはよくありますから。だから、原稿を見る確かな目のある編集者さんと一撃でめぐりあえた京極さんが僕は羨ましいんです」
太田克史 @FAUST_editor_J
ある人間の力量を正確に図るためには、図る側の人間にも同等の力量が必要なのだ。
太田克史 @FAUST_editor_J
だから、14年前のゴールデンウィークに奇跡は起こったのだ。京極夏彦という天才と、その天才を正確に計ることのできた編集者との出会い。それはまるで彗星と彗星が衝突するような、これ以上ない、きわどい確率で起こった出来事だったのかもしれない・・・ですよね?
太田克史 @FAUST_editor_J
僕はゴールデンウィークに出社するたびに思うのだ。編集者としての僕にとっての「京極夏彦」とめぐりあえる日はやってくるのだろうか。そしてめぐりあったとき、僕ははたしてその「京極夏彦」を正確に評価できる目を持っているだろうか、と。僕の机の上の電話は、まだ鳴らない。
太田克史 @FAUST_editor_J
やばい〜(笑)。「僕の机の上の電話は、まだ鳴らない。」だってwww。・・・というわけで仕事に戻ります。(キリッ)
太田克史 @FAUST_editor_J
なんかすごいリプライついてたよ! いやー京極パワーすごいな〜。皆さんおやすみなのに、本当にありがとうございます。夜になって、もし時間があったらお返事しますね。

コメント

けま @kemamake 2010年5月10日
第二弾として、もうひとつの「彗星」である、森博嗣氏との出会いについても希望……。森氏の場合「すべてがF」が処女作でないだけに、あわせて興味深いものになるはず・・・!
みつ。@育児3y妊活と筋トレとごはんと薔薇 @mi2maru 2010年5月10日
編集さんの力も本の裏側にはあるとおもうと、作品ってほんと多くの人の手によって作られる総合世界だとおもった…感動した…
有村悠%1/22砲雷撃戦・に-10 @y_arim 2010年5月10日
ブクマより「mangakoji もう編集なんかいらないけどね。WEBがあるから」まだweb登場による編集不要論唱えている輩がいるのか…書き手が独力で面白いコンテンツを作れる世の中が来るといいですね。
Susumu Watanabe @watanabe_susumu 2010年5月10日
編集不要云々より、編集者の目からこぼれた作品を拾うためにweb、ひいては電子書籍が使われるようになればいいと思います。
まちゃるんと @UnfoundNimo 2010年5月11日
WEBの利点は5ページ分が3秒かからず目を通せる事だよね、読むか否かを判断するために。なんて屁理屈をこねつつ、それでも目に触れてもらえるまでが大変。電子書籍なんて、見出してもらう労力の上に「読む価値、金払う価値」があるかどうかの判断をくぐり抜けなきゃいけないので、埋もれる人は埋もれる一方な気がするけどどうなんだろう
言葉使い @tennteke 2010年5月13日
森雅裕氏を弾く発端も、また講談社。
藤本 雅子 @santamaria_rose 2010年11月5日
京極夏彦、久しぶり読み返していてデビューエピソードを思い出していた。で、最近話題の人だけど・・ ポプラ社の文学賞という、全く有名無実な格も実績もない文学賞になぜ応募したんだろう。作家になりたいなら、文芸で実績のある出版社をなぜ狙わなかったんだろう。 どうして、文芸では格が2つも3つも下のポプラなの? なぜ、受賞者一人で実績皆無の賞を狙った?
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