ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル #8

重金属酸性雨に湿ったコンクリートの壁に、アミーゴハットを被ったスモトリの奏でるアコースティック・ギターの乾いた音色が、ゼンめいた調和とともに響き渡る。カウンター上に掲げられた鹿の生首が、「本格派」とミンチョ体で書かれたネオンサインの火花によって、ピンク色に照らし出される。
2011-10-10 01:23:23
どこか陰のあるゲイシャが、暗い奥の席に独り。ブラウン管テレビに映る相撲映像を眺めながら、ギムレットを呷る。スモトリの爪弾く曲が、伝説のヨコヅナ「アンダーハンダー」の入場テーマに変わった。ゲイシャはオイラン厚底シューズの踵と木床でリズムを取る。そうすれば、あの男が現れる気がした。
2011-10-10 01:25:42
しかし、どれほど待ってもあの男は……ジェノサイドは現れない。別なTVでは、サイバーゴスがNS893便をハッキングで乗っ取ろうとして死んだ事件がまだ報道されている。ゲイシャとサイバーゴスとカチグミが数千数万の命を救った……そんな馬鹿げたストーリーを信じる者は、狂人くらいのものだ。
2011-10-10 01:30:20
「まったく、馬鹿げてるわ。オスモウ、ですって?」ユリコはトビッコ・ギムレットをまた口に運びながら、自嘲気味に笑った。涙も頬を伝った。いったい何件、こうして、相撲バーを渡り歩く日が続くのだろう。
2011-10-10 01:33:10
しかし彼女はこれからも、相撲バーを巡るだろう。かつて駆け落ちを考えていた殺し屋がジェノサイドであることなど、気付いていない。当然のことだ。死んだはずの男が、ゾンビーになって……しかもゾンビーニンジャになって、偶然ウェスタン相撲バーでめぐり合うなど、狂人ですらも考え付かない話だ。
2011-10-10 01:35:52
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」薄暗いステージでは、スモトリがギターを裏返し、ボディを手で叩いてリズムを取る。もう一人のスモトリが、情熱的かつどこかひっ乾いたバンジョーのソロをかき鳴らしながら、店内を歩き回っていた。だが、ウェスタン風のドアを押し開け、ニンジャが姿を現すことはなかった。
2011-10-10 01:36:36
ユリコがいる相撲バーの上方、約200メートル。規則的に林立する五重塔のひとつ。その屋根の上で、ドクロめいた満月を背負いながら2つの影が戦い合っていた。両肘から先をカタナに置換したと思しきニンジャが、高く跳ぶ。鎖付バズソーめいた武器が上空目掛けて投げ放たれ、ニンジャは爆発四散した。
2011-10-10 01:41:02