『困ってる人』大野更紗著・ポプラ社刊の書評

基本情報/『困っている人』大野更紗著・ポプラ社刊 ¥1400(税込み)/10月7日購入時点で10刷り12万部突破、おめでとうございます。あぁうらやましい。 著者twitterアカウント @wsary 著者ブログ http://wsary.blogspot.com/ アマゾンリンク  http://www.amazon.co.jp/%E5%9B%B0%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%8B%E3%81%B2%E3%81%A8-%E5%A4%A7%E9%87%8E-%E6%9B%B4%E7%B4%97/dp/4591124762 続きを読む
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たられば @tarareba722

書評基本情報/『困っている人』大野更紗著・ポプラ社刊 ¥1400(税込み)/10月7日購入時点で10刷り12万部突破、おめでとうございます。あぁうらやましい。著者twitterアカウント @wsary 著者ブログ http://t.co/Pi8yQtLy

2011-10-11 12:52:33
たられば @tarareba722

『困っている人』書評1/著者は大野更紗 @wsary さん。先日見つけてフォローした。版元は名門・ポプラ社である。子供の頃『名探偵ホームズ全集』や『怪盗ルパン全集』に胸躍らせた日々を思い起こすと、水嶋ヒロの一件で有名になってしまったことについて複雑な思いがある。

2011-10-11 12:52:52
たられば @tarareba722

『困っている人』書評2/作中にも解説があるが、本作品はもともとブログ連載であった。ポプラ社が運営するポプラビーチというサイト http://t.co/OVAK7yV5 に書いたものを加筆・修正して単行本化しており、今でも上記サイトにて全文読むことができる。

2011-10-11 12:53:03
たられば @tarareba722

『困っている人』書評3/内容はamazon等でも触れられているが、上智大学院生の女子がある日突然筋膜炎脂肪織炎症候群および皮膚筋炎という難病に罹患し、必死にサバイブしつつ社会保障制度や医療制度と戦ったり、引っ越ししたり、恋したりするエッセイである。

2011-10-11 12:53:21
たられば @tarareba722

『困っている人』書評4/読んでいて、あまりに痛そうで辛そうで本を持つ手に力が入らず、この本を読み終えるまで4度手元から取り落とし、切ない描写に5度涙ぐみ、その軽妙洒脱なユーモアに数え切れないほど笑った。

2011-10-11 12:53:49
たられば @tarareba722

『困っている人』書評5/作中B・アンダーソンやJ・デリダなど、衒学趣味者好みの名前が登場するが、それらに深い言及はない(当たり前)。ミャンマーという名称は軍事政権が勝手に名乗っただけのものであり、筆者が政治的ポリシーを持って「ビルマ」と呼ぶあたりは勉強になった。

2011-10-11 12:53:59
たられば @tarareba722

『困っている人』書評6/筆者 @wsary のTwitterアイコン写真はとてもキュートで、だからこそ痛々しさが増す。表紙にも使われている能町みね子氏の似顔絵イラストは、初見時には「実物(写真)のほうがもっと可愛いのになー」などと不埒なことを思っていたが、

2011-10-11 12:54:10
たられば @tarareba722

『困っている人』書評7/読み進めているうちに各章の扉に配置された能町氏のイラストがいい味を出していることに気づき、適度な「ほのぼの感」が文体にも合っている気がして、読了時にはこの独特のタッチをすっかり気に入ってしまった。

2011-10-11 12:54:21
たられば @tarareba722

『困っている人』書評8/さて筆者は難病女子である。ステロイド20mgを含む30錠前後の内服薬に加え、目薬、塗り薬、湿布、特殊なテープなどで処置されながら、それでも二十四時間途切れることなく熱、倦怠感、痛みが続き、室内での安静状態で「なんとか最低限の行動を維持している」状態だ。

2011-10-11 12:54:35
たられば @tarareba722

『困っている人』書評9/それでも本書にはカラリとした明るさがあり、それが強靱な縦糸となって全編をしっかりと束ねている。積み重なる苦痛描写に加え泣き言も恨み言もありながら、それでも爽やかな読後感を持つのは軽妙なタッチに加え「生きること」への賛美が込められているからであろう。

2011-10-11 12:54:50
たられば @tarareba722

『困っている人』書評10/例えばしかし、「この世界は、歯を食いしばってでも生きていく価値があるものなのだろうか」とは、少しものを考えたことがある人間ならば誰しも通過してきた問いである。

2011-10-11 12:55:01
たられば @tarareba722

『困っている人』書評11/難病を抱え、繰り返される検査のあまりの苦痛に「死なせて、もらえませんか」と主治医に告げた筆者の「世界」は、健康体の人間より何百倍も辛く痛々しく、その問いはより厳しく突き刺さってきたはずだ。

2011-10-11 12:55:26
たられば @tarareba722

『困っている人』書評12/それでも筆者は本書の前書きでこう書く。【疲れ切った顔のオジサンやケータイをピコピコしながら横列歩行してくる女学生たちを抱きしめて「だいじょうぶだから!」と叫びたい気持ちにあふれている】と。繰り返す。本書全体に溢れているのは、「生きること」への祝詞である。

2011-10-11 12:55:36
たられば @tarareba722

『困っている人』書評13/本書から一歩離れて冷静に分析すれば、「あぁ、筆者には、この世界には価値がある必要があるんだな」と思ってしまう。常人が生きる上で感じる、何百倍もの痛みに耐えて手にした「生」は、ただ漫然と与えられたものであるはずがない。

2011-10-11 12:55:52
たられば @tarareba722

『困っている人』書評14/筆者自身が、大切な人とともに苦しみ抜いて掴み取った「生」である。こんなに辛くてこんなに痛くて、ぼろぼろになって掴んだものが「価値ないもの」であるはずがない。

2011-10-11 12:56:03
たられば @tarareba722

『困っている人』書評15/しかし本書を読み進めると、そうしたシニカルな見方をする自分が滑稽に思えてくる。価値や意味は、それを問う者の前にしか存在しない。

2011-10-11 12:56:19
たられば @tarareba722

『困っている人』書評16/そしてこの世界には、ありとあらゆる価値や意味を吹き飛ばすほどの「苦痛」が存在する。それでも人は生きる。生きてゆける。生かされ得る。「わたしが今ここで生きていることが、その証明である」と、筆者は行間で語る。

2011-10-11 12:56:30
たられば @tarareba722

『困っている人』書評17/筆者が持つのは明晰な分析力と文章力だけではない。私が考える、おそらくこの筆者が持つ最大の才能は「共感力」である。学部生時代の筆者はビルマ難民の「痛み」に共感し、寝食を削って講演会を企画し、NGOを手伝い、タイ-ビルマ国境沿いの難民キャンプまで出向く。

2011-10-11 12:56:41
たられば @tarareba722

『困っている人』書評18/筆者の「世界の痛み」に敏感なその共感力は、発病してからも全力で発揮される。担当医の心中を察し、両親や友人の気遣いに痛み入り、同室の患者を慮り、「疲れ切った顔のオジサン」を心配する。

2011-10-11 12:56:54
たられば @tarareba722

『困っている人』書評19/筆者は「世界の痛み」に共感し、自分の辛さや苦しさを一時忘れて共感する。ミラーニューロン逞しすぎ。そしてだからこそ私たちは、筆者の痛みに共感しようとするのだろうか。だとしたら私にはそれこそが、筆者が持つ「生存するコツ」に思えてならない。

2011-10-11 12:57:07
たられば @tarareba722

『困っている人』書評20/また本書の文体について一点ふれておく。全体的に読点が多い。まず一般的に、読点は心身のよくない状況で書き物をすると増える傾向にある。本書がもともとブログ連載であり、横書きであったことを考慮してもまだ多い。

2011-10-11 12:57:19
たられば @tarareba722

『困っている人』書評21/一文書くのに物理的な時間がかかり、何度も見直して、その一行を読ませたいという思いが過剰になって(読者にも立ち止まって読んでほしくて)読点が増える。ここは書籍化にあたり担当編集者がアドバイスしていくつかを削るべきだったとは思うが、

2011-10-11 12:57:40
たられば @tarareba722

『困っている人』書評22/しかし「そこは削れない」と思う気持ちも分かる。この筆者が読点のキーをひとつ打つために耐えた激痛を思えば。むろん、読点を多用する手法が効果的に生きる場面もある。この本でいえば、筆者が検査入院した、キテレツ先生率いる神経内科病練の描写は圧巻であった。

2011-10-11 12:57:53
たられば @tarareba722

『困っている人』書評23/「疾患が知的な部分にまでおよぶ患者たち」に囲まれた筆者は、泣きながら自身の主治医に電話してこう漏らす。「せんせい、わたしは、つらい、です」。まさにその共感する力が筆者を苦しめる。

2011-10-11 12:58:17
たられば @tarareba722

『困っている人』書評24/病練を筆者は「日本社会の最果て」と書く。それは重度の障碍や精神疾患を抱えた人々が、この社会からどう扱われているかを目のあたりにしたからだ。そして私は批判を承知で、そこは「人の最果て」でもあったろうと愚考する。

2011-10-11 12:58:36