バトル・オブ・セイクリッド・ホウチョウ 第2夜

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アキジは流浪のイタマエである。彼の握るスシは、時に人を楽しませ、時に傲慢なるカネモチに頭を垂れさせ、時にニンジャを怯ませ、時に孤独な魂を救ってきた。彼の旅、それは彼の探求の人生そのもの。 今日もどこかで、アキジのスシが、心を握る。

2022-12-14 21:45:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【バトル・オブ・セイクリッド・ホウチョウ】第2夜 pic.twitter.com/azNHcM8r6y

2022-12-14 21:47:36
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しばしの時が経過した。……キョートのスシ・バー、「みよきの」の厨房に、アキジは居た。 1

2022-12-14 21:50:10
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「アキジ=サン」「……」アキジが顔を上げると、戸口に立っているのは「みよきの」の若きオカミ、ユミメである。ユミメは自身のスシ・バーを存続させようと必死になっていた。ブレイクスルーが見いだせぬままカロウシしかかっていた彼女を救ったのが、旅のイタマエ、アキジであった。 2

2022-12-14 21:52:37
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「みよきの」の為、そしてユミメの為、アキジの出来ることは、すべてやった。驚くべきクルマエビのスシと桜色のチラシ・スシによって、アッパーガイオンの料亭を取り仕切る重鎮を唸らせた。縁故と血筋が幅を利かせるガイオンにおいて、それは字面から想像されるよりもずっと困難なことだ。 3

2022-12-14 21:57:10
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この日の客入りも、これまでとは打って変わっての盛況。閉店後の今も、数時間前の熱狂の余韻が、薄暗い厨房に心地よく木霊しているようだ。そんな中、アキジは表通りの風の音を聞きながら、最後の荷造りを終えようとしていた。アキジの持ち物は極めて少ない。最小限の着替えと、イタマエ道具の一式。 4

2022-12-14 22:00:05
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研ぎ終えたホウチョウを明かりに翳すと、刃紋の微かな凹凸、そこに「オンゾ・ナフダ」の銘が浮かび上がる。まるで神秘の宝の隠し場所を知らせる古代仕掛けのプロトコルめいて。アキジはホウチョウを布に包み、しまった。そして向き直った。「ドーモ」「もう、行くんですね」ユミメの声は震えていた。 5

2022-12-14 22:03:47
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「自分、スポット契約ですんで」アキジは言った。「自分が教えられる事はもう、ありません。ネタの捌き方、握り方……。ユミメ=サンは筋がいいです。しかも経営を学んでらっしゃる。従業員のトフロウ=サンとコジタ=サンも、やる気に満ちあふれています。この店は、きっとうまく行きます」6

2022-12-14 22:07:25
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「アキジ=サンのおかげなんです。何もかも」「いいえ。全然違いやす。貴方の力だ。自分、ただ一宿一飯の恩義を受けて、それを返したまでですんで」アキジはバックパックを背負おうとした。ユミメがそれを遮り、後ろから抱きついた。そして震える涙声で囁いた。「……一宿一飯、やめませんか……?」 7

2022-12-14 22:10:47
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アキジの背中が強張った。彼は俯き、その表情は差し込む外の光の陰で覗い知れない。ユミメの言葉が堰を切る。「貴方の背中……岩のようにしっかりとして、優しくて、そして厳しくて……でも……泣いています。私にはわかります。アキジ=サン。私は貴方と一緒に……ずっと一緒に、このお店で……」 8

2022-12-14 22:13:44
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アキジは少し震えた。ユミメの手に触れようとして、躊躇い、そして意を決したように、手首を取って、優しく退けた。「……よしなせえ。それは……貴方の一時の気の迷いです、ユミメ=サン。自分、ユミメ=サンには釣り合わない、仕方のねえ男です。つまらねえ、男なんです」 9

2022-12-14 22:17:24
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「……」ユミメは嗚咽をこらえ、膝をついた。アキジは振り返らない。彼はバックパックを背負い、路上に出た。ユミメは押し殺した感情を小さく爆発させた。「こんななら……いっそ、はじめから、貴方に出逢う事がなければ、苦しくなかった……!」「……!」アキジは奥歯を噛み締め、立ち止まった。 10

2022-12-14 22:21:09
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ヒートリー、コマキタネー。広告音声が道のスピーカーから流れる。アキジは再び歩き出す。決して振り返らずに。歩きながら彼は、傘をひろげた。雪の粒がひらひらと道に舞い降りて、やがて、アキジの足跡を消してしまう。 11

2022-12-14 22:24:17
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「イーグル。ゴリラ。タコ」ジゴクめいた声が、聖獣の名をひとつひとつ唱える。邪悪なるイタマエニンジャ、ブラックウインドが、血濡れめいて赤い布の封印を解いてゆく。並べられたのは、三本の大業物のホウチョウ……オンゾ・ナフダの銘刻まれし、隕鉄の魔包丁である。 1

2022-12-14 22:34:01
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ブラックウインドは銀光を閃かせ、右手に持つホウチョウを突き出した。その刀身には神獣クィリンの紋様がエンボスされている。「そうだ。俺のホウチョウは四聖獣を統べるクィリンだ。俺はこのホウチョウで簒奪者一人ひとりに挑み、血祭りにあげ、奪い返してきた。父の形見をな」「……」 2

2022-12-14 22:38:56
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ブラックウインドのホウチョウの刃の先。アキジは眉間に皺寄せ、石めいて動かぬ。ブラックウインドは唸り叫んだ。「ドラゴンの包丁は最後にした。貴様を最後の相手として取っておいた。この意味がわかるか、アキジ=サン!」「……」「貴様は父を殺し、ドラゴンの包丁を盗んだ!最大の仇だ!」 3

2022-12-14 22:42:30
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魔包丁の切っ先に、運命は凝縮されている。ブラックウインドがほんの少し力を込めれば、アキジの眉間は貫かれ、たやすくその命は果てる。アキジの心臓が強く打った。彼は思いを巡らせた。何故、こんな状況に陥ったか……アキジはそれを考えようとするのか。否。彼の思いは、過去のあの時に飛んだ。 4

2022-12-14 22:47:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……(アキジ=サン)フートンに横たわる老人は呻き声をあげ、枕元に正座するアキジの手を握りしめた。老いた包丁職人は、苦しげに言葉を絞り出す。(頼む。ワシのドラゴンの包丁を、お前が受け継いでほしいのだ)(いけません。こんな根無し草の人間には、オンゾ=サンの包丁は……尊過ぎるんです) 5

2022-12-14 22:51:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(尊いなどと。とんでもない)オンゾは呻いた。(隕鉄より出でし聖獣包丁は災いを呼ぶ。人の欲の、獣をな。ワシはとんでもないモノを……人の手には過ぎたモノを作ってしまった。いいか、包丁を各地に散逸させたのは、他でもないワシ自身だ。良かれと思ってした事なのだ。それが……ゴホッ!) 6

2022-12-14 22:55:06
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(お身体に障りやす)(それが……ゾンゴの一方的な無念を駆り立てるであろう事に思い及ばず……!確かにワシは鍛冶場を捨てた……畏れが、そうさせた!だが、息子のゾンゴはそれを……ゴホッ!ヒューゴホッ!)(オンゾ=サン!)アキジは苦しむオンゾの背中を必死に擦った。 7

2022-12-14 22:58:28
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(ゾンゴはワシの廃業と包丁の散逸が不本意なものであったと思い込んでおる。カネモチがワシの家業を潰したとな。……違うのだ……ワシは……ワシは畏れたのだ。包丁を廃棄し、ハンマーを捨てた。さりとて包丁を破壊する勇気もなかった。ワシの弱さだ。己の成した仕事に、芸術の魅惑に、ワシは……) 8

2022-12-14 23:02:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(休んでくだせえ)(奴は憎しみに駆られ、もはやワシの言葉に耳を貸さぬ!思えばそれすらも聖獣包丁の魔力か……!)(オンゾ=サン!)(ゾンゴは聖獣包丁に心囚われておる!全てを再び集める事が、ナフダ家の再興に、そして復讐になると考えておる……!だが違うのだ……ヒューゴホッ!ゴホッ!) 9

2022-12-14 23:06:52