バトル・オブ・セイクリッド・ホウチョウ 第3夜

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【特別放送中】 現在、当アカウントでは年末スケジュール進行をしています。特別放送として、PLUSコンテンツ内で実況需要の多い、イタマエのアキジを主人公とするエピソード「バトル・オブ・セイクリッド・ホウチョウ」の再構成版が連載中。今夜は、その完結編です。

2022-12-19 21:39:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【当アカウントは】 ・サイバーパンク・ニンジャアクション小説「ニンジャスレイヤー」を連載している ・今は特別編を連載中 ・舞台は近未来 ニンジャと、ニンジャではない一般市民がいる ・実況タグは #ニンジャスレイヤー

2022-12-19 21:41:56
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【これまでのあらすじ】 ブラックウインドは邪悪なるイタマエであり、ニンジャである。彼は散逸した4つの聖獣包丁……ドラゴン、タコ、イーグル、ゴリラの包丁の所有権を主張。それらを統べる神獣包丁を武器に、スシ勝負で所有者を血祭りにあげ、奪取してきた。残るはドラゴンの包丁のみだ。

2022-12-19 21:47:13
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【あらすじ】 ドラゴンの包丁の現在の所有者は……皆さんご存知の、奥ゆかしき流浪のイタマエ、アキジである。非ニンジャのイタマエに過ぎないアキジは筋違いの恨みを買い、卑劣なるスシ勝負を仕掛けられた。審査員は椅子拘束され、ブラックウインドを勝たせねば処刑される。結果は見えていた。

2022-12-19 21:49:35
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【あらすじ】 だが、戦いを放棄するわけにはゆかぬ。アキジが一宿一飯の恩義をうけた料亭「みよきの」の若き女将、ユミメが人質となっている。ブラックウインドはアキジが敗北した場合、彼女を傷つけると宣言している。万事休す。だがアキジは勝負を受けて立った。己が勝ち、復讐鬼の暴走を止めると。

2022-12-19 21:52:42
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【バトル・オブ・セイクリッド・ホウチョウ】第3夜 pic.twitter.com/wIwUGqOz7t

2022-12-19 21:55:56
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「イヤーッ!」ブラックウインドのカラテシャウトが店内に轟いた。宙に投げ上げられたマグロの肉塊がゆっくりと落下する。まるでそれは重力に逆らうかのような緩慢な落下だった。スシのエアクラフト……いわばスシ・クラフトとでも言おうか。そこへブラックウインドの太刀筋が閃いた!「イヤーッ!」 1

2022-12-19 21:57:55
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ブラックウインドのクィリン聖獣包丁が禍々しく煌めくと、肉塊は声なき悲鳴をあげるかのようによじれた。宙に囚われ、切り裂かれ、ゆっくりとマナイタの上に落ちてゆく赤い切り身。……マグロは、泣いていた。美食とは本来、生の喜びである。憎しみの道具として消費される無念に、泣いていたのだ。 2

2022-12-19 22:02:36
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アキジの眉間の皺はひときわ深かった。氷のように厳しい彼の表情は、苦悩と決意そのものだった。その決意が、ドラゴンの聖獣包丁を冷たく輝かせているようだった。ブラックウインドが容赦なきワザを振るう一方、アキジはただ、マナイタの上のマグロに刃を当て、静かに、ゆっくりと引いていった。 3

2022-12-19 22:06:53
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「ア、アアア……」猿ぐつわを噛まされた審査員人質が震え、そして、涙を流した。恐怖の涙ではなかった。残像を伴うブラックウインドの包丁斬撃さばきと、一方のアキジ、ただ実直で着実なマナイタ上の太刀筋。対峙する二人のイタマエは、いわば、動と静……。 4

2022-12-19 22:10:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブラックウインドが放射する渦巻くようなドス黒いキリング・オーラと、アキジの怜悧なるイタマエのアトモスフィアが、このスシ・バー閉鎖空間において拮抗し、空気を歪ませる。ひとつの小宇宙の現出を前に、彼ら拘束審査員は、畏怖と驚嘆によってただただ感極まり、澄んだ涙を流していたのである。 5

2022-12-19 22:14:09
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この勝負にゴングはない。二人のイタマエが再び互いを見た瞬間、申し合わせたかのように、どちらのスシゲタにも、美しいマグロ・スシが完成していた。「フン。それが貴様のスシというわけか」ブラックウインドは呟いた。アキジは小さく頷いた。「……いつものように、全力で握らせていただきやした」 6

2022-12-19 22:18:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無駄だ。全てが無駄……貴様の努力、貴様のワザ、何もかもが無駄だ」ブラックウインドは震える審査員達を振り返った。「このカスどもを見ろ。コイツらは今まさに生死の瀬戸際に居る……貴様のスシを美味いと言う奴は、すぐさま俺が首を刎ねる。こういう風にな!イヤーッ!」 7

2022-12-19 22:21:33
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SLAAASH!ブラックウインドの左手が唸り、チョップが繰り出された。風の一閃によって、刎ね飛ばされていた。……水道の蛇口が。切断面から鮮血めいて水が噴き出した。そしてチョップの軌跡の真空余波によって、審査員達の猿轡が、いちどきに破壊されていた。「アイエエエ!」「アイエエエ!」悲鳴! 8

2022-12-19 22:26:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アキジのスシを褒めれば……こうなる。ならば、すべき事はわかっているな、お前たち?」ブラックウインドは審査員達をねっとりと見据えて念を押した。「ハ……ハイ!」「わかっています!」「貴方様のスシが完全に美味く、アキジ=サンのスシは必ず不味いです!」審査員達は声を震わせ、叫んだ。 9

2022-12-19 22:29:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムサン。何たる卑劣極まるお膳立てか!「そしてアキジ=サン。貴様が負けるたび、そこの女は切り刻まれる事になる」ブラックウインドはあらためて、ザシキで気を失ったままのユミメを指し示した。「愛する女に引導を渡してやれ。貴様のその自信作のスシをコイツらに食わせる事でな!」10

2022-12-19 22:33:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーゾ。お食べなさい」アキジは静かに言った。既に審査員たちの目の前に、人数分のマグロ・スシが配置されている。縛られた彼らの右手だけが自由にされていた。アキジのスシを美味いと言えば、すぐにブラックウインドはニンジャの無慈悲を以て報復するであろう! 11

2022-12-19 22:36:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴方様の勝ちです!」「既に意味がない!」「私達を苦しめないでください!」審査員達は喚いた。途端にブラックウインドは激昂した。「黙れ!カスの分際で我らの勝負を愚弄するのか!?何のために俺がここまでしているのか、わからんのか!」こめかみに血管を浮かべ、真の怒りを見せる! 12

2022-12-19 22:41:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴様ら。しっかりと味わえ。アキジ=サンのスシをな。食わずに俺を勝たせるような思考停止じみたふざけた真似をする奴は、それはそれで審査を投げたと判断し、処刑する」ブラックウインドは言った。「この男のスシの味に全身全霊全ニューロンで向き合い……そのうえで、否定しろ。わかったか……」13

2022-12-19 22:44:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ!」「ハイ、イタダキマス!」「とにかく食べます!」審査員達は先を争うようにスシを掴んだ。十三階段を昇る死刑囚めいた絶望に血の気の引いた者達が、右手のスシを、躊躇いながら口に近づけていった。「ア……ア……?」「これは……」咀嚼!咀嚼してゆく!審査員達の身体が震えた! 14

2022-12-19 22:47:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こ……このスシは」「これは……!」ネタを、シャリを、噛みしめるほどに、審査員達の震えが強まる。「ンンン……」「このスシ……!」それが恐怖の震えではない事を、ブラックウインドは自身のニンジャ第六感でもって察知した。気に入らなかった。 15

2022-12-19 22:50:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

食べさせた上で否定させる。そうして袋小路の無意味を突きつけなければ、真の屈辱と敗北をアキジに刻みつける事はできない。「全力で美味いものを作ったところで、ニンジャの短絡的な恐怖と暴力に克つ事は決して出来ない」……その理不尽を以てこそ、アキジを全否定し、魂を破壊する事ができる。 16

2022-12-19 22:53:38