パスカルの言とされる「無知を恐れるな、偽りの知識を恐れよ」の出典について+α

出典が明らかでない金言・格言は、ニセ科学同様に排除されるべきだと思います。
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みたま @mitama_

【教えて下さい】 「無知を恐れるな、偽りの知識を恐れよ」はパスカルによる名言だそうですが、パスカルはフランス人であり、フランス語による出典が明らかであってもいいはずですが、見当たりません。 誰かご存知ないですか。 pic.twitter.com/kfe0cPPmsm

2022-12-25 18:19:18
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様々な情報が錯綜し、フェイクや陰謀論、感動ポルノが跋扈する中、私はこのパスカルの言とされる「無知を恐れるな、偽りの知識を恐れよ」が好きだったのですが、パスカルの言ならば『パンセ』の一節だろうかと思って調べたら、出典元が全然示されないまま、格言・金言として引用されている向きを感じたので、「これはマユツバものなのでは…」と思った次第です。

awol @takuro1025

@mitama_ Penséesの327の大意を取ったのかと思います 英文 54頁 d2y1pz2y630308.cloudfront.net/15471/document… 仏文 14頁 ub.uni-freiburg.de/fileadmin/ub/r…

2022-12-25 21:55:13

仏語訳
「世間はいろいろなことを判断するが、それは人間の真の座である自然の無知の中にあるからである。科学には、互いに接する二つの極点がある。第一は、すべての人が生まれながらにして持つ純粋な自然の無知である。もう一つの目的は、偉大な魂が、人が知りうるすべてのことを経験した上で、自分にはそれがないことに気づいて到達することである。何も知らないことに気づき、出発点と同じ無知の中にいることに気づく。しかし、それは自分自身を知っている学習された無知である。自然な無知から抜け出した二人の者たち この十分な知識を多少なりとも味わい、耳を傾けさせるのだ。 これらは、世の中を煩わし、すべてを見誤る。 民衆と学者が世界の列車を構成し、これらはそれを軽蔑し、軽蔑される。彼らはすべてのものを間違って判断している 諸行無常、世間はそれをよく判断する。」
(仏文版をdeepLにて翻訳)

うーん…大意として該当し、特に「何も知らないことに気づき、出発点と同じ無知の中にいることに気づく。しかし、それは自分自身を知っている学習された無知である。」が当てはまると言えなくもないのか…

でも、「無知を恐れるな、偽りの知識を恐れよ」って格言は随分大胆な意訳の印象だな…

トルストイ説

lapis lazuli @mipsrisc

@mitama_ パスカルではなくトルストイの名言のようです。下記ブログには出典は書かれてないですが。 finbarrbradley.ie/tolstoy-on-kno…

2022-12-26 05:46:27

It is better to know less than necessary than to know more than necessary. Do not fear the lack of knowledge, but truly fear unnecessary knowledge which is acquired only to please vanity. 

「必要以上に知るより、必要以下に知る方がよい。知識の欠如を恐れるのではなく、虚栄心を喜ばせるためだけに身につける不必要な知識を真に恐れなさい。 」

指摘のサイトには出典がありませんでしたが、
https://www.themarginalian.org/2013/03/15/a-calendar-of-wisdom-tolstoy/
こちらには「September 23」とありました。日付が入ってるから『人生読本』かな。

そして出てきた「誤認・誤用」の可能性

しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ 国立国会図書館デジタルコレクションで「偽りの知識を恐れよ」で全文検索してみたら面白いことがわかりました。この言葉の(コレクション内での)初出は昭和1928年刊行のトルストイ『人生読本』が初出でした。「無知を恐れるな」は(おそらく同じトルストイの元ネタに対して)翻訳にかなり揺らぎがある

2022-12-26 16:17:52
しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ のですが、「偽りの知識を恐れよ」は揺らぎがほぼありません。因みにさらにその後には「偽りの知識から、世界のあらゆる悪が起こるのである」と続きます。しかしこれがパスカルの引用であるとはどの訳書を見ても書いてありません。 この言葉がパスカルと関連づけられて示されている初出は、

2022-12-26 16:18:30
しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ 1939年刊行の日本弘道会の雑誌「弘道」で、戦時下の心構えの一つとして説かれています。そしてそれ以降のどの引用を見ても「格言」として典拠なしに引用されています。 ですので、「トルストイの言を、誰かがパスカルの言と間違えて引用し、それがそのまま広がった」という仮説が成り立ちます。

2022-12-26 16:19:56
しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ その仮説を補強する事実として、トルストイは「一日一善」などと呼ばれる随筆の中で、パスカルの言葉を引用した後にこの文書を書いている部分がありました。その引用元を示す「(パスカル)」という括弧書きが段組の都合でちょうど「無知を…」のすぐ下にあるように見える位置関係になってるんですよね pic.twitter.com/ujDzZ1hxAE

2022-12-26 16:28:24
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しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ この画像は戦前刊行の『大トルストイ全集』ですから、当時のインテリゲンチャはこれを読んで文章を物していたのかも。これの見間違いが原因なのでは…と考えると辻褄が合いそうな気がします。その前のパスカルの文も引用っぽくないし勘違いしやすかったのかも。流石に飛躍した推論ですが。

2022-12-26 16:32:30
みたま @mitama_

@sinomoritsukasa トルストイの可能性について示唆はあったのだけど、よくぞ掘り起こしてくれました。一気にマユツバ感が増して来ました。 twitter.com/mipsrisc/statu…

2022-12-26 16:25:20
みたま @mitama_

@sinomoritsukasa たぶん「複雑な肉体は…」がパスカルによるもので、文末に(パスカル)としてればよかったところを、段組の都合で変な位置になってしまい、尾鰭が付いてしまった…と。 真実に近づいたかも。

2022-12-26 16:42:26
みたま @mitama_

この手の海外の名言・格言のなかで、保守派界隈だとニミッツ提督、アインシュタイン、ビスマルクの言葉が引用されるものの、調査してみると出典が見当たらない、意訳が過ぎてほぼ創作という評価を受けています。 パスカルのそれは愛国心の昂揚とは別次元の話ですが、どうにも本件もマユツバっぽい…?

2022-12-26 15:21:30

ニミッツ提督が詠んだとされる詩について
「諸国から訪れる旅人たちよ この島を守るために日本軍人がいかに勇敢な愛国心をもって戦い そして玉砕したかを伝えられよ」
http://wikippe.e-do-match.com/index.php?title=ペリリュー神社

アインシュタインの天皇観について
「世界の未来は進むだけ進み、その間に幾度か争いは繰り返されて、最後の戦いに疲れる時が来る。そのとき人類は真の平和を求めて、世界の盟主をあげねばならない。この世界の盟主なるものは、武力や金力でなく、あらゆる国の歴史を抜き越えた、もっとも古く、もっとも尊い家柄でなくてはならぬ。世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る。それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。われわれは神に感謝する。われわれに日本という尊い国をつくっておいてくれたことを」
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000066323

ビスマルクの「賢者は歴史から学び、愚者は自分(経験)から学ぶ」の出典について
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&lsmp=1&kwup=ビスマルク&kwbt=ビスマルク&mcmd=200&mcup=200&mcbt=200&st=score&asc=desc&oldmc=25&oldst=score&oldasc=desc&id=1000032733

全部出典不明とのこと。

山本五十六のアレについて。

しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ これ系のインチキ格言でいうと山本五十六のアレも気になります。一文目は本物でしょうが、二文目以降はどうにもデタラメにしか思えなくて…(先程のコレクションでも二文目以降部分の初出は2012年とかなり最近のものでしたし)

2022-12-26 17:03:07
みたま @mitama_

@sinomoritsukasa してみせて、のアレではなくて?

2022-12-26 20:18:56
しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ それですそれです 「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。」には実は続きがあります…という形で語られる 「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」の後半部分のことです。

2022-12-26 21:01:19
みたま @mitama_

@sinomoritsukasa あー、なんか似せた言い回し、程度に捉えてた記憶がありますね。ぼんやり思い出しました。 まさか実しやかに続きとして語られてるのか…権威におんぶに抱っこのフェイクとか、保守派の名折れですね。

2022-12-26 22:31:56

確かに何か聞き覚えていた記憶はあって、私はてっきり山本五十六の格言を引用・似せる形でリーダーシップを説いたものだと思っていたのですが、どうにも「続き」として山本五十六がそういったことになってるっぽい…

ググったら、すげぇ出てくる…
https://www.google.com/search?q=話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず&rlz=1C1AGAK_jaJP953JP953&sxsrf=ALiCzsYiEnSBamEO6RvK60QuBRS5w70RvQ:1672744492956&ei=LA60Y8bnOefs2roPpeG8oAI&start=10&sa=N&ved=2ahUKEwjGrbXqoqv8AhVntlYBHaUwDyQQ8tMDegQIBhAE&biw=2048&bih=1010&dpr=1.25

しのもりつかさ @sinomoritsukasa

@mitama_ 後半部分の言葉選びや助動詞の使い方に違和感がありすぎて(戦前の人なら文末は「じ」で韻を踏みそうなのに「ず」で締めている、「感謝で見守って」とかいかにも現代人っぽいなど)「これ絶対後世の創作だよな…」と疑っています。

2022-12-26 21:03:25
みたま @mitama_

@sinomoritsukasa 前段に比べて後段は承認・感謝・信頼といった抽象的な漢語が続いており、前段の持つ質実な印象がありません。 愛国デマは碌なものではありません。我が業界も間接的に関わっている気がしており、非常にもどかしい思いをしています。 特攻回天「遺書」の謎を追う amzn.asia/d/2vt8TuB

2022-12-26 22:43:15