~人食い草と赤ん坊~

世界樹の迷宮、人食い草の物語。
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ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

人食い草にも矜持があってだのう。柔らかい子供は食べないのさ、ということで育つまで育ててあげる人食い草を。

2011-10-23 23:31:58
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

人食い草がルンルン気分で迷宮を散策していると、人の匂い、これはしめたりとその場に行くが、そこには迷宮の魔物たちが魔物がきをつくってざわついていました。人食い草が何事だい? と小粋に問いかけると魔物垣が開き、そこには籠に入れられ泣き喚く人間の赤ん坊。

2011-10-23 23:34:10
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

食いでがないから、と皆が困っている中、赤ん坊は泣き叫びます。ほとほと困って魔物たちが顔を見合す中、人食い草はひょいっと葉を伸ばし、籠をつまみあげ引き寄せました。ぶらりとゆっくり揺らすと赤ん坊は次第に泣き止み、きゃっきゃと笑い出します。食いでがでるまでさ、と人食い草はいいました。

2011-10-23 23:36:49
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

人食い草は自分の家族が群生する地帯に赤ん坊を連れ帰ります。家族は冒険者としての人間は知っていますが、赤ん坊は知りません。興味深々に籠を覗き込みます。不思議な草達の姿に赤ん坊は嬉しそうです。美味しく育つかな。と一草が言いました。人食い草は、俺が育てるんだ、当たり前だろうと返します。

2011-10-23 23:39:22
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

迷宮内の栄養ある果実などを与えられ、その子はすくすく育ちました。人食い草は満足そうに、美味しくなれよ、とその子の頭を撫でてやり、その子は人食い草の寝床の周りの下草を整備したり、剪定したりとかいがいしく働きだしました。魔物達もその子に会いに来るようになり、いつも大賑わいです。

2011-10-23 23:43:23
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

そして人食い草がその子を拾って14年が過ぎました。その子はもう自由に迷宮内を歩き回り、魔物たちと交流が出来るようになっていました。人食い草はその子が笑うさまを穏やかな表情を浮かべて見ていました。14年の歳月はその子を成長させ、人食い草を老いさせるには十分な時間です。

2011-10-23 23:47:28
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

自由に動き回ることが出来なくなった人食い草、その傍に幼馴染の魔物がやってきます。あの子はどうするんだ、と問いかける魔物に人食い草は茎を傾げます。どうするとは、と逆に問いかけると、魔物が肩を落とし。喰う為に育てたんだろう。その言葉に人食い草は言葉を失ってしまいました。

2011-10-23 23:50:16
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

枯れて、球根となり、長い時を経て転生する人食い草にとって、その子を食べるチャンスは今しかないでしょう。しかし、人食い草には14年もの歳月を共に過ごした子を食べる気にも、食べる体力もありませんでした。ある夜、皆が寝静まって花を閉じた頃合で、人食い草はその子を呼びました。

2011-10-23 23:53:19
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

人食い草はその子に言い聞かせます。今までは行ってはならぬと言いつけてきた階段の先へと行くんだ、と。何故、とその子は問いますが、人食い草はその子を一度茎で抱きしめ、押し出しました。すがりつくその子を何度も何度も人食い草は跳ね除けます。いつしかその子は諦め、階段を登っていきました。

2011-10-23 23:57:31
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

そして数日がたち、人食い草たちの群生地に、甲高い金属音と共に冒険者達の集団が訪れました。彼らは行く手を阻もうとした魔物たちを屠り、その場にたどり着いたのです。年若き家族が立ちはだかろうとしますが、動けぬ人食い草は、逃げるんだ、と言って家族をかばおうとします。

2011-10-24 00:01:34
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

徐々に縮まっていく冒険者達の包囲網。押し寄せる殺意。今まで人を喰らい続けてきた人食い草も、ついに人の手に掛かる時が来たか、とその花弁を閉じて最後の時を待った時。迷宮に制止の声が響きました。花弁を開き、人食い草が見たのは、冒険者達を掻き分けて走り寄るあの子の姿です。

2011-10-24 00:04:46
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

泣きじゃくりながら、その子は人食い草にすがりつきます。人食い草はその子まで冒険者の標的になってしまう、とその子を押しのけようとしますが、しかし老いた枯れかけの体ではどうしようも在りません。その子は泣きじゃくりながら言う。外の人は皆が私を食べるために生かして育ていたって言うの、と。

2011-10-24 00:07:32
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

だから討伐する、と。偉い人たちが決めたって、と。泣きじゃくるその子は言葉を詰まらせながら、外の世界の話をします。そして、その子は人食い草の花弁の一つに手をそえ、自分の肩を齧らせるように引き寄せ、言いました。嘘でもほんとでもいい、貴方に食べられたい。もう離れたくない、と。

2011-10-24 00:12:18
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

その子の言葉に人食い草の家族は息を呑む。その子の行動に冒険者はその手に武器を構る。一触即発の状態で、老いた人食い草は何もいわずにその子を抱きしめるように茎を巻きつけ、そして花弁の中に入ってきたその子に、花弁の中の牙を、ゆっくりと突きたて、花びらを――

2011-10-24 00:15:46
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

――閉じきる事はありませんでした。老いゆえか、人食い草の意思か。人食い草の牙はその子の肩に浅く食い込み、肉を僅かに裂いたのみです。その子の肩口からは血が滴り、代わりに涙は止まり、唇からは言葉が漏れる。美味しくない、と問う言葉が。人食い草は応えます。こんな旨い人間は初めてだよ、と。

2011-10-24 00:20:28
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

そして次の瞬間。その子の背後より飛来した矢が。駆け寄ってきた冒険者が振り下ろした剣が。その場にいた人間達の統べての破壊の術が。人食い草の体に集り、彼の意識は途絶えました。

2011-10-24 00:22:58
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

その場にいた魔物たちは刈り尽くされたのです。

2011-10-24 00:24:12
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

そして、幾度となく、幾度となく、季節が回り、季節が回り。

2011-10-24 00:25:39
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

ある時、彼は目覚めました。

2011-10-24 00:26:12
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

目覚め、初めて自我をもった、転生したばかりの彼が見たのは木張りの天井。そして陶器で出来た器に入れた土の上にいる芽を出したばかりの自分でした。そして目の前には腰が曲がり、顔にはしわを浮かべ、白い髪を結い上げたお婆さんがいました。見覚えがないのに、忘れられない、その顔に、彼は。

2011-10-24 00:30:27