死後 海に浮かぶ 沈む 鯨 クジラ

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郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

淀川のマッコウクジラの一件をきっかけに、鯨骨生物群集について調べ学習をしたので、少しまとめてみようと思います。今回の海洋投棄について、「それが自然な状態だよね」と思った方にぜひ読んでいただきたいです。というのも、マッコウクジラは本来『沈まぬクジラ』と考えられているからです。1/12

2023-01-19 18:26:13
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

私は知らなかったのですが、クジラの仲間には、死後沈むクジラと沈まないクジラがいるそうです。多くのクジラ類は死後その場で沈降しますが、マッコウはすぐには沈まず、海上を浮遊しながら分解されていきます。ヒゲクジラでは、セミクジラとホッキョククジラが沈まないと言われているとのこと。2/12

2023-01-19 18:26:14
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

↓で紹介した沖縄のケースでも、2ヶ月の間、骨が少しずつ脱落しつつも、死体はずっと沈まずに海洋を漂っていたことが記されています。報告文の最後には「マッコウクジラの海洋投棄をする場合は、数ヶ月後でも再浮上して船との洋上事故が起こる可能性がある」との注意喚起がなされています。3/12 twitter.com/anatomygiraffe…

2023-01-19 18:26:14
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

「マッコウクジラの死体が漂着したけれども、様々な事情ですぐに処理することができず、埋設が完了するまで2ヶ月間放置することになってしまったケース」における腐敗状況の経過観察報告、非常に興味深い。2ヶ月で随分分解されたが、2ヶ月間ずっと悪臭被害があったとのこと。 dc.ogb.go.jp/Kyoku/kengyo/k…

2023-01-17 18:31:12
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

「マッコウクジラの死体が漂着したけれども、様々な事情ですぐに処理することができず、埋設が完了するまで2ヶ月間放置することになってしまったケース」における腐敗状況の経過観察報告、非常に興味深い。2ヶ月で随分分解されたが、2ヶ月間ずっと悪臭被害があったとのこと。 dc.ogb.go.jp/Kyoku/kengyo/k…

2023-01-17 18:31:12
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

つまりマッコウクジラの場合は、死後長期間海表面を浮遊し、少しずつ分解され、ポロポロと海底に骨を落としながら漂流していく可能性が高いのではないかということです。大越(2008)では、「頭蓋骨と脊椎骨が同所的に存在する可能性は低いと思われる」と書かれています。4/12

2023-01-19 18:26:17
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

↓のツイートの通り、過去にも海洋投棄したマッコウクジラを定点観察し、鯨骨生物群集の形成に関する研究が行われていますが、前述の大越(2008)の中で「そこに成立した生物群集は自然界のマッコウクジラのそれとは異なる可能性のあることを考慮しておく必要があろう」と但し書きがされています。5/12 twitter.com/anatomygiraffe…

2023-01-19 18:26:17
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

2002年に鹿児島で海洋投棄されたマッコウクジラについては、その後2003-2005年にかけて、無人探査機ハイパードルフィンによる調査が行われ、鯨骨生物群集の形成に関する研究の一端を担ったそうです。今回のマッコウも、その後の経過観察ができるといいですよね。 参考文献→jstage.jst.go.jp/article/kagaku… pic.twitter.com/HzsCivtOWS twitter.com/AnatomyGiraffe…

2023-01-18 23:20:24
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

2002年に鹿児島で海洋投棄されたマッコウクジラについては、その後2003-2005年にかけて、無人探査機ハイパードルフィンによる調査が行われ、鯨骨生物群集の形成に関する研究の一端を担ったそうです。今回のマッコウも、その後の経過観察ができるといいですよね。 参考文献→jstage.jst.go.jp/article/kagaku… twitter.com/AnatomyGiraffe… pic.twitter.com/HzsCivtOWS

2023-01-18 23:20:24
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

2002年1月に鹿児島県大浦町で起きたマッコウクジラ14頭の集団座礁の顛末、壮絶すぎる…。救助、埋設、海洋投棄。次々壊れていく重機やクレーン。一頭を海に沈めるのに20〜30トンの重りが必要なのか…海洋投棄も決して簡単な選択肢ではないことがよくわかる。一読の価値あり。 spf.org/opri/newslette…

2023-01-15 14:08:22
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郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

さて、今回、陸上への埋設と海洋投棄の二つの選択肢が挙げられていました。そして埋設を「ヒトの手による不自然な行動」、海洋投棄を「より自然界の流れにそった行動」と考える方々が一定にいると感じました。6/12

2023-01-19 18:26:18
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

今回調べ学習をして改めて思ったことは、ヒトの手が加わる以上、どうしても自然界での現象とは若干のズレが生じてしまうということです。あの状態の遺骸を沈めることは、自然界ではあまり起きない現象です。そして、その「ズレ」の影響がどれほどなのか、私たちはほとんど知らないのです。7/12

2023-01-19 18:26:18
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

また、処理費についても、過去の例では埋設の方が安価なのですが、「海洋投棄の方がコスト削減」と思っている方も多いようでした。 「自然界の流れに沿っているように"思える"」「より安価な"気がする"」ことが、本当にそうなのかは、きちんと調べて確認する必要があるのだなと改めて感じました。8/12 twitter.com/AnatomyGiraffe…

2023-01-19 18:26:19
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

科博のストランディングデータベースを見ると、埋設は一頭2〜400万、海洋投棄は一頭4〜500万かかるようです。船で曳航する距離によって金額は変動するのだろうと思います。もう少し詳細が知りたい場合、こちらを参照してください↓3/12 twitter.com/AnatomyGiraffe…

2023-01-16 09:33:39
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

科博のストランディングデータベースを見ると、埋設は一頭2〜400万、海洋投棄は一頭4〜500万かかるようです。船で曳航する距離によって金額は変動するのだろうと思います。もう少し詳細が知りたい場合、こちらを参照してください↓3/12 twitter.com/AnatomyGiraffe…

2023-01-16 09:33:39
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

過去の例ではマッコウクジラを沖合に曳航して沈めるのに一頭500万ほどかかっています。海岸に埋設するのも沖合に沈めるのも、どちらも膨大な労力とお金がかかります。労力についてはこちらの記事が参考になるかと思います→spf.org/opri/newslette… twitter.com/garasuhibar/st…

2023-01-15 22:17:34
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

「専門家が埋設を推すのは、骨格標本目当てでコスト度外視だから」と言った意見もみましたが、そんなことはなく、①漂着クジラの大半は埋設している②海洋投棄に比べて低コストなことが多い③いつか予算が取れたら掘り出して骨格標本にできる、という3点に基づく意見かと思います。9/12

2023-01-19 18:26:20
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

費用に関しては、過去の事例は海岸に漂着して近くに埋めたものなので、川から曳航して埋設地に移動する必要があった今回の事例にそのまま当てはめることはできません。ただ、あの規模の船を片道10時間近く動かすとなると、地上で重機を使って作業するよりコストがかかるのではないかと思います。10/12

2023-01-19 18:26:21
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

いずれにしても、大型クジラの漂着は市町村にとっては災害のようなものです。今回、曳航も引き上げも運び出しもスムーズで、作業の配信をみただけでも、関係者たちが多大な労力を払っただろうことが想像できました。11/12

2023-01-19 18:26:21
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

再浮上・再漂着などが起こらずに分解が進み、そしていつか海底の映像を見られたらいいなぁと思っています。 というわけで、ここ一週間ほど、ランチタイムや寝る前のまったり時間を使って調べ学習をして、新たな知識を色々得られて良い経験になりました。知らないことを知るのは楽しいことです。 12/12

2023-01-19 18:26:22
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

参考資料 大越(2008)「浮く鯨と沈む鯨ーその分解過程から推定される異なった鯨骨生物群集の成立プロセス」jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL…

2023-01-19 18:28:08
リンク jglobal.jst.go.jp 鯨骨生物群集 浮く鯨と沈む鯨-その分解過程から推定される異なった鯨骨生物群集の成立プロセス- | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター 文献「鯨骨生物群集 浮く鯨と沈む鯨-その分解過程から推定される異なった鯨骨生物群集の成立プロセス-」の詳細情報です。J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンターは研究者、文献、特許などの情報をつなぐことで、異分野の知や意外な発見などを支援する新しいサービスです。またJST内外の良質なコンテンツへ案内いたします。 46
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

岡部(2021)「那覇空港に漂着したマッコウクジラ -腐敗の経過観察と鯨体の処理方法について-」dc.ogb.go.jp/Kyoku/kengyo/k…

2023-01-19 18:36:13
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

「浮く鯨と沈む鯨」は月刊海洋2008年7月号の鯨骨生物群集特集に掲載されています。他の記事も含めて、大変面白かったです!知らないことたくさんあって勉強になった。 pic.twitter.com/kT4cmE69ym

2023-01-19 18:44:10
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郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

ちなみに著者の大越先生、大変に文章が上手く、とてもとても面白いので、気になった方は図書館などで月刊海洋を探してみるといいと思います!

2023-01-19 18:52:44
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

『自らの産卵死によって川の上流域に有機物を運ぶサケ・マスが川と海をつなぐ生物であるなら、クジラは「浅海と深海をつなぐ生物」であり、さらに「光合成生態系と化学合成生態系をつなぐ生物」ということができるだろう』 とかカッコ良すぎて痺れた。

2023-01-19 18:52:45
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

東京ズーネットさんの「アフリカゾウのうんこを洗ってみたら」にある『ゾウたちは食べるだけではなく、耕し、タネをまき、自分たちのくらす環境を育てていると言えるでしょう』に近いものを感じる名文。 こんな素敵な文章が書けるようになりたい。 tokyo-zoo.net/topic/topics_d… twitter.com/AnatomyGiraffe…

2023-01-19 19:00:15
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

東京ズーネットさんの「アフリカゾウのウンコを洗ってみた」という記事が大変に面白い。写真はゾウのウンチからスイカが芽吹く様子。 tokyo-zoo.net/topic/topics_d… pic.twitter.com/9CvVoW5mVL

2019-11-25 21:20:37
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

補足しておくと、クジラを埋設処理するとなったら、当然土地の確保が必要なので、埋設か海洋投棄は費用だけで決定できるものではないです。このツイートの真意は「より安そう」「より自然っぽい」というイメージのものでも、調べてみたら違うこともあるんだなあという話です。

2023-01-19 19:12:22
郡司芽久(キリン研究者) @AnatomyGiraffe

もしご興味あれば、「肺のような器官をもったデボン紀の魚の話」もご覧ください。肺の起源と進化を追うと、肺という器官の見方が少しだけ変わるかもしれません。 拙著新刊「キリンのひづめ、ヒトの指:比べてわかる生き物の進化」の一章の加筆前のものです。 nhkbook-hiraku.com/n/n92b88f3e4a75

2023-01-19 21:07:26
リンク 本がひらく 比べてみると、生き物の体のしくみが見えてくる!「キリンと人間、どこが違う?」郡司芽久|本がひらく キリンと人間はまったく違う動物――それは本当でしょうか? 生き物を知るうえで比較はとても大事なのです。動物学者で「キリン博士」の郡司芽久さんが、動物の体の「形」の謎やユニークな進化について楽しく解説する新連載。浅野文彦さんによるイラストも必見! 「解剖学」ってなんだろう? 医者ではない。獣医でもない。そんな私が「解剖学」という学問に出会って12年がたった。振り返ると、死と向き合いつづけたこの12年の日々は、生と向き合う時間でもあった。 解剖学は、大雑把にいえば、体の構造を調べる学問である。生きたまま体の内 6 users 208