ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編 #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マルノウチ・スゴイタカイビル頂上。四方に配置されたシャチホコ・ガーゴイルは超自然の深緑色に苔むし、空を塞ぐ蔦植物の天蓋は蛍光色の輝きを脈打たせていた。肘をつき、体を傾けて玉座に座っているのは、最後の狩人にして、おそらくは今のこのネオサイタマの王たる者、アヴァリスであった。  1

2023-01-20 21:49:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスの黒く長い蓬髪は、風もないのに揺らぎ、ざわついている。その奥には山羊角らしきものが垣間見える。彼の纏う黒緑色の衣の表面は、絶えず沸騰している。沸騰の中から不気味な山羊状の生き物が生まれ、また沈む。それを繰り返している。実際に生まれ出でた山羊達は、床のあちらこちらに。 2

2023-01-20 21:56:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それら山羊は震えながら起き上がり、長い髪と黒い衣をまとったヒトじみた姿となる。幼いもの、年経たもの、様々であるが、どれも同じ女の顔をしている。アヴァリスの玉座はスポットライトじみた垂直の黄金光に照らされている。それは天蓋を貫いて彼のもとに降り注ぐキンカク・テンプルの光である。 3

2023-01-20 22:04:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「王」「わが父よ」「偉大なるもの……」クロヤギたちは口々にアヴァリスを称える。玉座に近づき、触れようとする者もある。そうした者のことをアヴァリスは無雑作に蹴飛ばし、あるいは首根を掴んで、己の体に押し付け、再び取り込んでしまう。 4

2023-01-20 22:07:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

粗い網目を形成する蔦の天蓋の外には、異色の空と、緑に覆われたネオサイタマの景色が広がっている。奇妙な景観。異常な速度で時間が流れているようにも、静止しているようにも感じ取れる。空には瓦礫や人の群れが連なり、渦を巻いて浮かび、停止している。アヴァリスがその眺めに飽きる事はない。 5

2023-01-20 22:11:56
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ニンジャ始祖カツ・ワンソー。その影たる「サツガイ」を、同じくカツ・ワンソーの影であるアヴァリスは内に取り入れ、己の一部とした。そして彼は、己が何者であるかを知った。神話の魔女ティアマトが彼のもとを訪れ、秘めたる力を解放へ導いた。ネオサイタマは、たちまちのうちに彼の力に呑まれた。 6

2023-01-20 22:17:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスは生まれながらに貪欲であった。キンカク・テンプルと接続し、命の塊のようなこのネオサイタマをほしいままにして、喰らい、喰らう。とても自然で、己の欲求に矛盾がなく、心地が良かった。だが、さて。ネオサイタマを喰らい尽くし、その後、なにをしたものか。彼は顎を掻いた。  7

2023-01-20 22:22:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そんな先の事は考えずともよいな」彼は呟き、笑みを浮かべた。「その通りです、我が主……先の事などアバーッ!」クロヤギのひとつが足元に這い寄ってくるのを踏み潰し、にじり混ぜながら、彼は目を細めた。「なにしろ俺は狩人だ。務めを果たさんとな。カリュドーンの獣を狩ってやらねばなあ」 8

2023-01-20 22:27:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスの視界は位相を移し、超自然コトダマ空間の荒野を見渡す。アヴァリスはヴァインとして荒野に臨んだ。石板に囲われて佇むセトが首をめぐらし、アヴァリスの視線に応えた。アヴァリスは問うた。『星辰をさっさと巡らせろ、セトよ。この俺がお前のゲームを終わらせてやるぞ』 9

2023-01-20 22:30:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『……今はまだその時ではない』セトは奥ゆかしく首を振った。『星辰は巡らせるものではない。巡るを待つものである。カリュドーンの典範は、この場において最も尊い。私も、無論そなたも、典範をないがしろにする権限は持たぬ。従え、ヴァイン=サン。あるいは、アヴァリス=サン。時を待つべし』 10

2023-01-20 22:34:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ははははは。白々しいことを』アヴァリスは哄笑した。『それをどうとでもコントロール出来るのが貴様だろう、セトよ。この期に及んで何を企んでいる?』『ただ澱みなき儀式遂行を通して、帝国を盤石たらしむ』『まあいい。今はそういう事にしておいてやる。あの眺めには、まだ飽きていないからな』11

2023-01-20 22:38:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスは瞬きし、現世に意識を戻した。シャチホコ・ガーゴイルのひとつの口に、黒いポータルが生じた。そこから這い出したのは、はちきれんばかりに筋骨を発達させたクロヤギ・ニンジャの分身体のひとつ。両手にニンジャの生首を掴んでいる。アヴァリスのもとに歩み寄り、オジギする。 12

2023-01-20 22:43:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よく肥ったな。俺のために」アヴァリスは玉座から立ち上がり、両手を広げた。クロヤギ・ニンジャはアヴァリスに近づいた。アヴァリスはクロヤギ・ニンジャを抱きすくめ、そのまま全身で咀嚼した。別のシャチホコのポータルから、別のクロヤギが帰還した。そちらは棒のように痩せ、長身だ。 13

2023-01-20 22:45:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスはそちらのクロヤギに向き直った。同様に、ハグと咀嚼が行われた。一方、床にうつろに時を過ごしていた別のクロヤギのひとつが、手近の他のものたちを吸収して、カラテを瞬時に高めると、また別のシャチホコ・ポータルに向かって走り出した。「イヤーッ!」回転跳躍し、転移した! 14

2023-01-20 22:48:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「甘まい」「ろめお」「ジェントル翁」「稲妻系・薬品」「電話王子様」「ロルキヤベツ」……オールドカブキチョのネオン看板、その桃紫色の光の連なりは、ネオサイタマにおいても一際猥雑であり、普段ならば一般ネオサイタマ市民を気軽に近づかせぬほどのアトモスフィアだ。だが今は平時ではない。16

2023-01-20 22:57:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「み…見ろ、やったぞ、ネオンだ、頑張れ!」泥と血に染まり、打ちひしがれたネオサイタマ市民が、その妖しい景観に元気づいた。肩を貸したもう一人を励まし、よろめきながら、足元に絡みつく草々を蹴り払い、緑のジゴクを後にして、アスファルトが剥き出しの「安全地帯」に足を踏み入れようとする。17

2023-01-20 23:02:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り。「ジグラット富士」の浄化の力は、オールドカブキチョにぎりぎり届く。この街は、この地域の「安全地帯」の鳥羽口とも言えた。「もう少しの辛抱だ。なあ。ネオン光ってるぜ。飯もある。セイケン・ツキしてる奴なんか、きっといねえよ」「……」もう一人は不明瞭な呟きを返すばかりだ。 18

2023-01-20 23:07:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア!」彼らを目撃し、バケツを取り落としたのはショートカットの少女だった。「ヒト……?ヒトだよね!?」彼らを指差し、叫んだ。「そ、そうだよ。ヒトだ。見ての通り……怪しいモンじゃねえ。顔もあるだろ!」「……!」「俺はケンシンだ。こ、こいつは……トミオ……助けてくれ……!」 19

2023-01-20 23:13:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ケンシンがよろめき、トミオが倒れかかる。少女は駆け寄り、トミオを支えた。「私はワカ。勿論、助けるよ」「良かった……すまん……」ケンシンはガックリと膝をついた。「大丈夫。立って」ワカの目は健全な使命感に輝いていた。そこに、別の声。「よそ者を一目で信頼しちゃいけねえや、ワカ=サン」20

2023-01-20 23:16:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「不如帰」のネオン看板の光の下、ゼリーじみた透明の輪郭が徐々に質感を増し、実体が現れた。ステルスを解いたニンジャの姿だ。三度笠を被り、ドウチュウ・ケープを身に纏った女だった。肩にカタナを背負い、トントンとリズムを取りながら、彼女は言った。「残念だけど、お連れさん、死んでやすぜ」21

2023-01-20 23:22:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「え?」ケンシンとワカは同時に訝しんだ。ワカは慌てた。急速に冷たくなったトミオが、ぐったりともたれかかる。「ア……アイエエエ!」「トミオ=サン!嘘だ……!」動揺する二人には既に構わず、三度笠の女は口に咥えたクローバーをプッと吐き捨て、身を屈めた。メンポが迫り出し、顔を覆う。 22

2023-01-20 23:25:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのまま女は走り出した。ケンシンをめがけ。「アイエエエ!」ケンシンは死を覚悟した。「ブライカン=サン!やめて……」ワカが咄嗟に身構え、女の名を呼んだ。ブライカンはしかし、跳んだ!「イヤーッ!」彼女は低く跳び、回転しながらカタナを振り抜いた!「アバーッ!」 23

2023-01-20 23:28:30