鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』読書メモ

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かんた @0sak1_m1d0r1

新宿紀伊国屋で購入。第一章の途中まで読んだけど、早くも名著すぎる。 pic.twitter.com/FDNpPpC34S

2023-01-12 23:28:23
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かんた @0sak1_m1d0r1

#寝る前に論文読む 62 鳥居万由実「ジェンダー規範と昆虫」(『「人間ではないもの」とは誰か 戦争とモダニズムの詩学』) 「もちろん、男性詩人が常に女性という対象を中心に据えて詩を構想するわけではない。あくまでも多様なテーマ系の一つではある。

2023-01-13 00:36:23
かんた @0sak1_m1d0r1

ただ女性詩人の場合は、このようにミューズを対象として追いかける戦略は取りづらい。女性は「主体」「人間」の規範となる普遍的な「男性的主体」の他者としてのジェンダーを割り振られているためである」

2023-01-13 00:36:34
かんた @0sak1_m1d0r1

「水田宗子の分析によれば、左川ちかの詩は全般的に、都会に住む女性をペルソナとして描かれている。この昆虫はそのペルソナの内面の姿であり、その異質な内面の強烈な露出が、昆虫の繁殖力、電流の速度、グロテスクな空間拡張によって現されているという」

2023-01-13 00:36:46
かんた @0sak1_m1d0r1

「規範からはみ出した女性像のそとに、いまだそれに替わる主体は見出されていなかった。このため、女性が規範からはみ出すみずからの内面を表現しようとする時、そこでは他者化され排除された不気味なイメージに出会うことになる。ここに、女性が書くことの困難の一端があったと思われる」

2023-01-13 00:37:06
かんた @0sak1_m1d0r1

「左川ちかの作品には、昆虫、殻、さなぎ、幼虫といったイメージ系列が特徴的に出現し、これらは仮面というモチーフとも密接に関わりあっているように見える」 「昆虫とは、まず外と内を隔てるインターフェースにある仮面を象徴するものだと考えられる。

2023-01-13 00:37:23
かんた @0sak1_m1d0r1

それは美しく煌めくが、ひんやりと冷たく無機的で、うかつに触れば痺れる「電流のやうな」性質を持っている。他者を包容する伝統的な女性美とは一線を画するものである。

2023-01-13 00:37:39
かんた @0sak1_m1d0r1

(略)その役割は、みずからを保護するための鎧であって、他者の視線を鏡のような光沢で跳ね返しながら自足するところに、重きが置かれているのではないだろうか。自足性という点では、男性を誘惑するためよりはむしろ、女性の自立や自己の自由と結びついてきた洋装とも共通していると考えられる」

2023-01-13 00:37:55
かんた @0sak1_m1d0r1

「ちかも、洋装をする女性の一人として、近代的価値観による個人としての自我と、伝統的共同体の中で期待される女性の役割との間の齟齬を感じていたであろうことは充分に有りうる。こうした時代状況の中で、先に挙げた「昆虫」などの作品は書かれた」

2023-01-13 00:38:12
かんた @0sak1_m1d0r1

「芋虫は、それ自体性的に未熟なものであるが、両性具有を思わせる存在でもある。さらに、ちかの詩でたびたび作中主体を脅かす過剰な生命力の象徴である緑を無邪気にむさぼり食べてしまう存在でもあることは重要だろう」

2023-01-13 00:38:25
かんた @0sak1_m1d0r1

→「昆虫」から左川ちかにのめり込んだので、充実したテクスト分析が読めて嬉しかった。左川の洋装については、去年青学であったシンポジウムでも言及されていたように思うけど、作家、詩人の服装というテーマは興味深い。

2023-01-13 00:41:43
かんた @0sak1_m1d0r1

この広告からイラストを取り去ると、それが与える視覚的な印象は春山の詩とかなり近い。また西洋風の貴婦人や植物というセッティングも、「露台」「黄薔薇」などの登場する春山の詩の世界に類似している。 (鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p112) →モダニズム詩と化粧品広告の関係性

2023-01-16 18:39:25
かんた @0sak1_m1d0r1

「大正時代は、服装や化粧品を選択することで、誰もが理想のアイデンティティを演じることが可能になる消費社会が大きく花開いた。こうした中で、映画女優や俳優をモデルにお洒落をして「見られる対象」として自分を構築することも少しずつ一般化していた」

2023-01-16 18:57:09
かんた @0sak1_m1d0r1

(鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p121,122)

2023-01-16 18:57:13
かんた @0sak1_m1d0r1

野本聡が恭次郎の詩を論じて指摘するように「モータリゼーションの進展と産業の機械化は生身の身体を危機に曝」し、「潜在的な不安」を都市生活者に抱かせる。 (鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p154) →面白い。そういえば、萩原恭次郎の詩にはじめてふれたのは野本先生の授業だった。

2023-01-18 01:10:05
かんた @0sak1_m1d0r1

「貨幣価値や、工場機械の生産効率という有用性を、近代都市は人間存在に押し付ける。そうした環境で、逆にそうした有用性からはみ出すところの、何にも規定されない無用な身体、遊びや居眠りのためにある身体の価値を恭次郎は発見したのではないだろうか」

2023-01-18 01:12:53
かんた @0sak1_m1d0r1

(鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p169)

2023-01-18 01:12:59
かんた @0sak1_m1d0r1

「1922年頃になると日本の民間でも無線電話の部品が制作それるようになり、アマチュア無線の裾野が急速に広がった。早稲田大学の学生であり「ラヂオの天才」と呼ばれていた安藤博は、自宅の六畳間から、ニューヨーク、シカゴ、ロンドン、ホノルルなどの私設ラジオ局と交信していたという」

2023-01-18 01:18:05
かんた @0sak1_m1d0r1

(鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p180) →すげえ

2023-01-18 01:19:38
かんた @0sak1_m1d0r1

「前衛芸術についても、言論弾圧の部署に入り込んでいた軍人たちから「退廃的、亡国的であり、不可解なもの」として非難されるようになり、1941年には詩人の瀧口修造と福沢一郎が検挙され、特に共産党や共産主義への共感者ではなかったにもかかわらず、約7ヶ月の間拘留されている。」

2023-01-19 14:35:35
かんた @0sak1_m1d0r1

(鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p198)

2023-01-19 14:36:12
かんた @0sak1_m1d0r1

「翼賛詩が理想とする主体は、空間軸では、大東亜帝国の領土の中心として、さらに時間軸では、未来へと続く大東亜帝国の年代記の曙に位置付けられ、その位置から役割を明確に与えられていた。そこでは大きな集団的な主体「国体」へと溶け込み、ためらうことなく、行動することが理想とされていた。」

2023-01-19 16:48:39
かんた @0sak1_m1d0r1

(鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p228)

2023-01-19 16:49:19
かんた @0sak1_m1d0r1

「動物や機械といった人間ではないものは、人間の比喩となることもできるが、同時に、言葉を持たず、その内面を推し量れないことから、必然的に物質的な厚みが生じている。その意味の不透明さが、解釈に様々な幅を持たせ、

2023-01-19 16:53:45
かんた @0sak1_m1d0r1

また意味になる前、言葉として分節化される以前の情動や、人間の世界でいうことを禁じられている情動、また制度の中に明確に存在していない存在感覚をも湛えることを可能にしている。」 (鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か』p232) →「人間ではないもの」を考える上で基本となる視座かな。

2023-01-19 16:55:52