政治学による 戦争がどのように発生するのか 解説

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武内和人/Takeuchi Kazuto @Kazuto_Takeuchi

政治、安全保障、軍事に関する研究を紹介したり、時事の問題について呟いていますが。稀に戦争文学の話をすることも。大学でも教えていますが、この筆名で行なっている活動とは一切無関係です。noteに記事を投稿しています。詳細は下記のリンクをご確認いただければ幸いです。

note.com/takeuchi_kazuto

武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

このツイートが予想の100倍以上読まれてしまったので、あらためて注意喚起しますが、このスレッドは20個のツイートで完結させることを意識したので、研究の内容はかなり丸めて紹介しています。政治学の研究者がどんな視点で戦争の原因を考えているのかを、さっと概観する目的でのみご利用ください。1/1 twitter.com/Kazuto_Takeuch…

2023-01-30 20:00:22
武内和人 @Kazuto_Takeuchi

このツイートがTwitterで少し話題になっているようなので、この機会に戦争がどのように発生するのか、そのメカニズムについて政治学をあまり知らない方に向けて解説しようと思います。かなり長いスレッドになると思いますが、戦争のリスクについて自分なりに考えてみたい方はご一読ください。1/ twitter.com/ISOKO_MOCHIZUK…

2023-01-29 21:59:34
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

補足ですが、こちらのツイートで引用させて頂いた望月衣塑子様にくれぐれも礼を失することがないようにご留意ください。そのようなことは私の本意ではありません。せっかくのTwitterなので、ここを有意義な場にしていきましょう。1/1

2023-01-30 20:17:56

解説

武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

このツイートがTwitterで少し話題になっているようなので、この機会に戦争がどのように発生するのか、そのメカニズムについて政治学をあまり知らない方に向けて解説しようと思います。かなり長いスレッドになると思いますが、戦争のリスクについて自分なりに考えてみたい方はご一読ください。1/ twitter.com/ISOKO_MOCHIZUK…

2023-01-29 21:59:34
望月衣塑子 @ISOKO_MOCHIZUKI

なぜ、こんな当たり前の事がわからない大人ばかりなのか 故・加藤周一さん 「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。平和を望むなら戦争を準備せよじゃあない。戦争の準備でなく平和を準備した方がいい。準備は容易に本当の戦争の方へ近づいていく。非常に早く強く」 jcp.or.jp/akahata/aik22/…

2023-01-26 22:44:43
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

まず、戦争が発生するメカニズムはどのような視点から説明できるのかを一般的に考えます。戦争は国家の指導者が武力行使を決断し、それを実行に移したときに始まります。つまり、戦争が発生するメカニズムを説明するには、国家の指導者がそのような行動をとった理由を明らかにする必要があります。2/

2023-01-29 21:59:34
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

研究者は、この行動を分析する際にさまざまな角度から検討しますが、基本は(1)その指導者の個人に注目する、(2)その指導者を取り巻く国内政治に注目する、(3)国外に広がる国際システムに注目する、という3通りの視点を使い分けています。複数の視点を同時に使用する場合もあります。3/

2023-01-29 21:59:34
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

1875年から2004年までに国家の指導者だった政治家の背景を40項目にわたって調査し、戦争を引き起こすリスクが高い属性を持つ政治家を調べた研究があります。その結果、軍人、聖職者、警察官などが高リスクの職歴が特定されています。これは(1)の視点の研究であるといえます。4/

2023-01-29 21:59:35
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

ちなみに、軍人でも戦闘経験がある政治家は戦争リスクが相対的に低くなることが分かっています。詳細はリンク先で紹介した著作を参照ください。 二つ目の国内要因ですが、これは民主的平和論の中で分析されてきた要因で、大学教育でも広く取り扱われている理論です。5/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:35
リンク note(ノート) どんな政治家が戦争を始めるのか?『なぜリーダーは戦うのか?』の紹介|武内和人|戦争、社会、人間を学ぶ|note 政治学の研究者は戦争の原因を説明するためにに、いくつかの要因が作用していることを理論的に想定することが一般的です。国際システムの要因が作用していると想定する場合は、勢力均衡の安定性や国際レジームの有効性を調べ、国内の政治システムの要因が作用していると想定する場合は、政権の支持層の意向や民主的な権力分立の程度を調べます。 しかし、意思決定に関与した個人、つまり政治家の性格や属性を調査する研究者はこれまで多くありませんでした。Horowitz、Stam、Ellisはこの研究テーマに取り組み、計量的アプローチを 4 users
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

この理論では民主主義国間では戦争が起こらないが、例えば中国、北朝鮮、ロシアのような権威主義国は民主主義国に対して戦争を引き起こすリスクが高くなると考えられています。 ただ、軍部支配、個人独裁が抑制されている場合、戦争リスクが低下するとも指摘されています。6/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:36
リンク note(ノート) 権威主義国が武力を行使する条件を説明する『戦争と平和における独裁者』の紹介|武内和人|戦争、社会、人間を学ぶ|note ウィスコンシン大学の准教授ジェシカ・ウィークス(Jessica L. P. Weeks)は国内政治が対外政策に与える影響を分析してきた研究者です。2014年にコーネル大学出版会から出版した著作『戦争と平和における独裁者(Dictators at War and Peace)』は独裁的な政治システムを持つ権威主義国がどのように武力行使を決定するかを説明するモデルを提示し、計量的アプローチや事例分析で裏付けを行った研究です。 Jessica L. P. Weeks, Dictators at War and 7 users 15
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

権威主義国の指導者が戦争を起こすリスクが高い理由に関しては、少し込み入った政治学の説明が必要ですが、ポイントは権威主義は民主主義より政権維持に必要な動員が小さくなるため、不人気な政策を実行しやすくなるということです。政権を独占した政治家は国民に不利益を強制することが可能です。7/

2023-01-29 21:59:36
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

権威主義体制が戦争のリスクを高めるメカニズムに関しては、いくつかの説明がありますが、独裁者に高い戦争リスクがあるといえます。ちなみに、権威主義体制は戦費の負担が増大すると不安定化しやすいため、大規模な動員は避けようとするとも考えられています。8/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:37
リンク note(ノート) メモ 戦争で国民を大規模に動員すると、権威主義体制の存続には不利になる|武内和人|戦争、社会、人間を学ぶ|note 政治体制としての権威主義(authoritarianism)の特性は、個人、あるいは少数の特権的な集団が政権を独占し、あらゆる政策決定から国民の大多数を排除できることです。 そのため、権威主義国の指導者は戦争を遂行する費用、犠牲、損失を国民の大多数に押し付けておき、戦果として獲得した動産、不動産を政権に欠かせない特権的集団に優先的に配分することが可能です。 ただし、これらの考察が妥当なのは、民主化を要求する一部の国民を抑圧し、あるいは懐柔できる場合に限定されています。軍隊に動員された国民は、政治参加の意識 2 users
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

最後の国際システムの要因ですが、戦争のリスクを考える上で特に重要であり、政策論争でも取り上げられることが多い論点です。一般に国家間の勢力関係の優劣が明確で、戦争になった場合にどのような結果になるのか目に見えている場合、戦争は起こりにくくなると考えられています。9/

2023-01-29 21:59:37
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

反対に勢力関係の優劣が曖昧になるほど、挑戦国は標的国に戦争を仕掛けやすくなります。これは抑止の考え方で理解できる現象ですが、ここで大事なのは実質的な軍事バランスというよりも、挑戦国の指導者の認識だということです。指導者の認識は常に実態を正しく反映しているとは限りません。10/

2023-01-29 21:59:38
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

挑戦国の指導者は、自民族の優越を確信しているかもしれず、老化で判断能力が低下しているかもしれません。リスクを慎重に考慮しない性格かもしれませんし、あるいは部下から間違った情報ばかりインプットされているかもしれません。これらは抑止の効果を低下させます。11/

2023-01-29 21:59:38
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

軍事的能力があるからといって、それが必ず抑止に繋がるわけではないことは、抑止論の研究において非常に重要なテーマになっており、最近の研究で国家指導者の心理がよく分析されているのは、こうした知見があるためです。抑止の失敗については過去記事で述べています。12/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:39
リンク note(ノート) 論文紹介 戦力で劣る国を抑止できない3つの要因|武内和人|戦争、社会、人間を学ぶ|note 現代の世界では、抑止戦略が戦争を防止し、平和を維持する基本的な手段となっています。しかし、それが成り立つためには、相手に戦争を思いとどまらせるような軍事態勢を確立しなければならなず、しかも最適な軍事態勢を確立できたからといって、必ずしも抑止が成功する保証はないのです。 今回は、抑止したい相手よりも軍事的能力で優る国家であっても、抑止戦略に失敗することがある理由を検討した論文を紹介しようと思います。 Wolf, Barry. 1991. When the Weak Attack the Strong: Fa 2 users
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

以上を踏まえた上で、ご理解いただきたいのは、3種類の要因を包括的に捉えなければ、戦争のリスクを評価することはできないということです。 軍備の拡張が戦争のリスクを高めるという議論は、3の視点に立っており、リチャードソンの軍拡競争モデルを参考にしたと推測されます。13/

2023-01-29 21:59:39
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

リチャードソンの軍拡競争の古典的モデルは、安全保障、特に軍備管理を考えるための出発点ですが、実証的な妥当性が認められているわけではありません。どのようなモデルであるかに関しては、以下の記事で述べましたが、自身の軍拡が相手の軍拡を誘発する考え方です。14/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:40
リンク note(ノート) リチャードソンの軍拡競争モデルを使って考える国際政治のダイナミクス|武内和人|戦争、社会、人間を学ぶ|note イギリスの研究者ルイス・フライ・リチャードソンは軍拡競争という国際政治の問題を理解する上で数理モデルから有益な示唆を引き出せることを示した研究者です。代替的なモデルも数多く考案されているのですが、この記事ではリチャードソン自身が提唱した古典的モデルを一から解説し、それを使った分析の例をいくつか示してみたいと思います。 モデルの基本的な特徴 リチャードソンの軍拡競争モデルは、国家主体だけで構成された世界を想定し、それぞれが軍備を保有していると想定します。この記事では説明のために、青国と赤国の2か国だけが存在 3 users
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

軍拡競争と戦争のリスクの関連を実証的に調べた研究では、軍備の量的変化だけでなく、質的変化が重要であることが明らかにされています。この論点に関しては1980年代にいろいろと議論がされています。ただ、少し専門的な議論なので、ここでは取り上げません。15/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:40