愛知県豊田市の謎の地名「ブニヨド」に実際に行ってみた→名前の由来は500年以上前の荘園制度にあった

おもしろい…
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道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

日本各地を旅をしながら廃墟、ひなびた風景、不思議な伝承など「人の生きた記憶」を記録・著作しています。廃墟/路地裏/街並み/建築/旅館/医療/民俗学/たまーにポトレ。 調査・原稿依頼など連絡はDM/メールから:polaris453121@gmail.com)fantia.jp/fanclubs/34782

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道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

・謎のブニヨド 愛知県豊田市、旧足助町の山間部の地図を眺めていたときのこと。「ブニヨド」なる地名を見つけて?????なった。…これは一体なんだ?どんな由来だ?いやそもそも日本語なのか?かなり気になり、実際に行ってみることにした(続) pic.twitter.com/BeiADwTrcc

2023-02-12 21:31:47
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愛知県の奥三河や徳島県、秋田県等はいわゆる小字以下の細かい地名が今も住所として使われている。足助もそんな地域で、地図には「月沢」「長クゴ」「イドシリ」など生活に密着していたであろう、どこか懐かしくも不思議な名前が連綿と広がる。だがその中でも「ブニヨド」はかなり異彩を放っている。

2023-02-12 21:32:43
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奥三河に向かったのは春の田植えの頃。山奥を縫うように小さな集落がわずかな水田を抱えて沢沿いに並んでいる姿は、どこか中国山地の鳥取や島根県の中山間地を思わせる。峠を越えるごとに東海の山々を濡らす五月雨も上がっていき、ブニヨドに着く頃には曇り空の下、田植え作業をする人々の姿があった。 pic.twitter.com/VdpQTlUifZ

2023-02-12 21:35:28
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ブニヨドは豊田市の東方、山の合間に位置していた。もとは足助町の旧五反田村の中にあり、到着してみると実に典型的な中山間地の農村といった雰囲気で、「ブニヨド」の名は地図には出てきても、その名が書かれた道路看板などはないようだった。とりあえず住んでいる方に話を聞いてまわる。 pic.twitter.com/jKciplGiu2

2023-02-12 21:38:27
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家の呼鈴を押すと年配の女性が出てきた。「旅の人間ですが、つかのことをお訊きします。ブニヨドって何ですか?由来はありますか?」と単刀直入に問うがやはりというのか「わからない」と返された。家の奥から更にひと世代上のお年寄りも出てきたがそれでも「わからん。ブニヨドはブニヨドや」と言う。

2023-02-12 21:42:03
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女性によれば今このブニヨドに住んでいるのは自分たちの家だけで、周りの人に訊かれたこともないし由来なんて考えたこともなかったという。だが家の表札には「ブニヨド」の地名が書いていると言い、貴重に感じた。田舎によくいる地元の歴史に詳しいお年寄りにも頼ってみたがやはりわからないとのこと。 pic.twitter.com/K4CdHqCp0q

2023-02-12 21:47:27
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周りの地形を改めて観察する。だが本当に沢沿いの田んぼと大きな岩があるのみでブニヨドの音になりそうな自然物はない。強いて言えば、川の「淀み」や川の流れの音から「トドロ」という地名が発生しやすいことにつながるか?と思う程度だった。こうして私のブニヨド訪問は無念に終わった…かに見えた。 pic.twitter.com/2AQ2hEDgf6

2023-02-12 21:49:33
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史料を読み漁って由来が判明

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これだけでは悔しい。帰宅後、とりあえず昔の史料を読み漁ることにした。明治~昭和期にまとめられた村史や地誌を探してみる。すると「ブニヨド」は漢字で書くと「部入土」になること、また昔は「ブニウド」と読んでいたことがわかった(なんでそう訛ったんだよ) pic.twitter.com/aVogzNnDfj

2023-02-12 21:51:19
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そして、さらに読み進めるとブニヨドのすぐ裏手に「不入土」と書いて同じく「フニヨド」と読む地区があることを知り、別の地図で確認すると「ブニョウド」と読むこともわかって「これだ!」と舞い上がることになった。ブニヨドの正体は「不入土」! つまりこの地名、中世日本の荘園制度が由来だわ! pic.twitter.com/KvqeX7hvtY

2023-02-12 21:54:03
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荘園制度について

道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

ここで「荘園」について説明する。めちゃくちゃざっくり言うと日本の平安期の律令制崩壊から戦国末期までの中世日本で続いた農地とその地域の支配制度のことだ。要は主に農地を含む不動産とその支配権を指し、現代風に言えば「村単位の巨大な私有地」と「その地域の支配・被支配関係」的なものである。

2023-02-12 21:56:31
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荘園は当初朝廷やその任命官が管理したが、中央の権力が弱まわると、荘園にかかる租税を朝廷へ納めなくていい権利や、朝廷が派遣した今でいう警察兼税務調査官的な役人を荘園内へ立ち入らせない権利を得る者が現れた。これを「不輸不入権(ふゆふにゅうのけん)」と言う。

2023-02-12 21:58:47
道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

不輸不入権は、その後戦国末まで長きにわたって日本の国土や土地の支配者細分化の根幹を支える制度になった。つまり「ブニヨド」は不入権を得た荘園、「不入土(ふにゅうど)」に由来すると考えられるのだよ!!!

2023-02-12 22:00:53

豊田市以外にも同様の由来の地名が

道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

ちなみに、静岡県袋井市には「不入斗(ふにゅうと)」、福岡県那珂川市には「不入道(ふにゅうどう」という地名がある。また東海地方や関東地方には「不入斗」と書いて「いりやまず」と読む地名がいくつかある。これらも同じく不入権がある土地、「不入土」が由来と考えられているそうだ。

2023-02-12 22:04:37
道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

歴博で調べてみると、ブニヨドがある足助付近は鎌倉時代末に足助庄として成立し、八条院や昭慶門院、皇室の土地であった。その影響だろうか、この地にいた足助氏は南朝方に付き、室町期に没落した。その後は足助鈴木氏が足助庄を支配し、江戸時代を迎えるころに荘園として解体されたという。

2023-02-12 22:08:09
道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

500年以上も昔の土地制度に由来する名前が今も残ってるというわけなのだった。地名と方言は昔の言葉を残しやすいとよく聞くけれど、これほどその実力を実感する瞬間はそうない。驚きである。足助氏や鈴木氏が聞いたら「うわ…オレらの名残…残りすぎ」と思うかもしれないわね。 謎のブニヨド・おわり pic.twitter.com/vSsvTCQd6k

2023-02-12 22:17:40
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道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

補足すると地図の右端にある「六月デン」は漢字で書くと「六月殿」らしい。すぐ近くに「五月殿」、その隣の土地は「御用田(ごようでん)」と読むかつて寺社や偉い人が耕作する土地だったことを指す地名もあったりで、奇祭「花祭」の印象が強い奥三河はやはりいろいろ埋もれた何かがありそう…。

2023-02-12 23:11:49
道民の人@ひなび旅館本 COMITIA143(2/19) J11b @North_ern2

かように、日本各地の謎な地名、変な地名の現地に行って由来を調べたり、実際に住んでいる人の話を聴いたりもしています。例として、こちらをどうぞ。四国山地の謎の地名・京都です。 【四国、京都集落】 ――山の上にも都のさぶらふぞ fantia.jp/posts/448288

2023-02-13 00:05:45
リンク ファンティア[Fantia] 【四国地方】 四国、京都集落 ―山の上にも都のさぶらふぞ - 記録舎 貮號分室 (道民の人)の投稿|ファンティア[Fantia] 京都。 千年以上にわたって日本の都がおかれた、言わずと知れた古都である。数百年以上の歴史を持つ寺社仏閣が至るところに存在し、古今東西入り混じった独特の文化と景観が形成された都市でもあり、また同じ京都市であってもいわゆる「洛外」と呼... 4 users 1

2019年時点でこの答えにたどり着いている方が

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