戦間期の戦車と「対対戦車砲装備」としての機関銃?

戦間期の戦車には機関銃をやたらに沢山装備したものがありますが、それを対人目的だけの装備ではなく「対戦車砲への対抗手段」としても考えてみるとどうだろう? というおはなし
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

戦間期の戦車には機関銃を沢山詰んだり、さらには機関銃のみを連想で装備していたりする戦車がしばしばありますが、これは対人馬のみならず、実は対戦車砲との闘いを考える上でも意味があったんじゃないかしらという気もしています pic.twitter.com/DAaZC8jeMv

2023-02-18 17:42:36
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

前提として、機関銃というのはとてもよく出来た殺戮機械です。たった1挺でも恐ろしく効率的に人馬を殺傷することができます(というか、1挺で効果が物足りないような中途半端な機関銃は淘汰されてしまうのでしょう)。すると人馬の相手だけを考えるなら、戦車に積む機関銃は1挺でも十分そうなものです

2023-02-18 17:56:36
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

ただ死角がないように機関銃を置きたいとか、同時に複数方向をカバーしたいとかいうことを考えると、機関銃を複数積むことにも意味があります(死角の少ない効率的な配置ができるなら機関銃の数は減らせますが)。しかしこれだけでは射角が重なった複数の機関銃や多連装装備を説明できない pic.twitter.com/muFRQcWtqU

2023-02-18 18:00:48
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

ところで戦間期の戦車にとって、対戦車砲や野砲はたいへんな脅威でした。とくに対戦車砲はシルエットが小さいので見つかりにくく、戦車が砲を直撃させて潰すのはなかなか骨が折れる相手です。でも対戦車砲との闘いで戦車の機関銃も勘定に入れてよいことになれば、もうちょっとマシに戦えます pic.twitter.com/FjdiuH5uEh

2023-02-18 18:09:44
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でも野砲にせよ対戦車砲にせよ、砲員を守る防盾を備えています。機関銃で撃っても効きはしないのでは?という気がするかもですが、そうでもありません。そもそも小さな防盾では全員をカバーしきれないし、心理的効果として照準を乱したり射撃速度を落したりすることも期待できる。それだけではなく…… pic.twitter.com/qCF0dBd2aj

2023-02-18 18:14:34
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防盾つき野砲と銃で撃ち合っても勝ち目はない、というのは第一次世界大戦半ばまでは事実でした。しかし野砲の防盾というのは精々厚さ3~5mm程度で、中遠距離からの小銃普通弾になんとか耐える程度のものです。分厚く重くなると砲の運動性を下げてしまうので、必要最低限の厚さで済ませてるのです pic.twitter.com/ICMSS1bhSg

2023-02-18 18:23:32
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しかし1915~16年あたりから、各国で小銃用の徹甲弾が開発・採用されるようになります。この手の弾としては対戦車装備としてのドイツのK弾が有名ですが、戦車の脅威に晒されなかった他国でも、火砲や銃眼の防盾を抜くために小銃徹甲弾の必要性が出てきていたんですね pic.twitter.com/g8xloRaQFA

2023-02-18 18:26:07
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

小銃徹甲弾の装甲貫通力はもちろん物によって様々ですが、まあだいたい距離100mで10mm装甲を抜くとかそんな感じです。野砲の防盾はそれよりずっと薄いものですから数百m単位の距離で抜いてくるでしょう。つまり戦車の車載機関銃に徹甲弾を持たせると「対対戦車砲装備」たり得てしまうのです

2023-02-18 18:32:28
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

また小銃徹甲弾での射距離と貫通力の関係は大砲の徹甲弾とは少し変わってて、「7mm装甲に対して距離400mでは命中弾全てが貫通、800mでは半分弱が貫通、1000mでは全弾不貫」のように確率の入り込む余地がかなり大きい。これと命中率とを合わせると、機関銃で対戦車砲を潰すのは近づくほど容易になります

2023-02-18 18:40:56
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

歩兵にとっては、小銃徹甲弾で野砲の防盾を抜ける距離まで近づいて撃ち抜くというのはなかなか難しい仕事でしょう。でも戦車には銃火飛び交う戦場でもある程度の運動の自由を保障してくれる装甲と脚があります。車載機関銃の有効射程まで近づいて対戦車砲を潰す、ということはわりと実現可能性がある

2023-02-18 18:43:02
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

そして戦車と対戦車砲の闘いは時間との勝負です。相手がこちらに当ててくる前に、命中率と貫通確率を乗り越えられるだけの多数の銃弾を浴びせたい……となると、銃弾の数が物を言います。ただ死角を無くすために多数の機関銃を持つだけでなく、特に前方に多数を同時に向ける配置に意味が出てくる pic.twitter.com/NlhXy2CbZ1

2023-02-18 18:51:15
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ただし対戦車砲は的も小さいですし、ただでさえ命中率の劣る行進射であまり遠くから機関銃を撃ちまくるのは効率的ではありません。なので例えば当時のソ連では、照準の確実性やら防盾を抜ける確率やらなんやらを考えると、機関銃は600mあたりから撃ち始めるのがよかろうといったことが言われていた様子

2023-02-18 19:04:17
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

では車載機関銃の有効射程である600mに近付くまではというと、ジグザグ射撃で対戦車砲側の照準難しくしてやります。逆に近距離では砲弾の飛翔時間がごく短いためジグザグ射撃の効果は薄いので、一旦近付いたら真っすぐ突っ込んだほうが良いとも。こんな感じで対戦車砲に向かっていくわけです pic.twitter.com/WGTUKuMKfq

2023-02-18 19:09:30
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

「ジグザグ射撃」ってなんやねん。「ジグザグ走行」ですね。 ところでジグザグは英語で「zigzag」、ロシア語でも「зигзаг」と、割と万国共通めいた言葉なんですね。元はフランス語、さらには古いドイツ語での「歯」の繰り返しだとかいう説も。へー twitter.com/FHSWman/status…

2023-02-18 21:37:12
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

そのように対戦車砲と戦う戦車を考えるとしたら、以下のような性能を持つのが望ましいでしょう ・中遠距離でなら対戦車砲に耐えられる程度の装甲 ・前方のある程度広い角度に多数の機関銃で同時射撃できる ・発射速度とある程度の榴弾威力を兼ね備える主砲 ……割と近い奴、見覚えありますね? pic.twitter.com/qLLc7iIPYR

2023-02-18 19:16:37
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

そしてソ連的にそれを料理すると……? そう、実際T-28の当初の要求仕様は正にそんな感じでした 「機動戦および陣地戦での防御陣地の突破用。装甲は距離750mからの37mm砲弾に耐えること。45mm砲、3挺の同時使用可能な機関銃を搭載……」 先の図のやりたい事をほぼそのまま形にしてます pic.twitter.com/0VYIAcDUPQ

2023-02-18 19:24:21
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

また「対対戦車砲装備としての車載機関銃」という考えで見るとI号戦車も興味深いです。こいつは訓練用とか言われたりもしますが実は結構ガチで、装甲は薄いけれども高品位だし、何より機関銃をわざわざ連装で積んでます。これは対人用では意味は薄いものの、対戦車砲を考えると先述ように意義がある pic.twitter.com/FFfTTWboez

2023-02-18 19:34:27
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

I号戦車は機関銃しか武装がなくて、対戦車砲陣地にぶち当たったらひとたまりもないようなイメージがあります。でも実は開発段階の見積もりでは、こいつの部隊はある程度の損害を織り込みつつも対戦車砲陣地を突破できるという見通しがありました。迂回とかではなく、正面から殴り合ってです

2023-02-18 19:38:11
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

I号戦車の弾薬箱に入っているのは7.92mm徹甲弾と徹甲曳光弾だけです。これで中距離から対戦車砲の防盾を抜けるのですから、対戦車砲側も到底無傷ではいられません。I号戦車と対戦車砲の戦いは白黒つく一方なものではなく、双方血まみれのグラデーション的な戦車側の勝利となる見積もりだったのでしょう

2023-02-18 19:45:44
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

ところで機関銃の徹甲弾で対戦車砲の防盾を抜かれてしまうということなら、対戦車砲側としては防盾の装甲厚を増すという選択はあり得ないでしょうか?これは意外に難しいものでした。というのも人力で素早く移動させたい対戦車砲にとっては、ごく薄いものでさえ防盾はたいへんな重荷なのです

2023-02-18 19:49:49
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

例えば3.7cm Pakの初期の型では放列重量は310kgとかです。防盾は厚さ5mmの装甲を大傾斜配置とし、500mからの小銃普通弾に耐える想定として作られました。防盾のみの重量はハッキリしませんが、面積は1.6m2程度っぽいので推定62kgかしら。なんと防盾だけで重量の2割も食っているのです pic.twitter.com/FI8aaUysS7

2023-02-18 19:55:37
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

もともと1920年代的な理想像としては、対戦車砲の重量は戦場での人力での素早い移動を可能とするためにみ200kg以下とかに抑えたいものでした。つまり3.7cm対戦車砲は既にして重すぎるものなので、ここから防盾を強化して重量をさらに増すというのはちょっと避けたいというのも無理からんものです

2023-02-18 19:57:50
えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

対戦車砲が何かを諦める代わりにもっと重くなることを許すなら、開き直ってついでに防盾を分厚くすることもあり得ます。実際、英国2ポンド対戦車砲は小口径対戦車砲としては異例の放列重量800kg超に達していましたが、防盾も重量級で厚さ8mmもあります pic.twitter.com/zTaRJLE05g

2023-02-18 20:03:29
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

盾と矛の品質次第ではあるでしょうが、軽微な傾斜つき8mm防盾となると小銃徹甲弾にも400mあたりまで割と耐えてくれそうです。2ポンド対戦車砲は側面に追加防盾を付けて半砲塔みたいな形態にすることもできますし、コイツはどうやら戦車から浴びせらる機関銃をかなり考えた砲だったように思えます pic.twitter.com/ln79pHo2ub

2023-02-18 20:08:19
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えすだぶ@C101二日目東3ア50b @FHSWman

そう、面白いことに「対戦車砲の重装甲化」という流れが微かながらも存在するのですね。3.7cm Takでは小銃普通弾対応の5mm厚だったのが、さらに傾斜角度を増してみたり、あるいは7mmとかに厚く、それとも4+4mmの2枚重ね……などなど小銃徹甲弾まで考えてそうなものが増えてきます pic.twitter.com/MuXgMG43q6

2023-02-18 20:25:53
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