さて、それではお話のはじまりはじまり。 むかしむかし、モン'ドのお城がまだなかった頃。そこには森があり、イノシシの国がありました。 イノシシの国の王さまはたいへん立派な王さまだったので、イノシシの国は豊かでみんなが幸せでした。 pic.twitter.com/HgZtOssRnh
2023-03-05 20:50:47国中のイノシシ達が毎日鼻を鳴らして王さまをほめたたえました。 ふん〜 ふん〜 王さま万歳! 王さまがいれば、毎日おなかいっぱいご飯が食べられる。 ふん〜 ふん〜 やさしい風神さまありがとう! 王さまにすてきなお姫さまをさずけてくださった。
2023-03-05 20:52:04そう、イノシシ王にはかわいいお姫さまがいたのです。 お姫さまは森でいちばんの美しい鼻と、いちばん白い牙と、だれよりもなめらかなタテガミを持つ、とてもやさしいイノシシでした。 甘ずっぱいラズベリーも、シャキシャキのリンゴも、おいしそうなキノコも、まずはみんなにあげました。
2023-03-05 20:54:04さて、みんなにおいしいものをいっぱい食べさせてあげられる豊かな国を作った王さまですが、王さまにも豊かにできない土地がありました。 それは森の北側にありました。 その頃やんちゃだったバル’バトスさまがまだ行ったことのないところだったので、春風がとどかず、ずっと寒いところだったのです。
2023-03-05 20:56:02そこは白い雪と冷たい氷に満ちた、息も凍る世界です。足をふみ入れた生き物はだれもが凍えてしまいました。 おおぉう 寒いぞ!寒い! 寒すぎてわしのひづめが割れそうだ! ふんよぉ〜 ふんよぉ〜 寒いぞ!寒い!冷たすぎてわしのひづめがむらさきだ! 氷原に来た王さまは言いました。
2023-03-05 20:59:24森でいちばん立派で強くて勇敢な王さまも、冷たい氷原には耐えられなかったのです。 だけれど、そんなところにひとりで住んでいるオオカミくんが居たのです。 どうしてオオカミくんは寒い氷原にひとりぼっちでいるのでしょう? オオカミくんの話は、おやすみ… また明日。
2023-03-05 21:00:39今日はオオカミくんのことを話そうね。 北の氷原にひとりで住むより前、森にいたオオカミくんは明るく屈託のない子でした。 晴れた空のような明るい青の瞳、つややかな灰色の毛、そして威嚇する姿はモン'ド大聖堂にあるレリーフのオオカミのように迫力がある美しいオオカミだったのです。
2023-03-06 21:21:03そんな、悩みもなく毎日が楽しくて幸せそうなオオカミくんを見て妬ましく思う者がいました。悪い魔神や龍のいないこの古い大地でいちばんの邪悪、リスのウーバークァです。 この世の全ての美しいものを憎んでいたので、あらゆる美しいものをみにくくして、光を闇にかえようとたくらんでいました。
2023-03-06 21:21:23オオカミくんを見たウーバークァは憎しみをあらわにブツブツとつぶやきます。 グルル グルルッ あいつの心臓にこの世でいちばん冷たい氷をぶっ刺そう。氷のように冷たく二度と希望の光を感じられないようにしてやるのだ! ウーバークァはオオカミくんに呪いをかけようと呪文をとなえます。
2023-03-06 21:21:46ぱくり ウーバークァは大慌てです!突然食べられそうになっていることに気づいてカンカンに怒ったウーバークァは、オオカミくんの口の中から生まれてからおぼえた汚いことばを言える限り言ってやりました。 ようやくオオカミくんはじぶんの口の中からへんな声が聞こえるのに気がつきます。
2023-03-06 21:22:12リスをくわえたオオカミくんは心のなかでつぶやきました。 おっと ごめんよ、リスさん きみは食べられるリスだと思ったよ! それからごくん、とウーバークァを飲みこんでしまいました。
2023-03-06 21:22:42すると、どうしたことでしょう! オオカミくんのおなかの中でウーバークァの呪いが牙を剥きました。 極寒の氷がオオカミくんの心臓を突き刺します。オオカミくんの心は冷たく凍りついてしまいました。 もう誰とお話しても悪口しか言いません。 みんなが悲しくなることしか言いません。
2023-03-06 21:23:06だんだんオオカミくんはみんなから嫌われるようになってしまいました。 森のオオカミ達はこう言います。 ワォー ワォー わがままなやつ あの子は嫌い! ワォー ワォー そうよ そうよ。本当に薄情者。誰もあの子に近づくな! 次々となかまがいなくなりオオカミくんは森の嫌われ者です。
2023-03-06 21:23:34オオカミくんはひとりぼっちになった後、しかたなく北の地へ行くことにしました。 厳しい吹雪も冷たい氷原も心が凍りついたオオカミくんには恐ろしくありません。誰もが寒くて怖くて近づかないこの場所に住みはじめたのです。 オオカミくんの心を溶かす存在は、また明日。あたたかくしておやすみ。
2023-03-06 21:25:49オオカミくんの話を知りイノシシのお姫様は胸を痛めて涙をながしました。 そして、どうやったらオオカミくんの心臓に刺さった氷を溶かして、元のいい子に戻してあげられるのか国中のどうぶつ達に聞いたのです。 お姫さまの問の答えを知っていたのは森の賢いもの達でした。
2023-03-07 22:27:00コンコンコン〜 真心と炎だけが心臓を凍らせる呪いの氷を溶かせる! コンコンコン〜! 知恵者のキツネくんが大きな声で言いました。 友情に犠牲はつきもの。犠牲の上にこそ友情はなりたつ。 悪いがわしはキツネくんのようには叫ばんよ。 長生きのカメじいはこう言った。
2023-03-07 22:27:25お姫さまは賢かったのですぐにふたりの賢者の言ったことがすぐにわかりました。涙をふいてふたりにこう言います。 ふん〜 ふん〜 ありがとう。ふたりには私といっしょについてきてほしいの。私たちの友情の誕生を見とどけてくれるかしら。 キツネくんとカメじいは喜んでお姫さまについて行った。
2023-03-07 22:27:47オオカミくんの心臓の氷を溶かして、おともだちになるために冒険に出たお姫さまとふたりの賢者は極寒の北の大地にやってきました。 あたり一面が雪と氷に包まれてこんな所ではだれもあたたかい草むらも、新鮮なくだものも、ありつけないでしょう。 みんなあまりの寒さにふるえてしまいます。
2023-03-07 22:28:24寒さに負けずお姫さまは吹雪の中をすすみました。骨を刺す寒さに耐えられなかったのはキツネくんとカメじいです。 コンコンコン〜 こんなに寒くてきけんな場所で冒険なんて王さまがしんぱいするよ!帰ろうよ〜!コンコンコン キツネくんが大きな声で言いました。
2023-03-07 22:29:38左様。吹雪はどんどん激しくなっていく。少し休み、風が止んでからすすむんじゃ。 悪いがわしはキツネくんのようには叫ばんよ。 カメじいが言います。 だけどもお姫さまは極寒の地の中へすすみつづけることを決めました。
2023-03-07 22:30:18なぜでしょう。 お姫さまにとってまだ見ぬ友人を救うことよりもだいじなことなんてなかったのです。 さんにんの前には極寒の雪山が待ちうけています。お姫さまはオオカミくんの所までたどりつけるかな? つづきはまた明日。
2023-03-07 22:30:41さてさて、極寒の地にふみ入り、お姫さま達は足と爪が凍てついて吐き出した息が氷になってしまうまで歩きました。 そして、雪山に流れる氷の張った川のほとりで寒風に漂う妖精と出会ったのです。 雪山の上に住む、いにしえの知ある彼女たちは実体はなくとも強力な魔力を持っていました。
2023-03-08 20:50:36お姫さまは寒さで感覚がなくなった足を震わせながらも礼儀正しくたずねました。 ふん〜 ふん〜 あなたがここのあるじですか?どうかお願いです。この吹雪から抜け出す道をおしえてくださいませんか? キツネくんもカメじいも妖精を期待のこもった眼差しで見つめます。
2023-03-08 20:51:06フー フー 妖精は軽やかな声でかえしました。 いいよ。フー フー でも…… そのかわり、きみ達の体力をもらうよ。きみ達が吹雪の中をすすめばすすむほど、どんどんおなかが空いて、どんどん寒くなるからね。まあ、命の危険はないんじゃないかな…多分ネ。フー フー
2023-03-08 20:52:26クンクン 吹雪の妖精の言うことだもの。 それに、私のことを大切にしてくれている国いちばんの賢者達がみかたについているのだもの。なにがあっても大丈夫よ。 お姫さまはそう思いました。 そして躊躇することなく妖精の話をうけ入れたのです。
2023-03-08 20:53:00