小説『2031年 ナカモトサトシ めざめる』をツイッターで連載します

小説『２０３１年 ナカモトサトシ めざめる』 by 猫文Ⅱ @NakamotoAwakes

第１章 〈ナカモトめざめる〉　ナカモトサトシの取引記録

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２０３１年１月２０日、前代未聞のできごとが起こる。

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〈ナカモトめざめる〉――ナカモトがふたたび目覚めたのである！

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世界じゅうのテレビ局や新聞社がいっせいにこの事実を一大ニュースとして報道し、ＳＮＳでも、♯ＮａｋａｍｏｔｏＡｗａｋｅｓが一日あたりのハッシュタグ件数で過去最高を記録する。

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ナカモトとは言うまでもなく、ビットコインの創始者・ナカモトサトシその人である。といっても、彼もしくは彼女の正体はいまなお不明である。

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そして〈ナカモトめざめる〉とは、ナカモトがマイニング報酬として獲得したと推定されていた１１２万５１５０ＢＴＣが、ほんとうにナカモトによって所持されていて、そのうち約１００万ＢＴＣがいまや何者かへ送金されてしまった、という事実をさしている。

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きょう現在、ビットコイン価格は１００万ドル／ＢＴＣあたりを推移している。１０年前の２０２１年から、ビットコイン価格は約２５倍に上昇したのだ――価格は保有者数の２乗に比例する、というメトカーフの法則にしたがって。

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よって、ナカモトが送金したビットコインは、１００万×１００万で約１兆ドル、日本円に換算して約１３０兆円の価値がある！

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この１３０兆円の衝撃を、日本銀行の行員である津上は次のように表現する――

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１３０兆円といえば、きょう現在の日本銀行券の累計発行額とほぼ同額だ。ビットコインは信用創造しないが、もし仮にするとすればナカモトは、日本経済をまるごと１個まかなえる金額のビットコインを送金したことになる！　と。

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あるいはもし津上が財務省に勤めていたら、１３０兆円は日本のことしの一般会計予算とほぼ同額だ、と表現したかもしれない。

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津上はマグカップのコーヒーをひとくち含んで味をたしかめる……うん、にがい。

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とすれば、〈ナカモトめざめる〉はやはり現実に起きたのだ！　夢じゃない！

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ふと、机のうえの棚の本に目がとまる。

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『ナカモトは電子通貨の夢を見るか？』――おととし２０２９年１月にビットコイン生誕２０周年を記念して出版されたベストセラー伝記本である。

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津上は久しぶりに手に取って開いてみる。パラパラとめくり、ナカモトの軌跡をたどってみる。

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【ナカモトは２００８年１０月３１日に、ビットコイン構想について記した白書『ビットコイン：Ｐ２Ｐ電子通貨システム』を、ｂｉｔｃｏｉｎ．ｏｒｇで発表した。Ａ４サイズで８枚の、英語で執筆されたＰＤＦ文書である。ナカモトが同サイトを設立したのは８月８日なので、ナカモトは本業の仕事が

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どんなに忙しかろうが、白書の執筆にたっぷりと時間をかけ、綿密に推敲を重ねたことが推察される】

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津上は感心する――この論文ならぬ白書が認められて、ナカモトは２０１６年のノーベル経済学賞にノミネートされたのだから、ほんとうにすごい！　と。

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つづきを読み進める。

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【その執筆途中の９月１５日に起きたリーマンブラザーズの経営破綻は、ビットコイン白書の執筆に大きく影響をおよぼしたはずである。リーマンショックはまさに既存の金融システムの失敗である。ナカモトは、中央銀行にたよらない新たな金融システムの創造がいまこそ必要だ、という確信を

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ますます強めたにちがいない】

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そう、ビットコインはリーマンショックにたいする反動の産物でもあった。津上はこの当時、大学４年生だったことを思いだす。