【GENSHIN】砕夢奇珍 月光【講談完結】

続きが聞ける茶博士劉蘇の二次創作講談
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次回お楽しみに @cha_boshi

皆さんは骨董品はお好きかね? 骨董品店の雰囲気はなんとも独特だ。歴史を留めているように空気すら止まっている様に感じる。 舞い上がる埃を煌めかせる薄日に翳して視ればなんとも素晴らしい品の有る物に見える。因みに気に入った物を宝物にするコツは、真贋を鑑定しないことだよ。

2023-03-10 22:07:16
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噂では、その骨董屋は町のどこか、風に忘れ去られた場所にあるのだとか。 訪れるには手順を踏む必要がある……噴水の前で目を閉じて、心臓の音に耳を傾ける。鼓動が35回打つのを待ってから噴水の周りを時計回りに7周、反時計回りに7周巡って目を開ける…… pic.twitter.com/NgVUoLgVcs

2023-03-10 22:11:31
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もし ごめんください。 どなたかいらっしゃいませんか? 店のドアを開けた女、ヴィーゴが恐る恐る尋ねる。まごまごしている内に後ろでドアが勝手に閉まってしまいドアベルがしーんと静まり返った店内に澄んだ音を響かせる。夕焼けの光が窓から降り注ぎ、薄暗く雑然とした空間にきらきらと反射した。

2023-03-10 22:12:08
次回お楽しみに @cha_boshi

店の中は雑多な物で溢れている。ヴィーゴはそれらを避けて奥へ進んでみたが誰の返事も帰ってこない。 それで周りにある品々を見てみる事にする。何に使うか分からない機械部品、古いが華麗な意匠のライアー、難解な絵の彫られた瓦、傷だらけの古い手枷、古めかしい貴族の冠……

2023-03-10 22:12:39
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それは、とある王狼の牙よ。 あの氷雪の大地の過去を未だ覚えているのは一本の牙と諸神だけかもしれないね。 …!! ガラクタを見ている内にいつの間にか隣に女が立っていた。 キツネの様な細目をした店主は囁いた。 いらっしゃい。 何か気になる物や欲しい物はあった?

2023-03-10 22:13:16
次回お楽しみに @cha_boshi

ヴィーゴの望む物は何なのか? それはそれは、また次回のお楽しみに。

2023-03-10 22:13:38
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では、今夜も続きをお話しよう… 不思議な骨董品店の戸を開いたヴィーゴ、彼女の前に突如現れるキツネ目の女店主。ヴィーゴには欲しいものがあるようだ。 (ふむふむ)

2023-03-11 20:50:52
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あの!なんか記憶を忘れさせる物はある? ヴィーゴが捲し立てるように尋ねると、キツネ目の女店主は厳かな空気を持って頷いた。 ええ、あるわよ。 それはとてもとても大切な人との思い出でも? と、ヴィーゴが続けて尋ねた。

2023-03-11 20:52:05
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ええ 知っているわ… 貴女が忘れようとしている若者は透き通る月光の様な瞳の人。数年前に彼は貴女の前から突然消えた。 以来、どんな人と出逢っても彼の代わりになる人は現れない。どんなに嬉しい事があっても月の光の様に掌からすり抜けてしまう。 …貴女は未だその人が忘れられないのね?

2023-03-11 20:54:01
次回お楽しみに @cha_boshi

ヴィーゴは驚いてただただ頷くばかり。 女店主はその様子を見ながらニヤリと笑い何処からとも無く酒瓶を取り出した。 これは苦痛を忘れさせるお酒。 遠い昔、氷の嵐が吹き荒ぶ土地で人々は厳しい生活を生き抜くためにこのお酒を作ったの。後に幸せを手に入れた人々は醸造方法を忘れてしまったわ。

2023-03-11 20:56:06
次回お楽しみに @cha_boshi

店主はヴィーゴの目の前で酒瓶を軽く振ってみせる。 もう残りはそんなに多くないの。これも何かの縁だからタダでいいわ。もちろん、貴女が本当に望むのならだけど……?

2023-03-11 20:58:17
次回お楽しみに @cha_boshi

ヴィーゴは女店主の差し出す盃を受け取った。酒の満ちたその盃は、宝石が嵌め込まれていた造りだったが、今は取り外されて、そのがらんとした様子に侘しさを感じ… ヴィーゴは月明かりの中、噴水の前に立っていた。足早に帰路を目指す。何をしていたのか、すっかり暗くなって早く家に帰らなければと。

2023-03-11 21:00:01
次回お楽しみに @cha_boshi

今までいた骨董屋の事も、その行き方も、月光の瞳のあの人の事を忘れた事もヴィーゴは忘れて月明かりの中帰って行った。 その様子を見ていた者がいたのだ。 この話の続きは次回お楽しみに。

2023-03-11 21:02:04
次回お楽しみに @cha_boshi

今夜も続きをお話しよう。 ヴィーゴは望みを叶えて忘却を得た。 月明かりの下を足早に家へと急ぐ彼女は、その姿を何者かが見ていたのだ! (なんと!)

2023-03-12 20:50:51
次回お楽しみに @cha_boshi

…もう行ったわよ。 ドアベルの音が止みキツネ目の店主は店の奥に声を掛けた。 助かったよ。 そう答え奥から現れたのは透き通る月光を瞳に湛えた若者であった。

2023-03-12 20:51:53
次回お楽しみに @cha_boshi

これで何回目かしら? 六……七回目? 女店主の問い掛けに若者は答えるも、ふと疑問の色を浮かべる。 あの酒は本当に効くんだろうね?信じちゃいない訳じゃない。だが──────

2023-03-12 20:52:16
次回お楽しみに @cha_boshi

女店主はただ笑ってこう言った。 このお酒は苦痛を忘れさせるもの。ただ彼女にとって貴方との過去は苦痛じゃないみたいね。だから貴方への想いと、失った悲しみを少しの間忘れさせる事しか出来ないの。 彼女は思い出すのでしょうね。 月を見る度に……

2023-03-12 20:53:13
次回お楽しみに @cha_boshi

バドルドー祭の出会いも、風立ちの地の木の下で共に過ごした午後も、仲夏の祭りから二人で抜け出した事も、吟遊詩人の集会で詩と羽のマントを贈られた事も。 貴方との記憶は彼女には捨てられな思い出なのね。

2023-03-12 20:54:12
次回お楽しみに @cha_boshi

……まあ、うちには本当に全てを忘れさせるお酒もあるのだけど。貴方が望むなら彼女に渡しましょうか? 店主は若者の様子を眺めくすりとした。若者は一言も喋る事無くただ溜め息をついた。 ヴィーゴが記憶を失い続ける月光の瞳の人の事情とは何なのか。次回お楽しみに!

2023-03-12 20:55:12
次回お楽しみに @cha_boshi

苦痛を忘れさせる酒ではヴィーゴの中の愛する人の記憶はなくなったりしない。 その度に失った悲しみを消したいと望むのはヴィーゴだが、その裏で愛していた若者こそがヴィーゴが自分を忘れるように望んでいるのであった。 (なんということだ) さて、今宵も続きを話そう。

2023-03-13 20:59:54
次回お楽しみに @cha_boshi

そもそも、どうしてそんなにも忘れさせようとするのかしら? キツネ目の女店主が水を向けた。 ……これの所為だ。 若者は胸ポケットから透き通った球体を取り出した。その透き通った物体の中には紋様が浮かび上がっている。 これを手にした者はいつかこの世から消えていくそうだ。

2023-03-13 21:00:28
次回お楽しみに @cha_boshi

消え行く事が運命ならばいっそ直ぐに離れてしまおう。自分が消え彼女が悲しむ前に、彼女がまだ若くやり直せる内に、僕を忘れて欲しいんだ。 若者の告白に女店主はゆったりと笑みを浮かべた。 なるほど。 貴方も選ばれた人なのね。

2023-03-13 21:01:08
次回お楽しみに @cha_boshi

しかし!選ばれし者の最後がどうなるのか知っているのか? 焦燥感に駆られた若者の目には店主の顔が笑った様に見えた。だが答えは得られなかった。 ……そろそろ僕も行くよ。これを手にしたからにはなすべき事をなさねば。

2023-03-13 21:02:04
次回お楽しみに @cha_boshi

もし、あの子がまた来たらどうする? 店を出ようとする若者の背に女店主が声を掛けた。声を絞り出す若者の声は苦い。 ……それは彼女が乗り越える事だ。 誰も居なくなった店内に女店主の言い捨てた言葉がよく聞こえる。 情けない男ね。

2023-03-13 21:03:01
次回お楽しみに @cha_boshi

お互いを思った男と女の心からの望みはなんだったのか。 このお話はこれでおしまいだ。次のお話もお楽しみに。

2023-03-13 21:04:25