マシン・オブ・ヴェンジェンス #1

「……」黒人ヤクザ達は互いに目を見合わせる。ヨロシサン製薬が生み出した、同一遺伝子を持つクローンのヤクザ……実用化の情報は業界に流れていたが、その目で見たのは初めてだったのだ。だがリーダー格の黒人ヤクザはツバを吐き捨て、不敵に切りだした。「時間を守るのが日本人の美徳だろ」 23
2011-11-05 16:14:16
「ドーモスミマセン」四人のクローンヤクザは一斉にオジギした。「ドーモ」「ドーモ」黒人ヤクザ達もアイサツに応えた。今にも争いが始まり兼ねない空気であるが、礼儀作法は大事だ。「……メン・タイ仕切り値どういう事だエエッ?」オジギの頭を上げながら、リーダー黒人ヤクザが凄んだ。 24
2011-11-05 16:20:19
「仕切り値は上げさせていただきます。ロシアとの為替ですね」クローンヤクザが冷たく言った。「ザッケンナコラー!」リーダー黒人ヤクザがヤクザスラングを叫んだ。コワイ!「テメッコラー!ボーシッ!トーリー、ボーシッ!」コワイ!善良なネオサイタマ市民であれば失禁するであろう! 25
2011-11-05 16:26:59
だが、四人のクローンヤクザは同時に肩を震わせて挑戦的に含み笑いをし、同時にサイバーサングラスを指で直すと、同時に家紋タクシーを振り返り、同時に言った。「「「「センセイ、ドーゾ」」」」 車内には運転手の他にもう一人残っていたのだ。現れたのは灰色のスーツ姿の、痩せた男である。 26
2011-11-05 17:42:38
灰色スーツの男は素早くオジギをした。「ドーモ、エート、あなたはスミス=サン?はじめまして、アーソンです」「ドーモ、スミスです」リーダー黒人ヤクザはオジギを返した。「アーソン(放火犯罪)?ホー、ホー、ホー」馬鹿にしたように笑う。「冗談か?その名前。そのマスクは何だよ?」 27
2011-11-05 17:49:10
「冗談ではありせんよ、スミス=サン」アーソンはこっくりと頷いた。「ソウカイヤは冗談は嫌いです。仕切り値もシリアスです」「ホー、ホー、ホー」スミスが侮蔑的に笑った。彼がアゴで命じると、部下の中で一番体格のいい黒人ヤクザが進み出た。その手に棍棒を弄んでいる。「俺も冗談は嫌いさ」 28
2011-11-05 17:55:16
「ハッハー!ハッハァー!」体格のいい黒人ヤクザは威圧的に棍棒を振り回した。スミスが肩をすくめ、「アンドレは元野球選手だ。まあ見てやってくれよ」ニヤニヤと笑った。アーソンは眉一つ動かさない。アンドレは素振りを繰り返した。アーソンの顔のすぐ横で棍棒をピタリと止める。風圧! 29
2011-11-05 18:05:03
「ハッハァー!ハッハァー!」また素振りだ。アーソンの顔の横で棍棒をピタリと止める。風圧!だがアーソンは微動だにしない。クローンヤクザも制止せず、じっと見守っている。黒人ヤクザ達が面白そうに笑った。「内心ビビりあがってやがる!」「ひひひ!アンドレ!ほどほどにな!」 30
2011-11-05 18:09:27
「ハッハァー!ハッハァー!」また素振りだ。アンドレは棍棒をアーソンの顔の横「イヤーッ!」「アバーッ!?」黒人ヤクザ達の笑いが凍りついた。「アンドレ?」スミスが呟いた。……アンドレの頭はどこへ行った? 31
2011-11-05 18:11:50
「……シューッ」アーソンは息を吐き出した。その右脚は斜め上にまっすぐ伸ばされ、静止している。彼は片足立ちの姿勢のまま、ぴくりとも動かず、スミスを睨みつけた。「え?」スミスが瞬きした。首無しのアンドレの手から棍棒が落ちた。そしてシャンパンめいて鮮血が噴き出し、大の字に倒れた。 32
2011-11-05 18:17:04
「アンドレ?」スミスが繰り返した。答える代わりに、片足上げ姿勢のまま、アーソンは空中を顎で示した。キャッチャーフライめいて夜空をくるくると回りながら飛んでいるのは、ナムサン、アンドレの頭部である!アンドレの頭はスミスの足下に落下して、コロコロとアスファルトに転がった。 33
2011-11-05 18:22:36
「ア……ア……」事態を悟ったスミスが、ガタガタと震え出す。さっき網膜に焼きついた光景が時間差で記憶に刻みつけられる。蹴り。アーソンの蹴りが。アンドレの首を刎ねたのだ。「ソウカイヤを」アーソンが低く言った。「ナメてはいけない。ワカリマシタカ」「アイエエエ!」 34
2011-11-05 18:27:26
「サノバビッチ!」黒人ヤクザの一人が激昂してマシンガンを構えた。「バカ、やめ……」スミスは慌ててやめさせようとするが、恐怖でパニックを起こした彼はアーソンめがけて引き金を引く!乱射される銃弾!「ウオオー!」さらに一人の黒人ヤクザがそれに続いてマシンガンを構え引き金を引く! 35
2011-11-05 18:31:12
「イヤーッ!」アーソンが駆け出した。銃弾が当たらない!「ワッザ……」「イヤーッ!」アーソンが乱射黒人ヤクザの懐に潜り込み、腹部にやすやすとパンチを叩き込む。「グワ、アバーッ!?」 乱射黒人ヤクザの体がいきなり松明めいて燃え上がった!死亡!ナムアミダブツ!一体これは!? 36
2011-11-05 18:40:00
「ウオオー!」もう一人の乱射黒人ヤクザが口から泡を吹いてマシンガンを撃ち込む!だが銃弾はまるで当たらない!アーソンが潜り込む!「イヤーッ!」「グワ、アバーッ!」やはり胴体にパンチを受けたこの黒人ヤクザも松明めいて燃え上がり死亡!ナムアミダブツ!「アイエエエエ!」 37
2011-11-05 18:47:35
スミスは失禁しながら膝をつき、地面に額を擦り付けた。ドゲザである!「ニンジャ……ニンジャ……!」スミスは失禁ドゲザしながら譫言めいて繰り返した。殴ったら燃えた……こんな芸当が出来るのはニンジャ以外に無い!あれは、ニンジャのジツだ!他の七人もスミスにならいドゲザ!当然失禁! 38
2011-11-05 18:58:56
「これは恭順のサインか」アーソンはスミスの頭をためらいなく踏みつけた。「ハイ。ゴメンナサイ」「誰にも間違いはある。無知ゆえの増長もな。ソウカイ・ニンジャはブラフではない。実在するのだ。身をもってわかったろう」「ハイ。ゴメンナサイ」「今後ともヨロシクお願いします」「ハイ……」 39
2011-11-05 19:32:32
……事が終わると、四人のクローンヤクザとアーソンはしめやかに家紋タクシーに乗り込んだ。「おつかれさまです」運転手は控えめに呟いた。「トコロザワ・ピラーに出せ」アーソンが後部座席に背中を沈め、厳かに言った。「ヨロコンデー」運転手は控えめに呟き、車を発進させた。 40
2011-11-05 19:37:02
「……」アーソンはルームミラーにうつる鏡像を凝視した。運転手は目深に帽子をかぶり、淡々とハンドルを操作している。「人が変わったか?先週と違うな」アーソンが言った。「ええ。カメジは退職しました」「そうか」「ええ」ウインカーを出し、繁華街にハンドルを切る。 41
2011-11-05 19:46:05
「おい。ルートが違うぞ」アーソンがとがめた。「バカめが」「スイマセン」運転手が淡々と謝罪した。「でもこれでいいんです」「何?」「トコロザワ・ピラーじゃないです、行き先は」車内の空気がどろりと濁る。「何だと?」アーソンが問いつめた。運転手は無感情に言った。「行き先は地獄ですよ」42
2011-11-05 19:46:11
ルームミラー越しに、運転手の双眸がアーソンを射抜いた。「何?」「ニンジャ」ネオン看板が投げかける明かりが、帽子の下のメンポを光らせる……「ニンジャ。殺すべし」 43
2011-11-05 19:47:15
(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」#1 終わり。#2へ続く) 44
2011-11-05 19:48:44
(親愛なる読者の皆さん:先ほどアーソンの名前が一時的に間違うインシデントが発生しましたが、巻き戻しにより回避されました。なお失敗を犯した担当者は「このようなインシデントも新規の読者に体験してもらうべきと判断した」と愚にもつかぬ事を言っているので、水牢に送りました。ご安心ください)
2011-11-05 19:49:54
(親愛なる読者のみなさん: 本日は二本立てです。ゼン空間の準備が整いました。後ほど「デス・フロム・アバブ・セキバハラ」が開始されます。これは「シー・ノー・イーヴル・ニンジャ」から続くエピソードです。イグゾーションに敗れたニンジャスレイヤーの運命は!?お楽しみに!Wasshoi!)
2011-11-05 19:52:43