初心者向け「試製十糎対戦車自走砲『カト』」のお話

旧陸軍が大戦末期に開発していた、実口径105mmもの大口径砲を搭載した対戦車車両。惜しくも実戦には間に合いませんでしたが、その開発は巷で言われているほどお粗末なものではありませんでした。 今回はそのうちの一台、試製十糎対戦車自走砲『カト』についてのお話です。
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這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

んー、折角だしカト車についてでも話すか。

2011-11-23 23:14:28
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

ちうわけで、今日は『試製十糎対戦車自走砲(カト)』についてのお話。

2011-11-23 23:16:00
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時は昭和18年。太平洋での争いに黒い影が漂ってきた頃の6月30日、陸軍省第一会議室で軍需審議会幹事会が開催されました。この会議は、約1年前の17年9月14日に決定された兵器研究方針を改定し、今後全ての陸軍兵器研究の開発方針が決定されるという、とても重要な会議でした。

2011-11-23 23:23:17
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

ここでこれまでの対戦車砲に関する研究方針は……{1.独立速射砲隊用として口径75mm(七糎半)、初速大の自走砲を開発する。 2. 口径57mm、初速800/s の牽引式または自走砲を開発する。}……というものでした。

2011-11-23 23:28:02
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このうち項目1によって開発されたのが、後の「試製五式七糎半対戦車自走砲」になる「ナト砲」であり、こちらは特に何ら変更がありませんでしたが、項目2…試製機動五十七粍砲の開発…は、当時の米軍のM4中戦車、ソ連のKV重戦車など、今後の日本を巡る情勢を考えると明らかに時代遅れの兵器でした

2011-11-23 23:37:14
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

ということで、6月30日の軍需審議会幹事会では項目2が改定され、従来計画の57mm対戦車砲は10cm対戦車砲(実口径105mm)に変更されました。しかもその要求する威力は、これまた時代に合わせて射距離1000mで200mmの装甲を貫徹させる、という凄まじいものでした。

2011-11-23 23:41:36
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

軍需審議会幹事会での対戦車砲、戦車砲に関しての方針は改定案通りに承認され、早速同年7月22日に「試製十糎戦車砲(長)……ホリ砲」と「試製十糎対戦車砲……カト砲」の開発方針が「兵政機密第22号の研究方針」として提出されました。ここから本格的なカト車の開発が始まったのです。

2011-11-23 23:46:35
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105mm対戦車砲である「カト砲」は、当初(昭和18年8月2日の研究実施計画)は戦車砲として開発されるホリ砲と同一の威力を狙い、射距離1000mにして150mmの装甲貫徹を計画していましたが、将来的には200mmの装甲を貫徹させる事を狙いとして開発されていました。

2011-11-23 23:51:10
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昭和19年2月7日の研究成果では弾量16kg、初速900m/s と弾丸の特性を「ホリ砲」と同一にして開発が進み、車体は「試製十糎対戦車砲車体(カト車)研究実施計画 四技研計第二号(◎牽三十四)」が提出され、自走砲として計画されています。

2011-11-23 23:56:31
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そんなこんなで「試製十糎対戦車砲車台(カト車)」として砲の搭載を含む車体の試作が、三菱重工東京機器製作所に昭和19年11月を納期として発注されました。

2011-11-24 00:03:59
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第四技術研究所は「カト車」を受領後、19年2月開始の機能試験、20年1月の施工試験、同年2月の実用試験を経て、20年3月に研究を終わる計画だったようです。

2011-11-24 00:04:02
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という訳で、勿体付けずにそろそろ紹介しましょう。これが試製十糎対戦車自走砲「カト」です。……と言っても、これはあくまでイメージイラストなのですが。 http://t.co/10w2wcrA http://t.co/6jjrdOEM

2011-11-24 00:11:12
拡大

二枚目のイラスト
http://twitpic.com/7ie4sd

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試製十糎対戦車自走砲「カト」の主要目は……重量:全備重量約30t 寸法:全長7.567m、車台長7.392m、全幅2.850m、全高2.850m、最低部地上高400mm、履帯幅450mm 発動機:空冷ディーゼル450hp 装甲:前面及び側面25mm、上方12mm となっています。

2011-11-24 00:17:02
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

武装は試製十糎対戦車砲×1に車内弾薬45発を装備、乗員は6人となっており、これを見るだけでも今までの旧軍装甲車両の中でも一線を画した兵器だと分かります。

2011-11-24 00:19:01
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

戦車砲である「ホリ砲」は砲戦車の全周密閉式の固定砲塔内に砲が搭載されているので、射界は左右わずか10度ずつしかありませんでしたが、その反面「カト車」は左右各45度までの旋回が可能となっています。

2011-11-24 00:22:24
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

戦闘室の防盾は十糎榴弾砲を装備した「一式十糎自走砲(ホニⅡ)」と同じような、前面と側面の三面だけを砲尾付近まで囲い、上面と後面は解放された戦闘室なのが「ホリ砲」との大きな違いであり、あくまで対戦車自走砲として開発された本車の特徴が色濃く現れています。

2011-11-24 00:26:19
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

巨大な砲で左右射界を広く確保しているため、車体の側鈑が外方に倒せるようになっており、張り出した側鈑を足場として利用することが可能でした。

2011-11-24 00:31:59
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

カト車をホニ車と同じようなオープントップ式の戦闘室にして搭載することで軽量化を図っていたものの、それでも当時としては最大級の対戦車砲であり、長砲身75mm対戦車砲である「ナト砲」の砲全備重量が約2.7tに対し、カト砲は約7tと、ナト砲よりも2倍強の重量がありました。

2011-11-24 00:37:58
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

そのため今までのような「九七式中戦車(チハ車)」系列の車体に搭載することは不可能と判断され、当初から「四式中戦車(チト)」の車体をベースにした車体への搭載が計画されています。

2011-11-24 00:41:13
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

…が、それでもまだ重すぎるため、車体装甲を前面75mmから25mmに、側面50mmから25mmに、上面20mmから12mmに変更して全面的な軽量化が図られ、更に搭載弾薬量も当初計画の60発から45発と相当削減され、チト車と同等の機動性を確保するために最大限の努力が払われていました

2011-11-24 00:45:07
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

しかし頭についた「試製」の名の通り、この対戦車自走砲は採用されること無く終戦を迎えています。これも後半に開発された多数の旧軍兵器と同じく、大戦に間に合わなかった兵器だったのです。

2011-11-24 00:48:40
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

実際での「カト砲」の設計はほぼ予定通り昭和19年6月6日に終了し、大阪陸軍造兵廠で2門が試製されて昭和20年5月頃に完成しており、ほぼ研究が終了した段階で終戦を迎えています。

2011-11-24 01:06:49
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

……しかしその一方、「カト」の車体は三菱重工東京機器製作所で約50%が完成した状態で工程が進捗しており、エンジンも完成していたのですが、更なる車両用材料の調達中に終戦を迎えているのです。

2011-11-24 01:08:00
這い寄る混沌@おえかき練習ちう @Nyarlathotep_44

苦しくも同様に製作されていた「ホリ車」も、砲は完成した状態で車体を待つ間に終戦を迎えています。両方とも「期待の新兵器」としての陽の目を見ること無く、その生涯を閉じたのです。

2011-11-24 01:11:58