小沢健二『刹那』全曲レビュー

2011年12月9日に、購入後何年も経って今更に、突如アルバム『刹那』に撃たれた者による突発的で勢いに満ちた全曲レビュー。
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おかざきよしとも @YstmOkzk

帰宅。今日も10時間ほぼ立ちっぱなしで足の裏が消耗して痛えのなんのしかも割とすげえ寒い中Tシャツと薄い上着一枚では割と冷える中小沢健二『刹那』を聴きながら帰っていたら突如かつ今更に猛烈な感動と感想が降ってきたので、突然ながら誰得全曲レビューします。

2011-12-09 21:33:48
おかざきよしとも @YstmOkzk

何年目の発見だよホント今更かって感じ。

2011-12-09 21:34:14
おかざきよしとも @YstmOkzk

1.流れ星ビバップ:まず圧倒されるのが、ぱっと歌詞カードを見た時の文字の詰まり方。演奏時間を見ますと僅か三分半、たった三分半しか無い中にこれだけの歌詞が詰め込まれるという脅威!そしてそれを超高速でかつ大変違和感なくスムーズにかつ適度なケレン味も合わせて歌う小沢。もの凄いです。

2011-12-09 21:37:45
おかざきよしとも @YstmOkzk

私は生憎ながら教養も努力も向上心も無いので、ビバップというジャンルをよく存じ上げませんが、そのビバップなるオシャレな演奏(オルガンが特に好きです)の中をもの凄い勢いで走り抜けていく歌唱。若干の字余りも気にさせない勢い、そしてそのせつな過ぎる内容は言うまでもありません。

2011-12-09 21:40:00
おかざきよしとも @YstmOkzk

かつて井上陽水が奥田民生と組んだ際に、コンビを組む候補として奥田の他に小沢健二も予定していたという話がございますが、とりわけこの曲における小沢の歌詞の乗せ方と歌唱は、明らかに邦楽市場でも稀に見るクオリティであり、日本語詞使いとしてここまでもの凄い例というのは寡聞にして知りません。

2011-12-09 21:43:04
おかざきよしとも @YstmOkzk

2.痛快ウキウキ通り:この曲もまた歌詞の量がハンパ無く、そしてまた演奏時間が三分半足らずという、恐ろしい密度!アルバム『LIFE』期の王子様小沢の再臨とも言われる王子様なテンションの歌詞ですが、『LIFE』では5〜7分程の時間を掛けてゆるりと歌っていたのが、この曲では僅か三分半!

2011-12-09 21:45:42
おかざきよしとも @YstmOkzk

『LIFE』の曲は「聴いてて長さを感じさせない」とよく言われますが、この曲は本当に短いのです。しかし感じる質量としては『LIFE』各曲とそれほど変わらない気がします。その秘密は個人的に巧みな曲構成にあると思います。

2011-12-09 21:47:54
おかざきよしとも @YstmOkzk

Aメロ→サビというメインの進行にプラスでサビから更に発展していくブリッジ的メロディが存在しますが、このブリッジ部がこの曲では有効に活用されており、一度目のブリッジではオルガンソロ麗しい間奏へ導き、そして二度目ではそこから転調して最後のサビに突入。この展開が曲の密度を上げています。

2011-12-09 21:51:15
おかざきよしとも @YstmOkzk

歌詞について少し触れますと、サビの「喜びを他の誰かと分かりあう!」このフレーズがまさに、とりわけ王子様期の小沢健二の主題であり、「鼻水出りゃこすりながら」という可愛らしい言葉を挿みながら、ひたすら熱く歌われています。この同調的な熱さこそ小沢健二の渋谷系における特異性だと思います。

2011-12-09 21:55:21
おかざきよしとも @YstmOkzk

3.さよならなんて云えないよ(美しさ):個人的にはこの曲かビバップのどちらかが『刹那』におけるベスト歌詞だと思っています。ひたすら素晴らしいとしか云いようが無い!全ての言葉が寂しさ切なさ美しさを経由して優しさに落とし込まれるそれは、歌詞カードを読むだけでも思わず溜息が出るほど!

2011-12-09 21:59:03
おかざきよしとも @YstmOkzk

某曲のイントロも拝借しちゃったりする軽快な曲調の中でこの歌詞というのはかなり反則に近いですが、その頂点こそ二度目のサビから突入する俗に謂うミドルエイト的な箇所。引用「左へカーブを曲がると/光る海が見えてくる/僕は思う!/この瞬間は続くと!/いつまでも」

2011-12-09 22:01:40
おかざきよしとも @YstmOkzk

それまでの別れの切なさへ向かう歌詞からミドルエイトで急転して、「見えてくる」という次の瞬間への眩しいばかりの期待!そして「僕」は「この瞬間は続くと!いつまでも」!そこから間を置かずに最終ヴァース、最も客観的で残酷な歌詞に突入していくという構図で、ミドルエイトが眩し過ぎる仕組み!

2011-12-09 22:05:16
おかざきよしとも @YstmOkzk

曲構成と歌詞の展開を上手く利用した例として、この曲は小沢史上だけでなく、邦楽史上、いやポピュラー音楽史上(おいおい舞い上がってるおれ)でも稀に見る見事な展開!このミドルエイトで全てがひっくり返る瞬間(そしてすぐに元に戻る)、これこそポップソングの奇跡の一瞬!

2011-12-09 22:08:22
おかざきよしとも @YstmOkzk

4.夢が夢なら:前曲までの軽快なノリから一転、この曲はしっとりと、若干のオリエンタル風味(誰風だったか忘れてしまった…)を帯び、王子様から「降り」て黄昏れを噛み締めるような歌詞世界が、四季の変化と、そして上昇し続ける転調(!)を交えて歌われます。この曲が『刹那』中で一番後期です。

2011-12-09 22:13:35
おかざきよしとも @YstmOkzk

この曲のキモはまさしく、何度も執拗に繰り返される転調にあります。最初は「今度の曲は淡々としてるなあ」と思うサビのメロディが、どんどん音程が上昇して、最後にはギリギリのところまで舞い上がる美しさ!歌詞中で「緩やかな円」と歌われますが、この曲自体が螺旋的な構造をとっていると言えます。

2011-12-09 22:16:24
おかざきよしとも @YstmOkzk

よくフリッパーズギターからの対比で「小山田は音の人」「小沢は言葉・意味の人」と言われることがありますが、この曲や前曲などを見ても分かる通り、小沢は曲の展開自体を歌詞の意味に絡ませようとする特徴があります。執拗な意味至上主義の一端がこの曲の最後のサビに現れていると個人的に思います。

2011-12-09 22:19:11
おかざきよしとも @YstmOkzk

この曲は小沢健二でもどちらかと言えば後期に発売された曲ですが、その感触からこの曲が前曲までと違い「喜びを他の誰かと分かちあう」感覚が薄れているように感じます。前曲最終ヴァースで「そして心は静かに離れていくと」と歌われますが、この曲はまさにその光景を歌うかのような寂しさがあります。

2011-12-09 22:23:27
おかざきよしとも @YstmOkzk

5.強い気持ち・強い愛:このアルバム『刹那』一番の山場であろう、小沢のハイテンションもここまで来たか!(エラそう)という感じの大曲(つっても6分行かないいが)。大御所筒美京平氏(また博学であんまり知らない…)によるダイナミックでド派手なアレンジも、しかしその必然を感じさせます。

2011-12-09 22:27:43
おかざきよしとも @YstmOkzk

この曲のハイライトでありアルバム刹那一番の山場が最後のサビの繰り返しになります。二度目のサビ後のクールな抑制から解放された間奏を経て凛々しさを増したように感じさせる最終ヴァースから突入し、サビメロを一通り回した後に始まる、絶頂の瞬間、最高のクドさ!切なさと喜びの合一する瞬間!

2011-12-09 22:30:31
おかざきよしとも @YstmOkzk

最後のその感動的な繰り返しの最後に来る文章が、ブギウギ通りの一節と並んで、まさに王子様期小沢の象徴と言えるような気がします。「今のこの気持ちほんとだよね」。アルバムタイトルの通り、まさにもう、奇跡とか神様とかそんなことも言いたくなる瞬間、そして「この瞬間は続くと!いつまでも!」

2011-12-09 22:33:15
おかざきよしとも @YstmOkzk

楽曲的には、アルバム中でも一番J-POPなパターンに近く、またリズムもシンプルに仕上げてあるため、この曲のダイナミズムはストリングスが印象的な豪奢なサウンドと、そして最後のサビに収束していく曲構成にあります。堂々とした展開を経て最後のサビが過ぎた後、アルバムは峠を過ぎていきます。

2011-12-09 22:36:50
おかざきよしとも @YstmOkzk

余談ですが、この曲と同時期のシングルに『戦場のボーイズライフ』という曲があり、こちらもこの曲と同程度かさらに凌駕して、更なる意味に繋がろうとする節のある壮大な曲です。それが『刹那』から外されたのは、らぐだのこぶ状にアルバムの山場ができてしまう歪さを小沢が嫌ったのかと邪推してます。

2011-12-09 22:39:39
おかざきよしとも @YstmOkzk

6.それはちょっと:前曲の絶頂テンションから打って変わり、ディズニーみたくメルヘンファンタジックな曲調の、こちらも筒美京平氏作曲。『LIFE』の『おやすみなさい、仔猫ちゃん!』と似てる様にも思います。ひたすら甘い可愛らしさが続き、フェードアウトしていく頃には少し寂しさも憶えます。

2011-12-09 22:43:46
おかざきよしとも @YstmOkzk

ポップス求道者筒美京平氏によるおもちゃ箱のようなアレンジと同様に、小沢もここでは王子様の甘い部分全開、ここまでそういうキャラ押されても困るわ!というくらいのある意味ブリッコっぷりですが、その中でクスリと笑えてしかもちょっと寂しさを通り越して寒気を覚えるのが最後のサビの「お葬式」!

2011-12-09 22:47:34
おかざきよしとも @YstmOkzk

この「お葬式」の一言がこの曲で散々展開されるクソ甘ったるい世界を一気に「刹那」という枠の中に閉じ込めてしまうのです。「左へカーブを曲がる」と見えてくる「光る海」であるところの「刹那」、この曲はさしずめその刹那を詳細に描き出した一曲としてアルバム『刹那』内に収まっていると言えます。

2011-12-09 22:50:44