森田芳光監督の死去に寄せて、樋口真嗣監督の回想
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私が初めて日本の劇場用映画の特撮を担当した「未来の想い出 Last Chiristmas」の森田芳光監督が亡くなられたようです。 短い場面でしたがあの時、森田さんに引っ張り上げられなければ、森田組の皆さんに認めてもらえなければ、のちの樋口ならびに今の特撮は存在しませんでした。
2011-12-21 09:51:09あまり笑えない冗談もあの人っぽいかと思ったら、本当でしたか。 RT @ishikitokihiko: 森田芳光さんの情報、興味深いので中日新聞に今電話で問い合わせました。 記事そのものは新聞に印刷された本物だそうです。 森田芳光さんの訃報の記事そのものは本物だそうです。
2011-12-21 10:44:53嘘報だったらいいのに、俺の早とちりがその拡散の片棒を担いでいて、あとで謝罪、という展開のほうがどんなに良かったか。
2011-12-21 10:46:53ヒロインの恋人が乗った成田行きのB747が雷雲に突っ込んで墜落する運命を”変える”シチュエーションでミニチュアを使用した特撮で、という発注でした。当時イマジカの特撮グループで仕事をしていたので、モーションコントロールで撮影したミニチュアを空撮した雲海に合成か、とも思いました。
2011-12-21 11:15:14しかしその時期、戦闘機のようなクイックな挙動ならいざ知らず、旅客機の悠然とした”飛び”の挙動を空撮素材ときれいにマッチングさせるのは容易なことではありませんでした。そんな時思い出したのは特撮研究所で使っているフォグメイカーが吐き出していた、素晴らしく密度のある”硬い”雲でした。
2011-12-21 11:19:54「未来世紀ブラジル」や「バロン」「エイリアン2」で使用された綿雲とあのフォグメイカーを組み合わせて”一発撮りきり”でやってみよう、と特撮研究所に打診してみました。以前から飲み会で交流があったのと、その時代には珍しい一般映画の特撮という切り口に乗っかったのでしょう、参加決定です。
2011-12-21 11:23:22モーションコントロールか、操演一発撮りきりか、その当時、特撮責任者としてはかなり思い切った判断をしなければならない時期でした。その当時、私は日本におけるモーションコントロール特撮の限界の一方で、クラシカルなミニチュアワークの新たな可能性をひそかに感じていたのです。
2011-12-21 11:26:26(承前)とはいえ、当時の日本映画のメインスタッフの間に於ける特撮、とりわけミニチュアワークに対する不信感は今では想像も出来ぬほど根深いものでした。打ち合わせの場で前田米造キャメラマンを筆頭に本当に出来るのか、という疑念の眼差しに囲まれ、当時26だった私は縮み上がりました。
2011-12-27 15:20:55とはいえ私自身もどうして日本のミニチュアワークは本物に見えないのか、かねがね気になっていたので、その打開策を腹案として監督たちに開陳しました。ミニチュアやその撮影側にとって都合のいいアングルやキャメラワークで捉えた途端にレンズとの距離感が観る側に感覚的に掴めてしまうのではないか。
2011-12-27 15:24:25そこで誰もが見たことある角度、構図として再構成しないと本物として認識しないのではないか。すなわちそれは…と私は用意していたビデオテープを再生しました。あの頃当たり前にあったクイズ番組の景品、航空会社の提供による世界旅行の紹介に必ず流れた随伴機から撮影された旅客機のフッテージです。
2011-12-27 15:28:13今までのミニチュアワークで撮られた画よりも自由である部分と制約に縛られた部分を分析することで観客にとって説得力のある絵作りが出来るはずだ、と訴えたのです。なんせ26の若造の言うことですから半信半疑のメインスタッフの中、森田監督がやってみてよ、と決めてくれたのです。
2011-12-27 15:31:44でも、その方法で本当に使えるかどうか判断できないので、本番撮影前にテストピースを撮影することを約束してその場をあとにしました。正直、足取りは重かったです。それまでの怪獣映画をはじめとする”特撮映画”の人たちが映画の中にミニチュアワークが入るのを企画段階から覚悟をしてある意味諦めて
2011-12-27 15:34:37いてくれていましたが、今回、と云うか日本映画界の殆どはこういう気分で特撮界を見ていたのではないか?今で言うところのアウェー感に支配されていました。なんだか腹が立って来ました。何が何でも俺たちの、俺たちの先輩から受け継いだやり方でやってみんなを見返してやろう。そう心に決めました。
2011-12-27 15:38:47ミニチュアのB747は当時完成したばかりの東武ワールドスクエアで量産したばかりのFRP用のメス型があったのですが、25分の1スケールなのでスパンが2.5メートルもあり、その大きさのミニチュアを覆う雲を生成するのがかなり難しい計算になり、もっと小さなミニチュアを探しました。
2011-12-27 15:55:23すると、航空会社のロビーに展示してある40分の1の模型のメス型が東陽モデルにあると情報が入り、それを元にミニチュアを作ることになりました。どうしてもやりたかったのが翼端灯でした。単なる点滅ではなく、鋭く強い光、通過する雲に反射するぐらい強い光でないと本物に見えないと言い張って
2011-12-27 16:01:57小型のストロボバルブを翼端に実装し、ラジコンで点滅するようにしました。等間隔なのだからリレーでもいいかもしれませんが、狙ったところに欲しくなるからラジコンのほうがいいという判断でした。ミニチュアのスケールが決まったところで、今度は雲海です。
2011-12-27 16:06:26随伴機の視点での並走を再現する場合、水平方向の奥行きだけではなく、上下方向の奥行き、特に下方向の”高さ”を感じさせるために紗幕をセットの水平面に張り、その上に綿雲をまばらに隙間があくように飾り、セットの床面にべタ置きにした綿雲が紗幕越しに見え隠れするように配置します。
2011-12-27 16:14:24紗幕の雲の上のまばらな階層はを横方向に張ったピアノ線に綿雲を抱かせるように形づくります。それより手前の雲は前述した特撮研究所でしか見かけることのない、異常にシャープなエッジの煙(笑)を出すフォグマシンを焚いて作り出します。どうやって作るのかを以前聞いたのですが、忘れました…。
2011-12-27 16:19:17脚本上はナイトシーンですが、実際に夜空で撮影してもフィルムには映りません。(今なら映るようになってきましたが)もし現実に撮る場合、どうするかといったら晴天時に撮影してツブシと呼ばれる露出調整で()
2011-12-27 16:44:13(承前)昼間に露出調整して空を暗く落として撮影する方法をツブシ、と呼んだりDay for Night「アメリカの夜」なんてトリュフォーの映画にもなった呼ばれ方もあったりしますが、照明できないスケールのものをさもライティングしたように見せるのは至難の業だし、
2011-12-28 17:26:02そこをしくじると所謂ミニチュアっぽく見える。むしろ航空会社借りてきたフッテージを現像処理で夜間撮影風に見せかけるのが最もリアリティのあるアプローチではないかと考えました。そこでセットの照明はやや空を落としたものの、基本はデイシーンと殆ど同じ光量を雲海のセットに当てて貰いました。
2011-12-28 17:29:43(承前)ミニチュアを撮る上でパンフォーカスにすること、しかもハイスピード撮影なので圧倒的光量が必要になり、その露出管理たるや壮絶を極めました。(私がやったわけではないですが…)前述の多層化した雲海のための紗幕、農業用の寒冷紗──降霜対策で農作物の上にかけるための黒い紗幕が格安で
2011-12-29 09:37:54黒い紗幕が格安で手に入りました。(私が探したわけではないですが)問題は監督を始めとする本編スタッフに見せるためのテストピースを撮る時間がスケジュールの中にハマらない事でした。つまり、こういうルックになりますよという画を構築するには本番と同じセッティングをしないといけないので
2011-12-29 09:43:29本番撮影の直前にテストピースを撮影して現像したフィルムを監督たちに見てもらい、オッケーをもらうしか方法がありません。実はこの進め方、大変危険な要素をはらんでいて、そのテストピースでNGが出たら方法論そのものを見直してテストピースを撮り直すとその後のスケジュールが崩壊するのです。
2011-12-29 09:48:00