「野兎」煌夜祭

冬至の夜、語り部たちは火壇を囲んで語り始める。 ――というわけで、冬至だったので語り部になった気分でひとつ。 『煌夜祭』は傑作ですので、未読の方はぜひ。 シェアワールド的に世界観をお借りした感じの、二次創作?
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とおる6th @windcreator

星祭も、素敵ですね。そしてまた煌夜祭も、素敵なのです。明日、冬至の日に、買いましょうぞ--多崎礼さんの『煌夜祭』を。十八諸島を旅しながら物語を集め、人々に披露する仮面の者たち。彼らは冬至の夜になると島の領主の屋敷に集まり、火を囲んで夜明けまで語り明かす--それが、煌夜祭。

2011-12-21 21:25:57
日付切取線 @krtr_date

✄--------- 12/22(木) --------✄

2011-12-22 00:00:08
とおる6th @windcreator

明日の予定がなければ延々と煌夜祭を読んでいたかもしれない。冬至だから。

2011-12-22 01:21:14
とおる6th @windcreator

今もどこかで煌夜祭が開かれている、きっと

2011-12-22 18:13:35
とおる6th @windcreator

煌夜祭は、歳若い者から語るのが習わし。

2011-12-22 18:33:04
とおる6th @windcreator

種を植える時期は決まっている。芽を出す時期も、花を咲かす時期も、実をつける時期も。それは人も同じ。娘は齢を重ねれば嫁ぐもの。しかしながらその娘は、およそ決まり事という決まり事を憎んでいた。父が決まり事を破ってまで人を救い、罰せられたから。花を咲かせぬ草もある。娘は謳う。 #煌夜祭

2011-12-22 18:49:10
とおる6th @windcreator

ある日、娘の耕す畑には男が落ちていた。ボロをまとったみすぼらしい男。娘は鍬をしっかりと握りしめながら、問う。男は呻きながら水と食糧を求めた。娘は家からパンと葡萄酒を持ってきて男を救った。娘は決して警戒を解くことはなかったが、男の手荷物に野兎の仮面を見つけて少し安心した。 #煌夜祭

2011-12-22 18:55:15
とおる6th @windcreator

語り部は流浪の者たち。その素性は知れず、ただ物語を集め、語ることで日々の糧を得る。飢えから救われた男は、己を「無口な語り部」なのだと俯きながら語った。下手な語り部は、淘汰される。馴染みの酒屋を持つことも出来ず、コインではなく罵声を投げられる。娘は考えて、男に提案した。 #煌夜祭

2011-12-22 19:00:50
とおる6th @windcreator

男は無口だったが、娘の指示した通りに畑を耕し、男手がなくて滞っていた仕事を淡々とこなした。娘は男に朝晩の食事と仕事、そして雨風凌げる倉庫を寝床として与えた。母と二人の食卓に無口な語り部が増えたところで、ささいな違いに過ぎなかった。男は頼まれれば語ったが、つまらなかった。 #煌夜祭

2011-12-22 19:06:38
とおる6th @windcreator

娘が流れの旅人を家に置いていることは村中の噂にはなったが、すぐに忘れ去られた。嫁入り時なのに一切村祭りにも顔を出さない変わり者の娘。男を連れ込んだところで、誰も気にすることはなかった。娘の母は男の真面目さに娘との婚姻を密かに望んだが、娘は決して男に気を許さなかった。 #煌夜祭

2011-12-22 19:13:14
とおる6th @windcreator

やがて冬が来て、畑仕事は減った。倉庫では厳しい冬は耐え難い。娘の母が娘を説得して、同じ家の中に男の寝床を移した。娘は相変わらず男に近づくことはなかったが、無口な男の持つ物語を全て暗記してしまうほどには時は流れた。娘は、機が熟したと思った。そして男に、対価を要求した。 #煌夜祭

2011-12-22 19:18:06
とおる6th @windcreator

無口な語り部は、唯一の持ち物を娘に渡した。無口な語り部を、その野兎の仮面で覚えている者などいない。語り部が一同に会する煌夜祭にすら、男は参加したことが無い。娘は旅支度を調えて、母に告げた。「わたしは語り部になる。この男は真面目で働き者だ。母さんはこの男と平穏に暮らして」 #煌夜祭

2011-12-22 19:24:04
とおる6th @windcreator

冬の寒さは厳しい。人々は暖かい食事と酔える酒、そして愉快な話を求めて酒場に集う。野兎の仮面をした語り部が町の酒場に現れたのは、風の強い日だった。若く、軽妙で、どんな野次を飛ばしても軽々とあしらう野兎。跳ねるような躍動感を持って語られる物語は、町の人々を一晩で味方にした。 #煌夜祭

2011-12-22 19:30:44
とおる6th @windcreator

町の噂は飛ぶ鳥よりも早い。瞬く間に噂は広まり、野兎が毎夜現れる酒場はいつも椅子が足りない有様だった。その光景もまた話のタネにしてしまう。笑いの絶えない酒場に領主からの使いが来たのは冬至の三日前だった。「光栄です。煌夜祭に独りでは、野兎は淋しさで死んでしまうところです!」 #煌夜祭

2011-12-22 19:37:42
とおる6th @windcreator

闇が世界に蓋をする。赤々と燃える火壇を囲む、大小様々な背格好の仮面の者たち。上座では歳若き領主が豪勢な食事を前に、耳を傾けている。語られる話は時や場所を軽々と超える。侍女が泣き出す悲恋や、領主が身を乗り出す戦の話、場にいた誰もが腹を抱える話など、語り部は皆、話が上手い。 #煌夜祭

2011-12-22 19:42:36
とおる6th @windcreator

野兎の前にイガ粉をつめた壺が回ってきた。一握り。炎が野兎の仮面を赤く照らす。かつて娘だった語り部は、長い時を想いながら語り始めた。それは、質素に細々と生きていたお人好しの男が、処刑される物語。溺れた領主の息子を救ったがために「高貴に触れし罪」で殺された、愚か者の、物語。 #煌夜祭

2011-12-22 19:46:27
とおる6th @windcreator

「男は笑いながら死んだ。『俺は俺の領主を守ったのだから、悔いなどない』、と。幼き娘はくだらない決まり事を憎み、領主を呪い、生きることを疎んだ。しかし母を想い、生き永らえた。ただ一つの望みは、誇り高き父の物語を、何も知らぬままでいる歳若き領主に語り聞かせてやること」 #煌夜祭

2011-12-22 19:50:30
とおる6th @windcreator

野兎が仮面を外した。炎に煽られて、髪が踊る。美しい、真っ直ぐな眼差しだった。自分を救い、恩賞を得たはずだった男の、面影がある。仮面を取った娘は、なお語る。語り部ではなく、ただの語り手として。「領主よ、あなたには知ってもらう。我が父の死を。そして忘れるな、我が父への恩を」 #煌夜祭

2011-12-22 19:55:00
とおる6th @windcreator

娘はそれだけ告げると野兎の仮面を火壇に投げ捨て、周りの語り部に深々と一礼をして煌夜祭を辞した。誰も何も言わぬ、冬の夜の沈黙が過ぎた。娘の毅然とした後ろ姿が隠れるその前に、領主は叫んだ。「名を! あなたと、あなたの父の名を! 私は知らねばならない!」娘は振り返らなかった。 #煌夜祭

2011-12-22 19:59:35
とおる6th @windcreator

それからの話は、わざわざ私が語るまでもないでしょう。領主の名は他所の島にまで届くほどの賢人として謳われ、野に帰った野兎を追いかけまわしたというラブロマンスは語り草となって今も酒の肴になっている。これで私の話はおしまいです。今宵は煌夜祭。さぁ、次は、あなたの番です。 #煌夜祭

2011-12-22 20:03:08
とおる6th @windcreator

というわけで、「あの世界にありそうな話」を目指しました。

2011-12-22 20:13:05
とおる6th @windcreator

イガ粉がさみしそうにしている

2011-12-22 20:26:52