放火罪における建造物の一体性について

@h_funabashi さんの私見
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梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

TLで現住建造物等放火罪における建造物の一体性に関する議論が展開されていました。この問題に関する私見をツイートします。

2012-01-01 05:57:38
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

現住建造物等放火罪の現住性における一体性は,①物理的一体性及び②機能的一体性によって判断する(最決平成元年7月14日刑集43巻7号641頁)。

2012-01-01 05:58:58
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

①物理的一体性と②機能的一体性の関係について,②機能的一体性のみによって建造物の一体性を肯定したとみられる判例は存在する(大判大正3年6月9日刑録20輯1147頁)。

2012-01-01 06:01:01
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

他方,福岡地判平成14年1月17日判タ1097号305頁は,②機能的一体性が認められる事案において,③延焼可能性が認められないとして一体性を否定している。

2012-01-01 06:01:08
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

③延焼可能性は,①物理的一体性判断の際に考慮される。③延焼可能性が①物理的一体性に及ぼす影響の程度については,単なる考慮要素ではなく必要条件となる。

2012-01-01 06:01:21
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

なぜならば,同罪が重く処罰される趣旨は特に人の生命等を保護する点にあるから,(危険犯の理解に関わるが)延焼可能性がなければ保護法益に対する侵害はないからだ。

2012-01-01 06:01:47
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

なお,③延焼可能性の程度については,上記最決は延焼の可能性が否定されない程度で足りると判断しているが,一定程度の蓋然性を要求する見解もあり有力である。

2012-01-01 06:02:18
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

結局,建造物の一体性については,(1).①物理的一体性と②機能的一体性によって判断する。(2).③延焼可能性は①物理的一体性の中で必ず検討する。(3).①物理的一体性が否定される場合には,建造物の一体性は否定される。

2012-01-01 06:02:51
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

(4).①物理的一体性が肯定されるが一体性が弱い場合には,②機能的一体性を補充的に検討し建造物の一体性を判断する。

2012-01-01 06:03:05
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

(5).法適用上のポイントは,第1に,(3)の部分で③延焼可能性について検討をして①物理的一体性を肯定できるか否かを判断すること。第2に,(4)の部分で機能的一体性について十分な検討をして建造物の一体性を肯定できるか否かを判断すること。

2012-01-01 06:03:40
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

(1).①物理的一体性と②機能的一体性の関係について,最判解において香城敏麿さんは,いずれか一方が認められる場合には建造物の一体性を肯定できるとする。これは,前掲大判を含めた最高裁判所の判断を統一的に理解するものと思われ一理ある。

2012-01-01 08:13:09
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

もっとも,前掲最決自体は明示的に判断を示しておらず,事案としても①物理的一体性と②機能的一体性を認定した事案であったことには注意が必要だ。法学者は,①物理的一体性が認められなければならないとする傾向にあり,前掲福岡地判も影響を受けていると思われる。

2012-01-01 08:13:33
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

香城理論の前提が古い大判との統一的理解に依拠していること,近時の法学者の傾向及び下級審判例を考慮すると,①物理的一体性が否定される場合に建造物の一体性を肯定することには否定的なスタンスが穏当であり,少なくとも慎重であるべきだと思う。

2012-01-01 08:13:58
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

(2).③延焼可能性については,基本的には建造物の客観的性状から認定する。なぜならば,建造物の一体性は現住性の認定判断の問題だからである。

2012-01-01 08:14:14
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

このことは,たとえば,湿度,風速などの気象状況を③延焼可能性の認定の基礎事情として用いてよいか否かという形で問題となる。このような事情を③延焼可能性の認定に用いる場合には注意が必要である。

2012-01-01 08:14:37
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

個人的には,気象状況などの事情は③延焼可能性の認定に用いることはできないと考えている。このような事情は,故意の認定に用いるべき事情として理解している(異論はありうる。)。

2012-01-01 08:23:18
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

以上の前提として,そもそも建造物の一体性を問題にする場合には,現住性の問題であることを明らかにしなければならない(建造物該当性の問題ではない。)。

2012-01-01 08:23:51
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

なお,建造物の一体性が問題となる類型としては,これまで論じてきた複数建造物の一体性の問題の他に建造物内部の部分的独立性の問題もある。

2012-01-01 08:23:54
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

建造物内部の部分的独立性が問題となる場合には,類型的に①物理的一体性(構造上の一体性),②機能的一体性が認められるため,特段の事情がない限り,③延焼可能性が建造物の一体性の認定において重視される(③延焼可能性が否定されれば法益侵害の危険が否定されるからである。)。

2012-01-01 08:24:14
梨の妖精おじさん(仮) @nashi_no_yousei

建造物の一体性については,神戸大学の大塚裕史さんの『刑法各論の思考方法』(早稲田経営出版,2004)が中立的な立場から整理してあり非常に有益である。

2012-01-01 08:44:21