鎌倉右大臣の選ぶ十人一首

昨年末の深夜にこそこそと、自分の好きな和歌紹介をしていたツイートをまとめてみました。 自分もまだまだ勉強中の身につき、いい加減な解釈や説明をしている箇所もあるかもしれませんが、何卒ご容赦を。
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源実朝 @m_sanetomo

年末特集ということで、今日から大晦日までおやすみ前に、私の好きな歌を一日一首紹介していくことにした。初日は万葉集最大の歌人のこの歌から。「去年(こぞ)見てし 秋の月夜は 照らせども あひ見し妹は いや年さかる」(柿本人麻呂/万葉集・巻二・211)

2011-12-22 00:15:12
源実朝 @m_sanetomo

これは人麻呂の「泣血哀慟歌」のうちの一首。歌の大意は「去年の秋に眺めた月は今年も同様に美しく夜空を照らしているが、自分の隣で共に眺めていた妻は、もうこの世におらず遠い存在となりつつある」。自然は永遠だが、人の命は儚いものだよな。というわけでおやすみなさい。

2011-12-22 00:20:12

人麻呂は歌聖と称され、その歌は後世の歌人たちに絶大な影響力を持った。
特に平安後期以降は、室内に彼の肖像を掲げてお供え物をし、その前で和歌を詠む「人麻呂影供」なる風習が盛んとなった。
現代から見れば滑稽かもしれんが、そこまで神格化されていたんだよ。

人麻呂が妻を亡くした嘆きを詠んだ「泣血哀慟歌」は長歌二首、其々に付随する短歌二首ずつから成っている。
なので本来ならちゃんと長歌から鑑賞すべきだが、長くなるので省略ということで^^;
全部読みたい人は、ここの207~212を参照して欲しい。訓読万葉集 2

源実朝 @m_sanetomo

はい、おやすみ前の和歌紹介の時間です。二日目の今夜は、みんな大好きな永遠の貴公子のこの人で。 「忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは」(在原業平/古今集・雑歌下・970)

2011-12-23 00:10:22
源実朝 @m_sanetomo

大意は「現実であるのをふと忘れ、夢ではないかと思います。かつて思ったことがあったでしょうか。深い雪を踏み分けて貴方様にお目にかかる事になろうとは。」これだけ読むと恋の歌のようだが、実は惟喬親王のもとを訪れた時に戻ってきてから差し上げた歌。親王は出家して比叡山の麓に隠棲してたんだ。

2011-12-23 00:15:14
源実朝 @m_sanetomo

業平の歌は、この歌や百人一首の「ちはやぶる神代も聞かず竜田川唐紅に水くくるとは」のように、言葉の使い方がリズミカルというか非常に巧みで、不思議な魅力を醸し出してると思う。気になったなら『伊勢物語』を読んでみよう!というわけでおやすみなさい。

2011-12-23 00:20:14

『伊勢物語』でこの歌が出てくるのは、第八十三段の「小野の雪」。
古文の授業で習った者も多いかと思う。
NHK高校講座 | 古典 | 第8回 第一章 物語(一) 伊勢物語(2) ~小野の雪~

惟喬親王は文徳天皇の第一皇子だが、母親が藤原氏ではないため皇太子にはなれなかった。
代わりに立太子されたのが我らの御先祖様である後の清和天皇なので、私としては複雑な思いだが。
業平は妻を通じて縁続きにあたるこの親王と、かねてより親しく交際していたんだ。
この前段の「渚の院」も親王と業平の逸話。皆で狩りに行った時の思い出が綴られている。

源実朝 @m_sanetomo

はいどうも、おやすみ前の和歌紹介です。三日目は日本を代表する美女である、この方に登場してもらおう。 「色見えで 移ろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける」(小野小町/古今集・恋歌五・797)

2011-12-24 00:10:20
源実朝 @m_sanetomo

花は色が褪せることにより枯れ始めたことが誰にでもわかるが、人の心が変化し移ろう様子は傍目には見えない。でも私に対するあなたの心は、すっかり色褪せてしまったのがわかります。…というのが大意。人間の心の中を花にたとえて、「色が見えないけど色褪せるもの」と表現している歌だよ。

2011-12-24 00:15:15
源実朝 @m_sanetomo

小町は生没年は勿論、その素性や生涯についてほとんど不明という謎に満ちた人物なんだ。極端な伝説も色々あるようだが、才色兼備の素敵な女性だったに違いないと私は信じたいな(´∀`) ではおやすみなさい。

2011-12-24 00:20:19

小野小町といえば六歌仙の一人としても名高いが、同じ六歌仙の遍昭や文屋康秀とやり取りをした歌が残っている。
また、安倍清行という官吏との贈答歌も古今集に収録されているよ。
これらを見ると、小町も後の清少納言のように、丁々発止としたやり取りが出来る才女として持て囃されていたのかもなと思う。

彼女の家集としては『小町集』が存在するが、これは後世に編まれたもので他人の作も混入していると言われている。
まずは18首入選している古今集で代表歌を鑑賞するのがお薦め。
古今和歌集の部屋

源実朝 @m_sanetomo

おやすみ前の和歌紹介の時間だ。四夜目は、恋の歌の第一人者ともいうべき彼女の歌から。「つれづれと 空ぞ見らるる 思ふ人 あまくだりこむ ものならなくに」(和泉式部/玉葉集・恋歌二・1467)

2011-12-25 00:10:19
源実朝 @m_sanetomo

大意は「しんみりと空を眺めてしまうの。恋しいあの方が天から降りて来るはずなんてないのに、それでもこの思いは消えやしない。」和泉式部は浮かれ女と呼ばれた恋多き女だだが、その分別れも多く経験してるのだよな。この歌はやはり早世した為尊親王・敦道親王兄弟のことを思ってるのだろうか。

2011-12-25 00:15:19
源実朝 @m_sanetomo

式部の歌はただ単に情熱的なだけではなくて、表現方法が非常に巧みではっとさせられる。紫式部や清少納言とはまた違う、艶かしい魅力のある女流歌人だな。それではおやすみなさい。

2011-12-25 00:20:31

和泉式部の晩年については没年等は不明なものの、娘の小式部内侍に先立たれたり、再婚した藤原保昌ともあまり仲が上手くいかなかったらしい。
そんな人生を反映してか、恋歌だけではなく哀傷歌や釈教歌にも優れたものが多いんだ。

彼女の作品で一番有名なのは、敦道親王との恋の思い出を綴った『和泉式部日記』だろう。
藤原俊成卿の作という説も以前は根強かったが、現代ではやはり本人の筆になるものという見解が多いようだ。
他に家集として『和泉式部集(正・続)』がある。
和歌データベース 和泉式部集

源実朝 @m_sanetomo

おやすみ前の和歌紹介の時間です。五夜目は、私も尊敬する文武両道の帝王の歌で。「思ひ出づる 折り焚く柴の 夕煙 むせぶもうれし 忘れがたみに」(後鳥羽院/新古今集・哀傷歌・801)

2011-12-26 00:10:22
源実朝 @m_sanetomo

大意は「亡き人を思い出すと、折って焚く柴の夕煙にむせぶのも、あの人の火葬の煙が思い出されて嬉しい。」前年に亡くなった、寵愛していた更衣の事を回想した歌なんだ。その夕煙が忘れ難い女性の形見かと思うと、煙でむせぶ事すら嬉しく感じるという表現から、切ない思慕の情が伝わってくるな。

2011-12-26 00:15:16
源実朝 @m_sanetomo

院がお命じになって編まれた新古今集は、本歌取りや物語取り等の技巧が駆使されてる歌が多く、万葉集や古今集に比べると一見取っ付きにくいかもしれない。でも豊かな叙情性と華やかな表現技法は、やはり和歌の到達した極地の一つだと思うぞ(・∀・) ではおやすみなさい。

2011-12-26 00:23:30

新古今集が成立したのは元久2年(1205)のこと。
だが院はその後も御自身で切継(編集作業)を繰り返し、隠岐に流されてからも改訂を行い続けた。
最終的に完成した版は通称「隠岐本」と呼ばれている。
『遠島御百首』等の歌集を残したり、歌論書『後鳥羽院御口伝』を著すなど、流刑後も和歌に心血を注いでいたことが伺えるな。

後鳥羽院は歴史的には敗北者だろうが、和歌の世界ではやはり巨人の一人。
その歌業について知りたいなら、丸谷才一や目崎徳衛などが執筆している評伝を読むとよいと思うぞ。
和歌データベース 後鳥羽院御集

源実朝 @m_sanetomo

おやすみ前の和歌紹介。六夜目は、新古今の仮名序も執筆している天才歌人・後京極摂政殿の歌から。「見し夢の 春の別れの 悲しきは 永き眠りの 覚むと聞くまで」(九条良経/秋篠月清集・無常部・1564)

2011-12-27 00:10:21
源実朝 @m_sanetomo

大意は「春に見た夢の中で兄と再会できたのに、目が覚めてまた別れてしまい悲しい。現世という長い夢が終わるまで、この悲しみは続くだろう。」良経公は『玉葉』でお馴染み九条兼実公の次男だが、20歳の時に兄が急逝して家を継いだ。その亡き兄が夢に出てきた時の思いを歌っているんだ。

2011-12-27 00:15:24
源実朝 @m_sanetomo

良経公の歌は、非常に優美で清新な言葉を紡ぎながらも、時折儚げで憂鬱な雰囲気を醸し出しているように感じられる。まるで一人だけ、どこか別の世界を漂っているかのような…。本当に素敵な歌が多いから、私のへっぽこ解説聞くよりまずは読んでみて欲しい。ではおやすみなさい。

2011-12-27 00:20:21

兄君に続いて良経公も、元久3年(1206)に38歳の若さで世を去っている。
あまりに突然な死だったため暗殺説も出たが、病死というのが今はほぼ定説となっているようだ。

自撰家集の『秋篠月清集』は、現時点では書籍にはなっていない(国歌大観には載っているが)。
ネット上で読むならここ。和歌データベース 秋篠月清集_良経
代表的な歌を鑑賞するならば、やはり新古今が手っ取り早いかな。79首の歌が入集しているよ。
あと最近こういう本も出たそうだ。藤原良経 (コレクション日本歌人選)

源実朝 @m_sanetomo

七夜目は、鎌倉後期~南北朝時代に活躍した女流歌人であるこの御方で。「山もとの 鳥の声声 明けそめて 花もむらむら 色ぞ見えゆく」(永福門院/玉葉集・春歌下・196)

2011-12-28 23:30:48
源実朝 @m_sanetomo

大意は「山の麓から鳥たちのさえずる声が聞こえ夜が明け始め、桜の花の色もあちらこちらより闇の中に浮かんでくる。」夜の闇と静寂が破られ、徐々に明けゆく様子を捉えた美しい歌。「花もむらむら」という表現がユニークだな。聴覚(鳥の鳴き声)と視覚(桜の花色)を対比させている構成もいい。

2011-12-28 23:35:16