スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #2

2012-01-15 10:50:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーモ。あー……」シルバーカラスは会釈した。「カギ・タナカです」カギ・タナカは彼の使う偽名だ。マンションもこの名前で借りている。「ドーモ」少女も会釈を返す。「ヤモト・コキです」二者は自然に名乗った。異常な事ではない。他人同士、同席すればアイサツ有り。日本の奥ゆかしさだ。 1

2012-01-15 10:57:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

長い黒髪の少女は耐酸性雨ブルゾンを着ている。だが、その下は制服だ。シルバーカラスは訝しんだ。こんな夜中に。ランドリーの中で回っているのはどうやら私服。「俺もいいですか」シルバーカラスはヤモトの隣にあるマガジン・スタンドを示した。「どうぞ」ヤモトは頷いた。2

2012-01-15 11:16:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は毒々しい見出しが踊る「日刊コレワ」を手に取りかけ、やめて、「スポーティファイ」誌を手にとった。ヤモトから離れて座り、パラパラとめくる。記事はあまり目に入って来ない。この時間に制服で何を?その手のサービスマイコ?否、そんなアトモスフィアは無い。そして大きめのリュックサック。 3

2012-01-15 11:25:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ま、家出娘ってところか。大丈夫なのかね)彼は雑誌に視線を戻す。だが、そのとき彼のニューロンに走った感覚は警戒だった。彼のニンジャ嗅覚、ニンジャ第六感といったものが、この少女のアトモスフィアにそぐわない、微かなイクサの痕跡めいた何かを伝えてきたのだ。 4

2012-01-15 11:39:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

己のコートの下のカタナの重みを感じながら、シルバーカラスは問う。 「この辺りにお住まいで?」「いいえ、一人暮らしの叔母の家に遊びに来たのですが、到着と入れ替わりで、叔母が病気で入院してしまって。服を洗いたくて」スラスラとした、だがやや無理のある答えが出てきた。「そうですか」5

2012-01-15 11:59:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「乾燥も終わったドスエ」「乾燥も終わったドスエ」ほぼ同時に二台のランドリーがマイコ音声を鳴らした。二人は顔を見合わせた。ヤモトがくすりと笑った。シルバーカラスはそそくさと洗濯物を手提げ袋に詰め込みアイサツした。「じゃあまあ、どうも。この辺は治安悪くないが、気をつけて」「ハイ」 6

2012-01-15 12:07:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コインランドリーを出たシルバーカラスは家の方角を見やり、思い直して、反対方向へ歩き出した。2、3分歩き「実際安い」とミンチョ書きされたタバコ・ベンダー機に辿り着く。彼は「少し明るい海」を探した。無情な「売り切れ」のランプが灯っている。他の銘柄を購入すべきか逡巡し、結局やめた。 7

2012-01-15 12:12:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かわりに彼は「香味コヒ結構」とプリントされた缶入りのコーヒーを購入した。ケモ砂糖と人工香料で味つけされた、舌がしびれるほどに甘い液体を飲みながら、彼はゆっくり、元来た道を戻る。コインランドリーを横目で見ると、ベンチには相変わらずヤモトが座っていた。彼は通り過ぎた。 8

2012-01-15 12:26:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「苦甘い」シルバーカラスはコーヒーを半分も飲み切れず、中身が入ったままのそれを道端に投げ捨てた。前方から肩を怒らせた男が歩いて来た。シルバーカラスは脇にのいた。男は舌打ちし、肩を怒らせたまま、真っ直ぐに歩き去る。シルバーカラスは振り返り、男がコインランドリーに入るのを見た。 9

2012-01-15 12:26:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤバイか、あれ」シルバーカラスは独りごち、頭を掻いた。予感はその数秒後に的中した。争うような物音と男の怒声、少女の叫びが、通りのここまで聴こえて来たのだ。「可哀想にな」彼は呟き、マンションの方角へ歩き出した。あの男は隠しようもなくニンジャだ。つまり少女が標的。ワケありだ。10

2012-01-15 12:31:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

となると、あのヤモト・コキも彼が感じたとおりニンジャで、それも、ここ最近で物騒な事をやらかしている類いだ。返り血のついた服でも洗ったか?逃亡?わざわざ年端もいかぬ一般市民の少女を殺害するためにニンジャが出向くわけがない。あの真っ直ぐな足取り。緊張した面持ち。 11

2012-01-15 12:42:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シルバーカラスはその手の厄介事に首を突っ込むタチではない。あの手の事はネオサイタマではチャメシ・インシデント、厄介事は己のビズで既に十分過ぎるほどに十分だ……。 12

2012-01-15 12:46:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトは新たな接近者の気配……ニューロンがヒリつく敵意……を己のニンジャ第六感で知覚し、その男がコインランドリーにエントリーするより先に身構えていた。ガラス自動ドアが開き、男が戸口に立った。男が上着を脱ぎ捨て、一瞬でニンジャ装束姿になった!「ドーモ。ナッツクラッカーです」 14

2012-01-15 12:55:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男のオジギが場を支配する!ヤモトはアイサツを返した。「……ドーモ。ヤモト・コキです」「驚いているか?ソウカイヤをナメてはいけない。ここまで逃げ延びた事自体がミラクルではあるのだ」ナッツクラッカーは凄みをきかせた。「イヤーッ!」ヤモトは先手を打って飛びかかった! 15

2012-01-15 13:11:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「ンアーッ!」ナッツクラッカーは素早い踵落としでヤモトのアンブッシュを撃ち落とした。メンポが変形し、奇怪なトラバサミめいた鋼鉄の歯を剥き出しにする!ナッツどころか岩石すら砕くであろう危険な噛みつき攻撃の予感がヤモトを恐れさせる! 16

2012-01-15 13:17:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今の情けないカラテでお前のワザマエは十分わかった。見た目相応のガキだ、お前は」ナッツクラッカーが言った。「子鹿めいて無力なガキ!こんなガキがソニックブーム=サンやバイコーン=サンを殺った?嘘だな。誰だ協力者は」「……!」ヤモトは立ち上がる。そこに蹴り!「イヤーッ!」 17

2012-01-15 13:25:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンアーッ!」ヤモトは蹴り飛ばされ、壁際のランドリーに叩きつけられた。「ゴホッ!……ゴホッ!」「貴様のジツのデータも当然ソウカイヤは取得している。要するにカラテミサイルの変形か?ガキめいたオリガミのミサイル?ハッ!」ナッツクラッカーが詰め寄る。「この狭い室内では出せんなァ?」18

2012-01-15 13:28:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムサン、敵はヤモトのジツを想定済と言ったか?確かにコインランドリー内ではヤモトのオリガミ・ミサイルは自殺行為にしかならぬ。なんたるフーリンカザンのメソッドにのっとったナッツクラッカーの狡猾!ヤモトは袋のネズミであった。「まず命乞いをしろ」ナッツクラッカーは冷たく言った。 19

2012-01-15 13:34:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そして協力者の名を吐け。ガキのお前はわけもわからず無謀なイクサを続けているんだろうが、社会は許さん。ソウカイヤに楯突く不安分子は、ガキも追い詰めてカラテだ」「……!」ヤモトの目に涙が滲んだ。「黙るな。命乞いをしろ」ナッツクラッカーの目が光る。「身体に訊いてもいいんだぞ」 20

2012-01-15 13:40:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナッツクラッカーは脅すようにガチガチと鋼の歯を打ち鳴らした。「お前のように平坦な胸のガキは趣味ではないが、愉しむ事はできる!そして情報もいただく!つまり、グワーッ!?」ナッツクラッカーの口上は遮られた。その胸、ちょうど心臓のある場所からカタナの切っ先が生えていた。 21

2012-01-15 13:44:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……つまり?」ナッツクラッカーのすぐ後ろに、先程のカギ・タナカが立っていた。カギ・タナカはナッツクラッカーの頭を掴み、咄嗟の噛みつき攻撃を封じて、冷たく問いかけた。「つまり、背後からのアンブッシュにまるで警戒を振り向けない?」「アバッ!?アバッ……!?」 22

2012-01-15 13:47:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐るべきは背中から心臓をひと突きにしたそのワザマエ。ナッツクラッカーは致命傷を負い、急速に死にかかっていた。「ア、貴様……」「ソウカイヤ関係のニンジャか……面倒は嫌なんだよ」彼は片手で懐からダガーナイフを引き抜き、ナッツクラッカーの首の横を刺して、ねじった。「アバーッ!」 23

2012-01-15 13:52:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトには知る由も無いが、この刺突はトドメのカイシャクであると同時に、ソウカイ・ニンジャ一般にサイバネインプラントされているIRC通信機を速やかに破壊する為のものであった。タツジン!カギ・タナカはナッツクラッカーの首を掴み、コインランドリーの外へ投げ倒した。 24

2012-01-15 13:56:56