シンメトリー霖SS

accera @accera_4971

シンメトリーとは『左右対称』の意味で、ギリシャ語の『同じ尺度』に由来する。それは一見して明らかなる調和性を有し、視覚的な美しさを持っている。そもそも『美』という感じが既にシンメトリーである。調和。安定なるもの。構造的な優性。僕らが直感で美しいと感じるものだ。 #シンメトリー霖SS

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漢数字にも、その左右対称の美しさが多々ある。『一』、『二』、『三』、『六』、『八』、『十』。ぱっと見て左右対称なこれらは、見た目が美しいだけではなく、その数字自体も安定した性質を持つ。対称性は安定的だ。安定的であることは構造的だ。そして、構造的とは、美的だ。　#シンメトリー霖SS

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そして今日の日付。一月二十一日。見てくれ。全ての漢数字が左右対称ではないか。その上、この日付は一・二一と書く事もできる。これもまた完全な対称性。美しい。完成されている。非の打ちどころもない。これはなかなか素晴らしい。まあ同じような日は年に何回もあるのだけど。 #シンメトリー霖SS

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「だから何が言いたいの？」彼女は僕の話をさえぎって言った。だから何、という訳じゃない。ただそうであり、そしてそうであることをそうであるがままに言っただけだ、と僕は言った。彼女は呆れたように言う。「ほんと、実のない話ばかりよね、霖之助さんは」ばかり、はやめろ。　#シンメトリー霖SS

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霊夢に僕は続けて言った。「君の名前にも、左右対称があるね」「『霊』だけね。珍しくもないわ」彼女は面白くもなさそうに言う。ちなみに僕は『森』と『霖』の二つだ。そう言ったら、「あっそ」とだけ彼女は言った。どうでもいいと思っているに違いない。心底。そんな調子だ。 　#シンメトリー霖SS

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「左右対称は美しいだろう？」「そうかしら」気だるげな調子のままに霊夢は言う。彼女は物事の情緒に対する感受性が欠乏している。先程僕が語ったことすら、既に忘れ去ってしまったに違いない。右から左へ。馬耳東風。まったく、この娘ときたら。僕は憮然としつつも話を続ける。　#シンメトリー霖SS

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一二一、と僕は紙に書く。僕はそれを霊夢に見せる。緩慢な仕草で彼女の瞳が紙面を捉える。「一月二十一日なのか十二月一日なのか、分からないわね」確かにそうだが、それは大した問題じゃない。「考えてみようよ。一年の内、何日が左右対称かを」僕は筆を握り、穂先を隅に浸す。　#シンメトリー霖SS

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「まず、各月は一から一二まで」「十はどうするの」「便宜上、一〇を当てよう」僕は筆で書きとめていく。霊夢が側へと寄ってきた。「まず、一月から九月までは、この月の漢数字が下一桁になる数字が全て該当する。なぜなら一も二も三も全てシンメトリーだからだ」霊夢が頷いた。　#シンメトリー霖SS

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「これで二月から九月まではそれぞれの月に三つずつ、左右対称の日付があることが示された。一月は三十一日まであるから四つだ。これで計は二八。次は一〇から一二だ。一〇月はたった一つ、一〇月一日。一一月と一二月はそれぞれ二つずつ、一一一、一一一一。一二一、一二二一」　#シンメトリー霖SS

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「合計は……」「三十三」霊夢は、はっとした目になった。僕もちょっと驚いた。そして次に得心が言った。当然と言えば当然か。左右対称を集めたものが、左右対称にならない筈がない。霊夢はまじまじと計算結果を見た。僕は満足した気持ちで、筆を硯に立て置いた。ふうやれやれ。　#シンメトリー霖SS

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「どうだい？　美しくないか？」「……まあ、ね」霊夢はどこかむくれたようにそっぽを向いた。納得させられてしまったことが悔しいらしい。僕はくつくつと笑った。霊夢は不満そうにしていた。彼女は言った。「……で？　結局それだけなの？」「それだけって？」「美しいだけ？」　#シンメトリー霖SS

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「そうだけど」「……なんだったのかしら、このやりとり」「さあ」始まりはなんだったかな。今では思い出せない。ただ、彼女と思考するのが愉快ではあった。僕は言った。「楽しかったから、いいのさ」霊夢は僕の言葉に一瞬きょとんとした後、少しだけ口の端を釣り上げて笑った。　#シンメトリー霖SS

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＜終＞　#シンメトリー霖SS