スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #4
第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #4
2012-01-23 11:20:16「待て」暗緑色の装束を着たニンジャが、後続する大柄な銅色のニンジャを制した。「ターゲットのニンジャソウル痕跡がここで二手に別れている」暗緑色のニンジャはソウカイ・シンジケートのサードアイ。銅色は賞金稼ぎのニンジャ、ソードダンサーだ。 1
2012-01-23 11:28:08どちらも装束の合わせ目にソウカイヤ側のチームである事を示すクロスカタナのエンブレムを装着し、メンポの奥の瞳に冷たい殺気を宿している。特にソードダンサーのメンポはオセアニアの呪術仮面めいて、フリーランスの殺し屋ニンジャらしい極めて恐ろしいアトモスフィアを放っていた。 2
2012-01-23 11:37:23「ソウル痕跡が二手?」ソードダンサーは振り返った。「同じ女が二つに別れたと?」「違う」サードアイは機械的に否定した。「そんなジツの情報は無い。可能性としては『クマのメソッド』だ。雪道をしばらく進んで、自分の足跡に沿って戻り、別方向へ行く。クマは追跡逃れの為にこれをよくやる」 3
2012-01-23 11:56:39「どうする。時間があるまい」ソードダンサーが言った。「どっちの痕跡が新しい?」「いや、どちらも判断し難い」サードアイは答えた。嘘だ。彼は嘘をついた。「二手に別れるとしよう。俺はこっちだ」サードアイは脇道を親指で指差した。「……」ソードダンサーがサードアイを凝視した。 4
2012-01-23 12:02:42「含みがあるな」とソードダンサー。「俺がそっちへ行く」「含みなど無い」とサードアイ。「だが言い争う時間も無駄だ。そうしてくれ。俺はこっちを攻める」彼は大通り方向へアゴをしゃくった。「情報はIRCで共有だ」「よかろう」ソードダンサーは頷いた。「シルバーカラスとはどこで合流だ?」 5
2012-01-23 12:18:06「ノーティスにロクに連絡をよこさん。独断して割り込みキンボシでも企んでいるのかもな、バカな奴め」サードアイは答えた。「所詮は小娘一匹。奴の現れるより先に首級を上げてオシマイだ。……無駄話は終わりだ。行け」「うむ」ソードダンサーは頷き、脇道へ飛び込んだ。6
2012-01-23 12:39:42サードアイは目を細めた。(せいぜい無駄足を踏め、野良犬め)会話の中で、ソードダンサーが脇道を選択するように誘導したのだ。正解のルートは大通りである。実際のところ、サードアイの強力なジツは、ターゲットの足跡を概ね捕捉できているのだ。 7
2012-01-23 12:44:58ソウル痕跡は告げる。廃ドージョーからこの道を進んできたターゲットは、その時、もう一人、別のニンジャと共に居た。恐らくは、それが謎の協力者だ。彼ら二人で脇道を抜けた。その数時間後に、ここへ戻ってきている。今度は彼女一人。一人で大通り方向へ進んで行った。この痕跡はまだ新しい。8
2012-01-23 12:51:48サードアイのニンジャ情報処理能力が推測した状況はこうだ……廃ドージョーから出たターゲットと協力者は一旦、アジトへ帰った。協力者はアジトに残り、ターゲットが一人で出掛けた。買い出しか、別の協力者とのコンタクトか。協力者は今もアジトに居る。そいつがナッツクラッカーを殺したはずだ。 9
2012-01-23 12:57:01ソードダンサーが脇道の先で協力者に遭遇する可能性は高い。協力者はあのニンジャスレイヤーかも知れぬ、とサードアイは考えていた。リスクが高過ぎる。なにしろシックスゲイツを次々に殺す狂人だ。不安要素にはソードダンサーをぶつけておいて、自分がキンボシを獲る。(これがマネジメントだ) 10
2012-01-23 13:03:34サードアイは大通りをしめやかに駆ける。残業帰りのサラリマン、クラブを移動するDJ、道端に座り込んで道路を眺める泥酔者や浮浪者には、彼の姿は色つきの風にしか見えない事だろう。あなた方も日頃そのようにして、オペレーション中のニンジャ存在を知覚できずにいるのだ。それは幸運な事だ。 11
2012-01-23 13:25:13サードアイは今や痕跡だけではなく、ターゲットのニンジャソウル存在それ自体を感知していた。かなり近い。「イヤーッ!」彼は大通りをひととびに跨ぎ、タマ・リバーの堤防へ進入した。彼は背中のニンジャソードを抜いた。さあ、どこから斬ってやろう……「?」彼は目を見張った。あの光。 12
2012-01-23 14:11:28ターゲットは河川敷にいた。距離がある。だが目が合った。闇の中で桜色の眼光が煌めき、サードアイを射抜く。華奢な少女の輪郭が、その眼光と同じ色に薄ぼんやりと光っているように思えた。待ち構えていたのか?追っ手であるサードアイを?「ドーモ」彼のニンジャ聴力は少女のアイサツを捉えた。 13
2012-01-23 14:17:46「ヤモト・コキです」少女がアイサツを終えると、桜色の光が複数、彼女の頭上に渦を巻いて浮かび、編隊を組んだ。オリガミ・ミサイル!サードアイは素早くアイサツを返す。「ドーモ、ヤモト・コキ=サン。サードアイです」そして試作サイバネ機構のスイッチを入れた!「効かぬぞ、それは!」 14
2012-01-23 14:23:02「開くドスエ」マイコ音声が鳴り、しめやかにエレベーターのカーボンフスマが開いた。ソードダンサーは進み出た。オセアニア呪術仮面風のメンポはジャングル奥地に秘められたモージョーを思わせ、人の情けなど一片も持ち合わせぬ悪魔めいている。実際彼はニンジャであり、そう遠い存在でもない! 16
2012-01-23 14:31:25シューッ。シューッ。メンポ呼吸孔から獰猛な吐息が漏れる。このマンションを視界内に捉えたあたりから、サードアイより劣る彼のニンジャ野伏力によってもソウル痕跡の読み取りが可能となった。それほどニンジャが近い。彼は廊下をしめやかに進み、鉄扉のひとつの前に立った。「カギ・タナカ」。 17
2012-01-23 14:40:03KRA-TOOOOOOOOOOM!その瞬間、マンション「さなまし」B棟303、カギ・タナカの住む部屋は、内側から爆発したのである!ベランダ窓が、鉄扉が吹き飛び、中から爆炎を吐き出した!「グワーッ!?」 19
2012-01-23 14:58:54ソードダンサーは炎に包まれ中庭に落下!だが彼もひとかどの油断ならぬニンジャ戦闘者、空中で二回転の後、膝立ちに着地した。ナムサン!そこへ上から襲いかかるニンジャ・アンブッシュ!「イヤーッ!」「なにィーッ!?」 20
2012-01-23 15:02:22ソードダンサーは腰後ろに交差させた鞘からふた振りのカタナを引き抜き、アンブッシュ者の斬撃を弾き返した。「イヤーッ!」飛び離れるそのニンジャのステルス機構が解け、鈍色のニンジャ装束が闇に出現した!「貴様は?シルバーカラス=サンだと!?」「ドーモ。ソードダンサー=サン」 21
2012-01-23 15:10:49「ドーモ、気でも狂ったかシルバーカラス=サン!?」ソードダンサーはやや変則的なアイサツを返した。「狂ったのか!?」「ああそうだ。俺は狂ったのさ」シルバーカラスは無感情に答えた。「タバコ無いか。『少し明るい海』。無いよな。あるなら、いただこうと思ってな。お前の死体を漁って」 22
2012-01-23 15:27:12「サードアイ=サン!応答せよ!裏切りだ!」「IRCか?無駄だ。今の爆発、粉塵にチャフが混じってる。試験品の余りを黙って拝借した事があってな。秘密だぜ……怒られるからな。コストが見合わず、実用化される事は無かった」「なぜだシルバーカラス=サン」「狂ったのさ。老い先短いんでな」 23
2012-01-23 15:31:03「……」ソードダンサーは奇怪なメンポの奥で瞬時に脳内コンセントレーション儀式を行い、平常心を取り戻した。彼のニューロンの中、コンマ1秒にも満たない速度で、オセアニア・パーカッションと呪術ダンス光景のイメージ・モージョーが展開し、ザゼンめいて彼を鎮めたのだ。「……ならば殺す」 24
2012-01-23 15:34:28