後期クイーン的問題を正面突破せよ

後期クイーン的問題に関する、笠井潔さんの1/27のつぶやきのまとめです。
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笠井潔 @kiyoshikasai

主人公が倒れても倒れても立ちあがる冒険小説と、解決されても解決されても次の逆転がある探偵小説は対応していると思う。対応しているのは、笠井の頭のなかの話にすぎないのだろうか。

2012-01-27 05:18:02
笠井潔 @kiyoshikasai

しかし探偵小説の結末は読者にもちこされ、読者の頭の中で次の、そして次の次の逆転がなされる(だろう)。このような探偵小説だけが優れている。読み終えて真相がわかって、それで終わりというような探偵小説はつまらない。

2012-01-27 05:25:15
笠井潔 @kiyoshikasai

探偵小説の真の魅力は「終わらない」ところにある。この「終わらなさ」を際立たせるために、結末の真相が要請されるにすぎない。探偵小説は読者に呪いをかける。いったん読んでしまった以上、真相の次には別の真相があるに違いないという強迫観念から、もう逃れられないという呪いに。

2012-01-27 05:35:11
笠井潔 @kiyoshikasai

結末で真相や犯人がわかる探偵小説は、根本的に予定調和的な「物語」だから下らないという蓮実重彦の「物語批判」的な探偵小説批判がある。こうした批判のほうが下らない。理由はすでに述べたとおりだ。

2012-01-27 05:37:54
笠井潔 @kiyoshikasai

探偵小説読者の多くは、ゲーデルとか現象学とか七面倒なことをいう後期クイーン的問題など関心の埒外だろう。しかし、読み終えても「終わらない」探偵小説の無底性に魅力を感じるなら、後期クイーン的問題は無視できないはずだ。無視できる、無視してもかまわないのはデータベース型の読者。

2012-01-27 05:42:34
笠井潔 @kiyoshikasai

『エラリー・クイーン論』の飯城勇三氏がいうところのデータベース型読者は、探偵小説の読書量を誇る「本格の鬼」と重なる。こうした人たちは探偵小説を消費するだけで、探偵小説に呪われることがない。探偵小説の無底性に戦慄することも。

2012-01-27 05:47:37
笠井潔 @kiyoshikasai

しかし探偵小説の歴史を根底で支えてきたのは、データベース型読者の分類に新たな一項目を提供するような作品ではない。そのようにクイーンや横溝正史を読まなければ、なにを読んだことになるのだろう。このタイプの読者は、探偵小説を「愛している」のではない、「軽んじている」にすぎない。

2012-01-27 05:52:33
笠井潔 @kiyoshikasai

小説読者が評論読者である必要はまったくないが、あなたを捉えてしまった探偵小説の無底性(という呪い、あるいは無限に呪いに近い魅力)について考えているのが後期クイーン的問題をめぐる議論であることは、頭の隅に止めておいてほしいと思う。

2012-01-27 06:08:33
笠井潔 @kiyoshikasai

後期クイーン的問題とか小難しいことをいう人間がいるから、探偵小説が一般読者に敬遠され、ジャンルとして失速していくのだという「本格の鬼」による俗論がまかり通っている。そうではないということをいいたかった。

2012-01-27 06:11:12
笠井潔 @kiyoshikasai

後期クイーン的問題として論じられてきた難問を正面突破することなしに、21世紀探偵小説の地平は拓かれないだろう。もちろん理論的にでなく、実作で突破すればいいのだが。この問題を回避して手堅い本格に戻ろうとしても、時代はそれを許さないだろう。

2012-01-27 06:18:34
笠井潔 @kiyoshikasai

麻耶雄嵩『隻眼の少女』と違って、後期クイーン的問題との関連を指摘されることは少ないようだが、法月綸太郎の新作『キングを探せ』もまた、この問題に対する応答として読むことができる。

2012-02-03 00:42:03
笠井潔 @kiyoshikasai

数学的な論理パズルをうまく小説プロット化できれば、小森健太朗のいわゆる「ロゴスコードの変容」には対処可能だ。探偵役の推理は数学的な論理水準で推移し、犯人を含めた関係者の「常識」や「心理」に依存しないから。

2012-02-03 00:46:05
笠井潔 @kiyoshikasai

また、犯人側からの叙述(倒叙)を部分的に活用すれば、「操り」や「証拠の偽造」として表面化する後期クイーン的問題は、とりあえず回避できる。正面突破とはいえないが、この問題を回避した手堅い本格の試みとして、『キングを探せ』を評価することができそうだ。

2012-02-03 00:53:35