デジタルゲームにおける人工知能の作り方

「デジタルゲームにおける人工知能の作り方」のツイートをまとめました。
104
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

人工知能がプログラマーから見て難しいのは、人工知能をあまりにプログラミングと結びつけて考え過ぎるからです。AIはレンダリングと同じように、一つの原理であって実装の法則ではありません。プログラミングから入るとAIのある特定の部分を切り取りやすいですが概念的な部分が欠落してしまいます

2012-01-29 13:59:45
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

人工知能は深い階層を持つシステムであり、知能として現れる部分は、その最後の上層にあたります。実装は一番基本的な最下層の部分です。「プログラミング実装されたものが、複数の層を通して最終的に知能として現れる」というデジタル空間の不思議な現象を司る原理こそが、人工知能なのです。

2012-01-29 14:03:56
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

「知能を直接的に記述する」という方法論は古典的な人工知能の取り組みであっても本質ではありません。そういった実装から入ると、しばらくしない内に壁に当たります。「自分が知能を記述しているとしたら、このソフトウエアは果たして人工知能と呼べるだろうか」と。その壁を超えることが次の段階です

2012-01-29 14:07:36
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

人工知能という学問は常に人間の「意識的機能」に着目してそれを模倣できるような機能を機械の上に実現しようとして来た学問でした。それは決して知能を内側から再構築しよう、というコンセプトではありませんでした。それはいわば、西欧的な自己意識に満ちたフレームの上で行われて来た学問なのです。

2012-01-29 14:13:23
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

ところがデジタルゲームのキャラクターAIを作ろうとする時には、そういった表層的な機能だけでは足りません。人工知能の技術だけを持って来ても、機能=アルゴリズムを持ったソフトウェア以上のものにはならないのです。それで足りる場合もあります。でもそれは間に合わせ程度に過ぎません。

2012-01-29 14:15:18
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

デジタル空間の中で真に自律した知能を作ろうとすると、現実において知能が一体どのような機構の上に成り立っているか、という知識が必要になります。それは人工知能を超えて、生物学、心理学、精神医学など、あらゆる人文的知識を総動員して、やっと仮組みができる程度のものなのです。

2012-01-29 14:17:18
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

たとえデジタル空間の中でも、知能を作り出すことは容易なことではありません。知能はこの宇宙150億年の最高の産物の一つです。それを完全に再現することができないでしょう。しかし、知能の原理を一歩一歩解き明かすことはデジタル空間の中で真の知能を少しづつ目覚めさせて行くことに繋がります。

2012-01-29 14:19:30
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

知能の深さは、常に宇宙の深さと等値です。その人の知性の深さは、その人に見える世界の深さと同じです。レンダリングで詳細な世界を描くなら、その詳細さと同じだけの知能をキャラクターに与えねばなりません。実際の世界でも、人間から見て、人間の知能の謎と、宇宙の起源は同じ深さを持っています

2012-01-29 14:24:39
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

ジャンコクトーの映画で世界の中心に降りていくと、世界の中心からは世界が見えているだけ、という場面があります。これは非常に良い比喩です。人間が意識を探求して見えて来るのは、人間が見ている現実世界のイメージなのです。これを哲学では「意識とは、常に何かについての意識である」と言います。

2012-01-29 14:29:07
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

とすれば、人工知能に意識を持たせるということは、何か不可思議なシステムを与えることではなくて、まずはその知能が知覚する現実を与えてやることなのです。そこから、人と世界の繋がりが始まります。やがて「見ていただけの世界=意識」から積極的に参加する世界へと変容して行きます。

2012-01-29 14:31:56
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

だからまずAIを作る時は、「そのAIが見ている世界」=「開発者がそのAIにゲーム環境をこう見ていて欲しいと思う世界」を与えてやりましょう。岩は岩でしょうか?草は草でしょうか?岩は遮蔽物として見せたいですか?草は食料として見せたいですか?AIに世界と世界の見方を実装してあげましょう

2012-01-29 14:35:18
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

FSMもプランニングもルールベースも人工知能のシステムであって基底ではありません。人工知能の基底は常に世界そのものの見え方にあってその情報を解析する技術として様々なアルゴリズムを応用すればいいのです。決してアルゴリズムを先行させてはなりません。それは知能でなくマシンを作るだけです

2012-01-29 14:39:55
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

我々はあまりに自然に世界を見てしまっています。それが人間が切り取っている世界であることは通常意識されません。しかし我々が見ている世界、無意識の中で咀嚼された世界は、人間の特有の五感と脳によって世界から切り取られた擬似的な現実であって、その世界を通じて我々は世界に参加しているのです

2012-01-29 14:41:59
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

そして、そのような見えている世界の上で、我々はいろんなことを意識的に考えます。だとすれば人工知能も同じことです。人工知能にも、その存在が切り取るべき、見るべき世界を与えてやりましょう。その世界の上に立って、初めて考えることが始まるでしょう。

2012-01-29 14:43:55
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

では、「生物が見ている世界」はどのように再現してやればよいでしょうか?それは何によって決まるでしょうか?それには二つの要素があります。一つ「その生物がこの世界でどのような形で存在しているか」、一つ「その生物がどのような生存の戦略を取っているか」です。つまり、生態と生存の仕方です。

2012-01-29 14:46:04
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

生態と生存の形が意識の見え方を決定します。生存は簡単に言えば、身体、及び、環境との相互作用を含めた身体というシステムのことです。当然、保身と捕食を含みます。生態は、環境の中でいかに自分と子孫を残して行くか、という生物の戦略です。

2012-01-29 14:49:11
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

地球上ではさまざまな生物が活動しています。そして、それらの生物は長い進化の中で、その生態と生存の形に従ってそれぞれに意識を構成しています。それぞれの生物が、この世界から切り取っている世界は生物によって全く違います。私はそこに、知能の様々な豊かさを見ます。様々な知能の可能性を見ます

2012-01-29 14:50:41
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

さまざまな生物になって考えて見ましょう。あなたが魚だったらどんな世界を見ていますか?あなたが蛇だったら?あなたが鷲だったら?カラスだったら?ミミズだったら?ダニだったら?ゾウだったら?オオサンショウウオだったら?どんな意識を持っているでしょうか?どんな世界を見ているでしょうか?

2012-01-29 14:52:57
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

そして、あなたが、あなたの作るゲームのモンスターだったら、どんな世界を見るべきかを考えましょう。モンスターが見るべき世界はなんでしょうか?モンスターにとってプレイヤーは何ですか?記号ですか?そうではないでしょう。自らの生態系を犯す危機としてプレイヤーは現れるでしょう?

2012-01-29 14:54:29
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

そうすれば、見えて来るはずです。そのモンスターにはテリトリーを設定してやりましょう。テリトリーの領域を侵したら襲うようにしましょう。賢いモンスターなら、侵入者には罠を仕掛けるでしょう。あるいはカムフラージュを施すでしょう。自分が優位に立てる地点を知っているでしょう。

2012-01-29 14:56:36
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

まずこういったことを実装します。モンスターが認識するべきことを準備してやれば、その上に思考を作って行きます。実は思考の方はエレガントな世界です。どろっとした部分はこのようなモンスターの見る世界や環境の表現の方にあります。ウエットな部分、ドライな部分を併せ持つことが重要です。

2012-01-29 14:58:35
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

モンスターが見るべき世界を構築することは、キャラクターAIを確立する、実に半分、否、半分以上を占める作業です。よい地盤ができれば、あとは、その上に人工的に知能を作ればよいのです。思考だけをいきなり作ろうとすることは、基礎工事もなしにお城を建てるようなものです。

2012-01-29 15:01:13
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

人工知能を作ろうとすることは実に多くのことに目を開かせてくれます。ちょうど建築家が現実世界の物理、地質、材料、気候の知識を吸収するように、人工知能の開発者は、生命、環境、進化、心理、といった方面のものごとの見方を修練することになります。

2012-01-29 15:06:00
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

忘れてはなりません。我々の知能も自然の中の一個の現象なのです。観測されるものだけが現象ではありません。我々自身、人間も人間の持つ知能も、自然が作り出した一個の現象なのです。知能を出そうとすることは、人類が最初に自分で火をおこす事を覚えたように、自然の現象をもう一度再現することです

2012-01-29 15:09:56
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

.@nico_shindannin 【ユクスキュル「生物から見た世界」】【ギブソン「生態学的視覚論」】【メルロ=ポンティ「知覚の現象学」】

2012-01-29 20:50:26