- dz_ayazuki
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はじまりはこんな感じだった。
@null 放課後。がらりと教室のドアが開く音がして、綾城は振り返った。入ってきたのは友人だった。「あれ? まだいたんだ?」音が聞こえなかったので、もう帰ったと思ったのだろう。「うん。もう帰るとこ」言いながら、ケースに片付けられたチェロを示す。 #dezasure
2011-10-01 02:45:57@null 帰る準備はもう出来ていた。だが綾城は立ち上がるでもなく、窓際の席から外を見ていた。「…何見てるの?」「んー、グラウンド?」質問に、疑問形で返す。特に何か目的があって見ているわけではなかったからだ。グラウンドでは、様々な運動部が活動を行っている。 #dezasure
2011-10-01 02:46:30@null 「あ、剣道部」ぽつりと漏らす。剣道部だって、常に室内で練習しているというわけではない。外を走るときもある。剣道着のまま、主将を先頭に部員たちが連なってグラウンドの外周を走っていた。「また、何かイベントないかなぁ…」 #dezasure
2011-10-01 02:47:04@null 呟きに、友人はきょとんとした。どうやら話が飛びすぎたらしい。改めて説明する。「こないだね、加納先輩が戦ってるところを目撃したんだけど。かっこよかったんだー」バトルの理由は確か、納豆がどうの、とかいう格好良さからはかけ離れたものだったが。 #dezasure
2011-10-01 02:47:46@null 理由はさておき、かっこよかったのは間違いない。「…綾」「ん?」「知ってると思うけど。…加納先輩、彼女いるよ?」今度は、自分がきょとんとする番だった。一瞬後に理解して、慌てて顔の前で手をぱたぱた振る。 #dezasure
2011-10-01 02:49:11@null 「ち、違う違う、そーゆーのじゃなくて! 単にかっこいいよね、ってだけだってば! ほら、私、日本刀好きだし!」自分の武器が投擲武器な分、ああいう近接距離で戦う人には憧れる。…それだけ、のはずだ。「ホントに?」「本当だって!」「それなら、いいんだけど」 #dezasure
2011-10-01 02:49:50@null加納先輩とその彼女—重藤先輩の仲の良さは、学園内でも有名だ。あの“最強”と呼ばれる先輩が、重藤先輩の前では借りてきた子犬みたいになるのを、綾城も見たことがあった。「ありがと、心配してくれて。…でも、本当に、違うから」 #dezasure
2011-10-01 02:50:43@null 席から立ち上がって、壁に立てかけていたチェロのケースを肩に掛ける。「…そういうのは、もう、いい」口の中で小さく呟く。おそらく友人には聞こえていないだろう。「帰ろっか」友人の問い掛けに、綾城は頷いた。 #dezasure
2011-10-01 02:51:32@null そう、人を好きになるのは、もういい。散々な目にあったのだから。思いながら、窓の外のグラウンドを振り返る。 #dezasure
2011-10-01 02:52:30@null 遠くに見える剣道部主将は、3年生だからもちろん自分より年上で、背が高く、かっこよくて、そして強い。それが自分を散々な目に遭わせた原因とは全く逆なことに気付いて、綾城は苦笑した。 #dezasure
2011-10-01 02:53:50狙撃手とカチ合うことが多いので視線には敏感で、教室からこっち見てる女生徒に気づいたら笑顔で手を振るくらいするのが剣道部主将です #dezasure
2011-10-01 02:57:20そして、冬。
@null バレンタイン数日前のその日、綾城そらはガタン、と教室の椅子から立ち上がり、拳を握り締めた。「結愛ちゃん、私、決めた!バレンタインにチョコレート渡す!」 @hikarudream @Kanoh_ds #dezasure
2012-02-14 12:13:16@null 「近所の中学生に言われたの。いじいじしてても何も変わらない、命懸けでアタックしろ、って。…命懸けはどうだろう、って思うけど。……ずっとこのままでもいいって思ってたけど、それじゃあ前に進めないもんね…」 @hikarudream #dezasure
2012-02-14 12:13:35@Kanoh_ds 友人たちの声援を背中に受けて、教室を飛び出す。途中、風紀委員やブラックタイガーの強襲に遭ったりもしたが、なんとかかわし続け、辿り着いた先は剣道場の裏手だった。ちょうど昼稽古を追えたせんぱいが、水を飲んでいるのが見える。「……加納せんぱい!」 #dezasure
2012-02-14 23:51:08@Kanoh_ds 思わず言ってから、次の言葉を考えていなかったことに気付く。顔が赤い。息が上がる。…いやこれは走ってきたからだ、きっと。「…せんぱいに、渡したい、もの、が。あって」 #dezasure
2012-02-14 23:53:11@dz_ayazuki 「よぉ、そらちゃンか」水道の水をざっと頭にかぶったら、かるくかぶりを振って汗の混じった水滴を散らす。「渡したいもの? オレに? ハハ、もらうもらう」首に引っかけたタオルで軽く顔を拭いて、屈託のない笑顔を見せた。 #dezasure
2012-02-14 23:57:12@Kanoh_ds 後ろ手に持った小さな紙袋をぎゅっと握る。今ぜったい顔赤い。走ってきたせいだと思って欲しい。お願いだからそういうことにしておいて。「…あ……あの、甘いものは、お好きですか…」ようやく出た言葉は、消え入りそうだった。 #dezasure
2012-02-15 00:02:36@dz_ayazuki 「おう。乃梨子に食いすぎって怒られるくれぇには好きだぜ」こくりと頷いてカラカラと笑う。何気ない返答に、無自覚な惚気(残酷な)を混ぜて。「どした、そらちゃン。顔真っ赤だぜ? 走ってきたンか」そして、妙なところで目敏いのだ。 #dezasure
2012-02-15 00:05:52