apt117氏作、ユウシャ譚

影山影司 @apto117

大き過ぎた戦争は、いつしか魔王と呼ばれるようになった。大地を、雨を、風を、そして生命を汚す爆弾がその名前を永遠にしたのだ。戦争を止めるべく作られたユウシャは晴れることの無い鉛色の空に涙を流した。もうこの世界で汚染されていない水は彼しか持っていないのだ。 #twnovel

影山影司 @apto117

ユウシャは大体こんな感じのイメージです。　http://yunbymunch.web.fc2.com/jojo/arakings14.html

影山影司 @apto117

ユウシャは地面を攪拌するのは得意だった。が、種を蒔くことは出来なかった。自慢だった力強い腕は魔王が死んだ世界では無用の長物なのだ。種を蒔く人を探そう、そうして彼は旅に出る。魔王が死んで、三百と六十と五年後のこと。小国一つ分もの土地を耕す生活がようやく終わったのだ。#twnovel

影山影司 @apto117

初めての仲間は僧侶であった。『こんな世界にあって、まだ創造主を信じているのか』とユウシャは問うた。弱きも強きも淘汰され、サルよりも浅ましいヒトの世を渡り歩いて、あなたはまだそのような事を言うのか、と。「それでも、彼は私を生んだのだ」ユウシャはその言葉に癒される。 #twnovel

影山影司 @apto117

盗賊は戸惑った。自分は悪人であり、善き事をすべき人間ではない、と。僧侶とユウシャは首を振る。「この滅んだ世界に、OUTLAWも魔法もないあるとすれば、ただの行いだけである」と。盗人連歌を引くまでも無く、言葉が通じると心もまた通じる。ユウシャ達の道も、先へ通じる。 #twnovel

影山影司 @apto117

そう、遊び人はもっと戸惑った。「確かに自分はパーティにゃピッタシですがね」まさかテメェが面白可笑しくウワサ話で語ったヤツとこんな酒場でツラあわせるとは思ってなかったんだ。その後どうなったかは言えねぇケド、兎角この話は遊び言葉に始まりあそばせ言葉に終わってあそばせ。#twnovel

影山影司 @apto117

ユウシャは焚き火を囲んで賢者の話をすることを好んだ。昔はバクダンハカセと言えば知らぬ人は居なかった、怖い人だと言われていたが、戦争を終わらせたら仲間を作って、寝る前にこうやって面白い話をしなさいと何度も教えてくれたのだ、と。賢者が今いないこと、それが少し悲しい。 #twnovel

影山影司 @apto117

ユウシャの無骨な腕は、かつてのように彼の自慢の腕となった。彼が瓦礫の山を切り拓き、仲間が後へ続いた。穢れた空気を吸っても澄んだ涙を流せる者、それがお前なのだと教えてくれた賢者の言葉は嘘でなかった。吐き出した蒸気がマーチを吹く。ユウシャは今生きていることが嬉しい。 #twnovel

影山影司 @apto117

ユウシャのパーティはいつしか村を作った。畑の作物は花を咲かせ、植えた苗木は森となった。盗賊は遊び人の心を盗んで、子供を成した。（逆かもしれない）かつての仲間がおじいさんとおばあさんとなって、子供達は健やかな大人になった。ユウシャは今日も広く大きな畑を耕している。 #twnovel

影山影司 @apto117

「水が足らない」と言い出したのは僧侶だった。美しく戻りつつある世界でも、水だけは未だユウシャに頼っていたのだ。老いても清澄さを欠かすことの無かった僧侶が、二人きりの時に口減らしと口にした。ユウシャは忘れかけていた『魔王』の事を思い出す。遠い記憶がリロードされた。 #twnovel

影山影司 @apto117

「お前の胸の奥には、魔王がいる。魔王を倒すには魔王が必要なのだ。だが、魔王亡き後は死ななくてはいけない。お前自身が魔王にならないように」ユウシャは賢者の言葉をリロードした。そして胸の蓋を開けて、設計図を一枚残して全て燃やした。僧侶にも誰にも生き返らせないように。 #twnovel

影山影司 @apto117

今日、世界の中心には「ユウシャムラ」と呼ばれる地区がある。名前の由来は分からないが、永久保存区として緑豊かな国営公園と、世界中の水を賄う水源プラントが設置されている。プラントはまるで墓碑のような外観で、そこには一言「心優しきユウシャ　ここに眠る」と刻まれている。 #twnovel