- hosidukuyo
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懐かしい、と言う言葉は昔見聞きした、と言う以外にそれが良かったものとして残された記憶に対して使うものなのだろう。 #シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 00:46:28だから俺はその声に対して一言でなく「古い、過去の」 「忌々しい」 と言う二つの感想を抱き、そして後者を出来るだけ押し殺して振り向いた。 #シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 00:46:48「帰ってたのか・・・」 俺はなるべく何も感じていない、感じさせないように平坦な表情、声を装った。何らかの感情を俺が、こいつに、抱いていると感じられてしまうのはそれがどんなものであろうと、#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 00:47:09「ハイ、兄上様・・・お会いしたかったです」微笑って言った。「・・・」全くもって無駄だった。どう当たってみても、結局、こいつは、好意としか受け取らないのだ。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 00:47:47「そうか」 俺は無表情でいられているだろうか。「でもこれから塾なんだ。すぐ出掛けるよ」 俺は声の 主に背を向ける。「分かっています・・・」ほんの少し、沈んだ声。どんな貌をしているのか見たかったが止めた。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 00:48:22「そうおっしゃられると思っていました」背後からの声。「いつも頑張っていらっしゃるんですね・・・だから」「お手紙を書いてきました」「私のお話したい事、いっぱいあり過ぎて、きっと兄上様を困らせてしまうから」「それに時間だけは沢山あったので」#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:00:11俺の返事を期待していたのだろうか。言葉と言葉の間に幾ばくかの不自然な間が挿入されていたが、何かを思い付くよりも早く待ちきれないとばかりに結局こいつは一人で話し続けていた。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:00:44「それとも・・・読む時間、ありませんか?」 「分かった。貰えるかな」ほぼ同時になったが俺は自分の言葉を止めなかった。こいつのお喋りを今すぐ止めたかった。だが。受け取るのは良いが振り返るのは嫌だった。振り返るとこいつの顔を見なければならない。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:06:40「背が伸びた・・・だけど痩せたな」とは俺は言わなかった。俺が何らかの印象をこいつに抱いている事。それを感じられる事。こいつが俺に覚えられていると思われる事。それを感じたくなかった。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:09:49手紙の入った封筒を受け取ると無言で自転車に乗り、ペダルを踏む足に力を入れた「いってらっしゃい、兄上様」そう聴こえる音よりも速く走りたかった。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:13:19「もっと話したかったんだけどもう会えないから」あいつは二年前、家を離れる時も手紙を渡して来た。「会いに来てくれる?」結局俺は二年間の間一度もあいつに会いに行かなかった。自分自身の頭の中の声を振り払いたくて速く速く。ペダルをこぎ続けた。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:17:27コンビニに着いた。今日は塾はない。目的地はここだ。息を整えながら入り口近くのゴミ箱の前で足を止める。俺は二年前と同じように鞄から封筒を出すと、ゆっくりと、丹念に封筒ごと手紙を破りゴミ箱に放り込んだ。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 01:22:33寒い。小一時間ほど街をぶらついて俺は帰る事にした。あいつの為ではなく俺が寒いだけなのだが結果的に俺はあいつの為に帰ってやる事になる。あいつは喜ぶだろう。帰り道のペダルは鉛の足枷のように重かった。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 08:30:03「去年振られた腹いせに今年は別の女に告白してハッピーになってやる」そんな意味の英語の歌が流れ、「MerryXmas」「歳末」と表示される電工掲示板がこの季節特有の浮き足立った雰囲気を醸し出していた。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 08:31:51そんな街中にあるいかなるモノにも気を引かれる事はなく、ただ幾つかの苦い記憶だけが掘り起こされる。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 08:41:39俺が八歳の時。あいつがプリンを食いたいと言うので牛乳と混ぜる素を買って来て一緒に作った。次の日あいつは学校を休んだ。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 18:49:03俺が十歳の時。買い食いを全て禁止された夏祭の夜店で玩具の指輪とネックレスをせがまれた俺は、小遣いが余っていた事もあり望む通り買ってやった。両親が力ずくで引き剥がすまであいつは決してそれを離そうとしなかった。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 18:49:41あいつは6歳の時。皮膚炎で赤くなった肌を隠しながら「プリンおいしかったよ」と鳴き声混じりにそう言った。8歳の時。新しい首飾りをしているかのような赤黒い首元を隠しもせず「取り上げられちゃった・・・ごめんなさい」とただ謝った。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-17 23:21:14あの時。大きな瞳はただまっすぐに俺を見つめていた。夜の湖面にも似た深く暗い双眸にはどんな俺が映っていたのだろうか。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-18 00:47:48俺はいかなる形でも映っていたくなかった。あの時何も答えなかった、応えられなかった俺。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-18 08:19:58だからあいつが抱えている幾つもの病を治療する為として、両親が療養所に送り込んでくれた時、俺はほんの少しだけ安心した。もっとも心の中を埋め尽くしている鈍色の雲のような感情はいつまでも消える事はなかった。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-18 08:20:44だがあいつは帰ってきた。躯はよくなったのだろうか。そんな訳はない。だがどちらにしても帰らなければ。きっと―――#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-18 23:18:40果たして。家の前には予想通り、あいつが立っていた。きっと塾が終わってから帰るまでの時間を見越してずっと待っていたのだろう、と言う予想を俺は刹那で切り捨てた。これは俺が帰って来た。そこにあいつが出て来て出くわした。それだけの何でもない場面だ。#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-18 23:19:39俺は門の前で自転車を止め降りると通りの様子を伺っていた―――こいつは俺の妹だ―――そう、妹に一瞥もくれずに一言だけ告げた。「ただいま」#シスタープリンセス #悲惨物語 #ss
2012-01-19 07:58:53