ガントレット・ウィズ・フューリー #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
4
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二部「キョート殺伐都市」より:「ガントレット・ウィズ・フューリー」#1

2012-02-24 17:32:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

午前三時。黒い空は一般的なガイオン地表市民にとっては夜の闇だが、ここボンジャン・テンプルのバトルボンズ達にとっては違う。朝の兆しだ。ウォッチタワーに備え付けられた青銅の鐘が108度打ち鳴らされると、彼らは白砂が敷かれたバトルフィールドに、大声を上げて、全力疾走でエントリーする。1

2012-02-24 17:37:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワーアアアアー!」「ワーアアアアー!」「キーエエエエー!」「アーアアアアーアー!」中庭バトルフィールドの四方を囲む朱塗りのテンプルから一斉に飛び出してきた彼らは皆スキンヘッドで、テンプルカラーである朱色のバトルサムエに身を包んでいる。皆、若い。住み込みの修行僧たちなのだ。 2

2012-02-24 17:44:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キエーッ!ハイ!ボンジャン!ハイ!」叫び声はやがて、川の水が大海へ注ぎ込むがごとく、自ずからひとつにまとまり、バトルチャントとなった。「ボンジャン!ハイ!ボンジャン!キエーッハイ!」彼らはチャントを繰り返しながら、チェス駒めいて等間隔に整列してゆく。 3

2012-02-24 17:46:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤッサーボンジャン!セイヤッサーボンジャン!」やはり全力疾走で現れたのはバトルカフタンに身を包んだ高僧らしき壮年のボンズ。整列の前に立った彼の勇壮なリーディングチャントがバトルフィールドに響き渡ると、修行僧達も負けじと声を張り上げる。「ボンジャン!ハイ!」 4

2012-02-24 17:50:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「小さいぞ!」壮年のバトルボンズが怒声をあげた。「俺一人よりも声が小さい!」「ボンジャン!ハイ!」「まだ小さい!」「ボンジャン!ハイ!」「……組み打ち!初め!カツ!」「ボンジャン!ハイ!」たちまち修行僧は二人ひと組となり、激しいワン・インチ組手を開始した。 5

2012-02-24 17:58:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」百人近い修行僧によって行われる激しい組手!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」その緊張感溢れるカラテは、歴史あるボンジャン・テンプルが、キョートに無数に存在するバトルボンズの頂点に立っている事の証左だ。6

2012-02-24 18:05:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」組手する修行僧の中に一人、黒人のボンズが混じっている。彼と組手する若いボンズよりも間違いなく十歳は年上、眼光も鋭い。だが両者のカラテ、上回っているのは若い方だ。実際この黒人は迫力こそあれ、ニュービーボンズなのだ。 7

2012-02-24 18:11:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!イヤーッ!……イヤーッ!」正拳!掌打!……回し蹴り!若いボンズは黒人ボンズの蹴り足を両掌で挟み、捻じるようにして投げた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」黒人ボンズはキリモミ回転し、バランスを取って着地。両者、神妙にオジギし、組手を終了させた。 8

2012-02-24 18:14:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スミス=サン、私が言うのはおこがましいですが」若いボンズが荒い息を吐きながら、にっこり笑った。「スゴイ上達されています」「ドーモ」スミスは笑い返した。「オカゲサマデ!なにしろ俺の人生、こんなにひとつの物事に集中して取り組んだことはない!」「筋がいいですよ」「それ程でも!」 9

2012-02-24 18:20:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の言葉は真実であった。ネオサイタマの弱小ヤクザクランを率いていた彼は、ジゴクめいた赤黒のニンジャに恫喝されて心折れ、その日のうちにクランを解散。キョートへ発った。世を儚んで出家しようと考えたのだ。だがヤクザ的な欲望を捨てる事が馬鹿馬鹿しくなり、結局彼はバウンサーとなった。 10

2012-02-24 18:28:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バウンサーとなった彼はやがて、キョートを影で支配するザイバツ・シャドーギルドに接近、末端の武装リムジン運転手となった。しかしその暮らしも長くは続かなかった。またも赤黒のニンジャ!ネオサイタマの悲劇の記憶は脳の防衛本能めいて忘れ去られていたが、彼はその時、全てを思い出した。 11

2012-02-24 18:33:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

攻撃をことごとく無力化された彼はザイバツ・ニンジャのソーサラーをその場に残して逃走、そのままこのボンジャン・テンプルへ直行し、五体投地して入門を懇願したのであった。以来彼は以前の退廃的生活を捨て去り、修行僧として清廉な鍛錬の日々を過ごしていた。 12

2012-02-24 18:37:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(俺の人生、紆余曲折しながら、だんだんステージを上げて行ってるぜ)整列してボンズのありがたい説法を聞きながら、スミスは目を閉じ、微笑んだ。(昔は色々とくだらないバカやったケド、つまらないボンノに駆り立てられていた。今の俺は昔の俺じゃないんだ。俺はゼンとともにある) 13

2012-02-24 18:42:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……から、自らを鍛え、甘えを捨て去ったものが、ローズトゥブッダのグラントリイの前に立つ!」「ボンジャン!ハイ!」修行僧が一斉に叫んだ。スミスもだ。壮年バトルボンズがさらに叫んだ。「その心は!」……禅問答だ!バトルボンズは列の中を歩き進む。やがてスミスの隣までやってきた。 14

2012-02-24 18:54:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ!」スミスの隣、彼と先ほど組手した若いボンズ、カンツァイが背をぴんと張って返事した。「甘えると褒美が少なくなるからです!」「バカ!」バトルボンズはカンツァイの頬を平手で打った。「グワーッ!」なお、これは禅問答であるため、答えの内容に関係なく、罵りと張り手は飛んでくる。 15

2012-02-24 18:59:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これは元々そういうものであり、このシーケンスに異論を挟む者は未熟である。正答を得たいという考えはすなわち小賢しさであり、褒められたいという考えは欲望、すなわちボンノなのだ。修行僧達は常に己のボンノを打ち倒す為に闘っているのだ。 16

2012-02-24 19:02:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スミスはこの概念を当初理解できず、平手を受けた初日は思わずバトルボンズを殴り返した(スミスの拳は届かず、かわりにその身体は空中で三回転させられたのち、白砂に叩きつけられていた)。しかし日々の激しい鍛錬を通して、彼にもぼんやりと、その概念の手掛かりが見えてきたように思う。 17

2012-02-24 19:10:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(なんとなく、掴めてきたかも知れねえ……つまり、欲望者達は、日頃、ブッダの事をまるで便利な……)「ん?」スミスは目を凝らした。前方、テンプルの北門から、もう一人のバトルボンズが歩いて来る。ただならぬアトモスフィアだ。何か大きな袋を引きずっている。袋ではない!「大僧正!?」 18

2012-02-24 19:19:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

問答を行っていたバトルボンズ、ジャンタイが列から飛び出し、そちらへ駆け寄ろうとする。そして立ち止まり、身構えた。「グノーケ=サン、大僧正は……」「ああ」動かない大僧正を引きずって現れたバトルボンズは口を歪めて笑った。「これか」と大僧正の体を吊り上げ「殺したぜ、見ての通り!」19

2012-02-24 19:30:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バトルフィールドが凍りついた。グノーケの太い指で首根を掴まれた大僧正の死顔は恐怖と困惑に歪み、ただただ凄まじかった。「ア……アイエエエ……」修行僧の一人がしめやかに失禁した。「威張り腐ったジジイもこの通りよ」グノーケがせせら笑った。「くだらねえよ、ジャンタイ=サン!」 20

2012-02-24 19:36:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「乱心したか!グノーケ=サン!」ボンジャン・カラテを構えたジャンタイが叫んだ。「乱心?」グノーケは大僧正の無残な死体をいきなり後方高くへ投げ捨てた。死体は空を飛び、ウォッチタワーの鐘を直撃、くぐもった音を響かせた。なんたる腕力か?まるで、(……ニンジャ)スミスは震えだした。 21

2012-02-24 19:44:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「乱心?俺は前から正気だよ、ジャンタイ=サン。いよいよくだらなくなっちまったよ。修行?ゼン?奥ゆかしさ?」鼻をならし、「負け犬の繰り言じゃねえか!俺はハッキリわかるぜ!ニンジャになったからな!」「ニンジャだと……」「そうだ。ニンジャだ!ニンジャは真実だ。悟る必要なんて無えよ」22

2012-02-24 19:51:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「愚か者ーッ!」ジャンタイがグノーケへ突き進む!そして浮足立つ修行僧達に指示する「グノーケ=サンは破戒した!第一バトル隊列で包囲せよ!」「ボンジャン!ハイ!」「イヤッサーボンジャン!セイヤッサーボンジャン!」「ボンジャン!ハイ!」 23

2012-02-24 19:57:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

修行僧は素早く展開、彼らにとって兄弟子であった男をわけもわからず取り囲んだ。「ワ……ワッザ……、ニンジャ、ワッザ」スミスはガタガタと震えながらバトル隊列に加わる。「グノーケ=サン。どうして」スミスと組み手したカンツァイも激しい衝撃下にあった。「ニンジャ?悟りが無意味……?」 24

2012-02-24 20:16:04