三重県の山すそにある、大手企業の施設で開催された、夏のイベントが終了して、撤収作業が行なわれているところへ、協賛会社のひとつで、現場の責任者をしている中川さんという四十代の男性なんですが、 #kaidan27
2012-02-24 22:01:08彼のところに会社から、急ぎの連絡が入って、「明日の朝の会議に出てほしい」と言ってきたもんで、急遽、帰らなくてはならなくなってしまったんですね。 #kaidan27
2012-02-24 22:01:29本来なら、この撤収作業を終えた後、同じ敷地の中にあるホテルで、イベントの関係者全員で打上げをして、一泊して、明日の昼過ぎにゆっくり帰る予定だったんですが、そうもいかなくなった。 #kaidan27
2012-02-24 22:01:53中川さんは、自分のクルマで、この現場に入ってるんで、これからひとり夜道を運転して、京都まで帰るんで、この辺りの土地に明るいスタッフに道路の状況を聞くと、 #kaidan27
2012-02-24 22:02:35「そうですね、今からだと、このイベント帰りのクルマと、お盆で出かけてるクルマで、下の一般道も高速道路に向かう道も、かなり込み合っていて、」 #kaidan27
2012-02-24 22:02:57「恐らく渋滞になってるでしょうから、この際、あまり知られていない、山越えの道を行った方が、いいかも知れませんねぇ」と、その道までのルートを教えてくれた。「ただ、その道なんですがね、」 #kaidan27
2012-02-24 22:03:17「夜になると、地元の人でも通りたがらないそうですよ。何しろ山ん中ですからね。家も無ければ、外灯もほとんど無いし、真っ暗で、そこへ、この山特有の濃い霧が出ると、視界がすっかり、さえぎられてしまって、濡れた路面で滑りやすくなるんです。」 #kaidan27
2012-02-24 22:03:45「脱輪でもしたら、往生しますからね、でもその分、山の中を突っ切れるんで、だいぶ近道になりますけどね。ま、余り飛ばし過ぎないように、慎重に運転して行って下さい」と、付け加えた。 #kaidan27
2012-02-24 22:04:09ヘッドライトが前方の闇を照らし出していく。道は舗装されてはいるんですが、それが片側一車線の狭い道で、グネグネと曲って、そこここで突然、急なカーブが現れるんで、気が抜けない。 #kaidan27
2012-02-24 22:09:08そのうち、フロントウインドーがうっすらと濡れてきた。 霧が出てきたらしい。前方の視界が次第にぼんやりとしてきたんで、クルマのヘッドライトを上向きにすると、フォグランプもつけて、深く立ちこめる霧の中へ、速度を落として入って行く。 #kaidan27
2012-02-24 22:09:32それにしても、自分の後にも先にも、他のクルマが全く見えない。イベント会場を出てから、まだ一台のクルマともすれ違っていない。 #kaidan27
2012-02-24 22:10:18霧で外の音が消されてしまうので、用心の為に、ラジオはつけず、静まり返った闇の中を、エンジン音だけが響いて、霧を押し分けて進んで行く。フロントウインドーに、次々と覆いかぶさって来る霧を見つめて、運転しているうちに、視界が、ボーッとしてきて、次の瞬間、 #kaidan27
2012-02-24 22:10:43頭がガクンと前に倒れて、(ハッ!?)と我に返った。 (いけない・・・)うっかり居眠りしていたらしい。 #kaidan27
2012-02-24 22:11:02時折、襲ってくる睡魔と闘いながら、運転していると、やがて、前方の霧の中に、ボンヤリとした、何かの輪郭をとらえた。 #kaidan27
2012-02-24 22:11:20屋根が下になって、車輪を上に向けた恰好で、上下が、完全に逆になっている。他にクルマの姿が無いところをみると、単独事故らしい。恐らく道を急いで、スピードを出し過ぎて、霧の濡れた路面で、スリップでもして、何かに乗り上げて転がったんでしょう。 #kaidan27
2012-02-24 22:12:10(通りがかったクルマに拾ってもらって、事故車を置き去りにしたまま行ってしまったとは思えないし・・・、逆さになった車内にいるんだろうか?)速度を落として近付くと、クルマを路肩に寄せて、ヘッドライトを、横転しているクルマに向けて停め、まじまじと見た。 #kaidan27
2012-02-24 22:12:59(アレッ!?・・・このクルマ、見覚えがある・・・)それは古いタイプの、ブルーのミニクーパーで、フェンダーからドアにかけて、ベッコリと凹んでいる。 #kaidan27
2012-02-24 22:13:21