山本七平botまとめ/『日本軍が”補給低能”だった理由』~「生物学的」常識を忘れている日本人~

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか-敗因21ヶ条』/生物としての人間/226頁以降より抜粋引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】いわゆる「残虐人間・日本軍」の記述は、「今の状態」すなわち、この高度成長の余慶で暖衣飽食の状態にある自分というものを固定化し、その自分が ジャングルや戦場でも全く同じ自分である という虚構の妄想を持ち、(続 <『日本はなぜ敗れるのか』

2014-05-30 14:58:11
山本七平bot @yamamoto7hei

2】続>それが一種の妄想に過ぎないと自覚する能力を喪失する程、どっぷりとそれに浸かって見下すような傲慢な態度で、最も悲惨な状態に陥った人間の事を記しているからである。

2014-05-30 15:01:31
山本七平bot @yamamoto7hei

3】それはそういう人間が、自分がその状態に陥ったらどうなるか、その時の自分の心理状態は一体どういうものか、 といった内省をする能力すらもっていない事を、自ら証明しているにすぎない。 これは「反省力なき事」の証拠の一つであり、これがまた日本軍の持っていた致命的な欠陥であった。

2014-05-30 15:04:49
山本七平bot @yamamoto7hei

4】従って(小松真一)氏が生きておられたら、そういう記者に対しても 「生物学的常識の欠如」 を指摘されるであろう。 氏はある状態に陥った人間は、その考え方も生き方も行動の仕方も全く違ってしまう事、 そしてそれは人間が生物である限り当然な事であり、(続

2014-05-30 15:08:14
山本七平bot @yamamoto7hei

5】従って「人道的」といえることがあるなら、 それは人間をそういう状態に陥れないことであっても、そういう状態に陥った人間を非難罵倒することではない、 ということを自明とされていたからである。

2014-05-30 15:12:03
山本七平bot @yamamoto7hei

6】(小松)氏は昨日まで立派な紳士と見えたものが「山の生活」という極限状態でどう変わってしまうかを見た。 それは言いかえれば、いま日本軍を批判していた者が、赤軍派の「虐殺の森」のような、日本軍以上の残虐さを現出するのを見るのと同じ事である。 人はなぜそうなるのか。

2014-05-30 15:16:35
山本七平bot @yamamoto7hei

7】人間とは生物である。 そしてあらゆる生物は自己の生存の為に、それぞれが置かれた環境において、その生存をかけて力一杯活動して生きている。 人間とてその例外でありえない。 平和は自分達人間だけは例外であるかのような錯覚を抱かす。 しかし、それは錯覚にすぎない。

2014-05-30 15:19:26
山本七平bot @yamamoto7hei

8】もちろんその錯覚を支える為、あらゆる虚構の”理論”が組み立てられ、人々はその空中楼閣を事実だと信じている。 しかし、その虚構は「飢餓」という、人間が生物にすぎない事を意識させる一撃で、一瞬のうちに消えてしまう。

2014-05-30 15:43:24
山本七平bot @yamamoto7hei

9】社会主義とか資本主義とか、体制とか反体制とか、様々な理論とか主張とか―― しかし、人びとは忘れている。 人間という生物の社会機構の基本とは、実は、食物を各人に配給する機構だという事実を。 勿論この配給の形態は種々様々である。 貨幣・配給切符・直接給食等々々……。

2014-05-30 16:33:41
山本七平bot @yamamoto7hei

10】しかし、つまるところは、人の口に食物をとどける事が社会機構の基本であって、これが逆転して機構のため食物が途絶すれば、その機構は一瞬で崩壊する―― 資本主義体制であれ、 社会主義体制であれ、 また日本軍の“鉄の軍紀”であれ……。

2014-05-30 16:38:19
山本七平bot @yamamoto7hei

11】それはその筈、人間が生物である以上、食料を配給しない機構に属する事はできず、その為それを避けて人が餓死を免れようと動き出した途端、その機構が崩れるのは当然の事である。 しかし人は空気の存在を当然としてこれを忘れているように、社会機構のこの機能を当然として、それを忘れている。

2014-05-30 16:39:55
山本七平bot @yamamoto7hei

12】そしてそれを忘れていることが 「生物学的常識の欠如」 といえる。 ひとたび飢餓が来たらどうなるか。 いま行われている様々な議論、まず、一瞬で消し飛んでしまうであろう。 そのあとに何が来るか、 それはおそらく、いまでは、誰も自信をもって答えられない状態だと思う。

2014-05-30 16:41:47
山本七平bot @yamamoto7hei

13】そして、 その答えられない状態、 その状態におかれたときの人間の意識、 その意識が形成する新しい「生物学的社会機構」 これらを原初の姿で明らかにしているのがジャングルであり、それをそのままに記しているのが、小松氏の記録なのである。

2014-05-30 16:43:36
山本七平bot @yamamoto7hei

14】飢えは胃袋の問題ではない。 人間は、胃袋が空であり続けても、頭脳の方は空にならず無変化だと人々は錯覚しているから、飢えの恐ろしさがわからない。

2014-05-30 16:44:42
山本七平bot @yamamoto7hei

15】といえば「とんでもない、西アフリカやビアフラの(註:飢えに苦しむ人々の)写真を見れば飢えの恐ろしさはわかります」という人がいるかもしれないが、それが私のいう「わからない」の証拠に過ぎない。 人はそれらの写真を見て「恐ろしい」「かわいそう」といった感情をもつであろう。

2014-05-30 16:46:00
山本七平bot @yamamoto7hei

16】だがそれは その人が飢えていない という証拠にすぎない。 同じように飢えれば、そういう感情はいっさいなくなる。 そして本当に恐ろしい点は、この「なくなる」ということなのである。

2014-05-30 16:47:18
山本七平bot @yamamoto7hei

17】しかし、写真のような姿を現実に目にしても(註:戦犯収容所の)人々はビアフラや西アフリカの写真を見るようには同情しない。 逆に恐怖に似た嫌悪感さえ抱くのである。 飢えが自分に関係ない遠い異境の事だと思える間は、そして写真等でそれを眺めるにすぎない間は、人は同情する。

2014-05-30 16:48:45
山本七平bot @yamamoto7hei

18】しかし、この小松氏の(註:収容所での様子を描いた)絵に対してすら、人々はそれほどの同情を感じまい。 たとえそれが同じ日本人であっても――。 そのはずであって、それが自然なのである。 飢え、乃至はそれを象徴する姿は、遠くて無関係な間は同情できる。

2014-05-30 16:50:21
山本七平bot @yamamoto7hei

19】しかしそれが身近に迫れば、人々とは逆に嫌悪する、 さらにそれが本当の自分に迫って来れば、本能的な恐怖から、それに触れまい、見まいとして、その人を逆にしりぞける。 そしてそれは、その人がふだん声高に「人道的言辞」を弄していたとて、所詮、同じ事なのである。

2014-05-30 17:10:37
山本七平bot @yamamoto7hei

20】人が飢え出すと品性に関係なく何かを食べようとし出す。そしてその際、自己の品性を落さずに入手できる食物だけ食べていようとすると、これまた奇妙な結果になってしまう。人が胃の腑に詰め込める物は何でも詰め込んで空腹を「だまそう」とする。我々も手に入る物で食べられる物は何でも食べた。

2014-05-30 20:30:37
山本七平bot @yamamoto7hei

21】小松氏はまたミンダナオで靴や図嚢まで煮て食べた例を記されている。 こういう食べ物は実際には何の栄養もないから、ただ満腹しつつ衰弱が早まっていくだけである。 そうなる頃には、人の相貌は変わり、体は骨と皮になり、目だけギラギラと光り、排便するだけの体力がなくなってガスが(続

2014-05-30 21:43:30
山本七平bot @yamamoto7hei

22】続>腹部に充満するから「餓鬼」と全く同じ姿になる。 そしてこの状態になると、その「者」が生きていようと、そのまま死のうと、それはもう人間とは別の生物と考えた方がよい。

2014-05-30 22:32:17
山本七平bot @yamamoto7hei

23】「餓鬼」の絵に描かれている「者」のあの独特な目つき、挙止、体形は、既に人間のものではない。 ああいう相貌を描いた人こそ、本当のリアリストであろう。 だが人間はなかなか本当のリアリストにはなれない。 p.twipple.jp/u0Y6p

2014-05-31 01:43:54
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山本七平bot @yamamoto7hei

24】その為、あの「餓鬼」の絵は空想の産物と思い、一方では平気で「自然に帰れ」などといい、そしてそういうスローガンを掲げれば本当に自然に帰れると思っているらしい。その癖ビアフラの写真を見て「可哀想だ」という。 これはまことに奇妙で、空想的というより妄想的、支離滅裂的発想である。

2014-05-31 01:45:48
山本七平bot @yamamoto7hei

25】そしてそういう事をいう人の話を聞いていると、言っている事は結局、 現代の資本主義的生産物の恩恵だけは十分に供与されながら、自然的環境の中で生活がしたい、 簡単に言えば 自然的環境の中で冷暖房つきの家に住み、十分な食糧と衣料がほしい、 という事にすぎない。

2014-05-31 01:46:46