笠井潔さん:CC(クローズドサークル)と日本の本格ミステリについて

ミステリ作家の笠井潔( @kiyoshikasai )さんのツイートが面白かったので、簡単ながらまとめさせていただきました。
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笠井潔 @kiyoshikasai

構築と脱構築を同時に遂行しなければならない探偵小説という特殊な小説形式を、近代という「乏しい時代」に残された秘教的実践として完成したのが、エラリイ・クイーンだと思う。クイーンの宗教意識はよくわからないが、『九尾の猫』や『第八の日』から、それを窺うことはできる。

2012-03-03 03:13:53
笠井潔 @kiyoshikasai

だから探偵小説に惹かれたのだろう。日本にもクイーン・フリークは少なくないが、こうした点からクイーンに影響された人間は他にいないと思う。津村喬の太極拳にあたるのが、笠井にとっては探偵小説を書くことだった。これもまた自前の行である。

2012-03-03 03:17:08
笠井潔 @kiyoshikasai

竹本健治にもオカルト趣味は濃厚だ。しかし構築の指向は希薄である。存在しない神にあえて「祈る」という行為に等しいものとして探偵小説を捉えるなら、構築と脱構築の同時的遂行は不可欠で、まず徹底的に構築しなければならないはずだが。この辺が竹本と笠井の違いである。

2012-03-03 03:22:08
笠井潔 @kiyoshikasai

外部は「ない」としてしか「ある」ことができない。不在の神に祈らなければならない。構築と脱構築を同時に遂行しなければならない。これらは、どれも同じことを語っている。脱構築論の本家であるデリダにしても。

2012-03-03 03:26:15
笠井潔 @kiyoshikasai

現代日本の本格探偵小説は、クローズド・サークル(CC)設定を安易に多用しすぎる、エラリイ・クイーンは例外的にしかCCを使っていないという批判がある。矢吹シリーズの場合、全10作のうち第5作と第9作がCCで、これは多いのか少ないのか。

2012-03-04 03:52:28
笠井潔 @kiyoshikasai

作者としては、探偵小説の設定パターンとして、「孤島」と「雪の山荘」は用いる必要があるという判断だった。全十作で探偵小説の代表的パターンのアンソロジーにしようというのが、矢吹シリーズを開始したとのの野心だった。

2012-03-04 03:56:40
笠井潔 @kiyoshikasai

安易なCC多用への批判は、島田荘司の「器の本格」批判にも含まれていた。しかし過去20年以上、本格の作者と読者が、大戦間本格や戦後本格では作例がそれほど多いといえないCCものを、圧倒的に歓迎してきた事実は否定できない。どうしてそうなったのか、その根拠の解明が必要だろう。

2012-03-04 04:02:42
笠井潔 @kiyoshikasai

その根拠を解明することで、第三の波の固有性にも光を当てることができるかもしれない。とはいえ近年、CC設定作品が面白くないのも事実だ。

2012-03-04 04:07:48
笠井潔 @kiyoshikasai

これはCCに限らず、「いかにも本格」というもろもろのパターン、名探偵や館や生首や密室などの意匠を教科書的に詰めこめば詰めこむほど、逆効果になる作例が増えている。これは、昨年度まで鮎川賞の選考を11年やって感じたことだ。

2012-03-04 04:09:59
笠井潔 @kiyoshikasai

本格パターンのインフレ現象があるのかもしれない。1980年代の読者は、「いかにも本格」的な本格に餓えていた。そうした読者の中から、綾辻行人以下の新人が大挙登場してくる。

2012-03-04 04:13:52
笠井潔 @kiyoshikasai

その頃は、古めかしいといったんは否定された孤島や館や密室やダイイングメッセージや、その他もろもろの本格パターンを、濃縮して詰めこんだような作品が新鮮だった。これは作家たちの回顧趣味ではなく、90年代に大量の青少年読者を獲得した事実が示すように、時代的要請にかなってもいた。

2012-03-04 04:15:56
笠井潔 @kiyoshikasai

そして四半世紀、かつて稀少だった「いかにも本格」路線の作品は膨大に蓄積され、インフレ現象を呈している。読者の側からいえば、その種の作品に飽きがきたということかもしれない。また、多数の作家が20年以上も同じ鉱脈を掘り続けてきて、新しいアイディアが稀少化したこともあるだろう。

2012-03-04 04:19:34
笠井潔 @kiyoshikasai

しばらくは、本当に実力のある作家しか「いかにも本格」路線の作品は書かないほうが無難だと思う。新人の場合はなおさら。島田荘司の「器の本格」批判は、20年後になって説得力を増してきたように感じる。

2012-03-04 04:22:27
笠井潔 @kiyoshikasai

「器の本格」批判が提唱されたとき、笠井とそれに懐疑的だった。だって面白いんだから、いいだろうと。しかし最近は、「また孤島(館、その他もろもろ)かよ」という感じである。なにか新機軸があるんだろうな、と思って読み進め、期待を裏切られると失望も大きい。

2012-03-04 04:26:01
笠井潔 @kiyoshikasai

同じアイディアを、本格パターンを使わない(あるいはせめて一つしか使わない)本格探偵小説として書けば、もっと評価できたのにという作品に出逢うことが少なくない。本格パターンは劇薬で、うまく使える実力があれば薬になるが、そうでないと毒になる。最近は、そんなふうに感じることが多い。

2012-03-04 04:29:50
綾辻行人 @ayatsujiyukito

@kiyoshikasai CCに代表されるような「いかにも本格」路線の作品をいま書くのは、本当に難しいですね。『奇面館』を書いている間ずっと、「これでいいのか」と自問自答せねばならない問題でした。

2012-03-04 06:40:00
笠井潔 @kiyoshikasai

難しいです。それはそうと、綾辻くん推薦の『クリーピー』面白かったですよ。“@ayatsujiyukito: @kiyoshikasai CCに代表されるような「いかにも本格」路線の作品をいま書くのは、本当に難しいですね。”

2012-03-04 22:40:20
笠井潔 @kiyoshikasai

すいません(笑)、一仕事終えて寝る前にツイートすることが多いので。@from41tohomania: 笠井潔さん @kiyoshikasai がいま、クローズドサークルについて興味深いことをツイートしている。寝ようと思ったのに、もう。”

2012-03-04 22:41:58