- chicken_edda
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とりわけ大きな音でもない。なのに、薄っぺらい壁越しに、水槽のなかにしずめたポンプの音みたいに聴こえた。ぼろの換気扇が、こんな夜中――夕飯には遅くて、朝ご飯には早い――に動いている、音がした。 音が、している。
2012-03-09 02:44:35目やにでなんだかにちゃにちゃする目を何度かこすった。せまいへやに無理に入れられたベッドを降りると、フローリングの床はひやっと冷たくて、あわてて脱いだはずのスリッパをつまさきでさがす。カスタードクリームみたいな色の、ねこのスリッパ。だった、はずだ。
2012-03-09 02:52:43ねこのスリッパで足音を消して、ブランケットを肩から1枚、引き摺りながらベッドを降りる。夜はやっぱりまだ寒くて、1回だけぶるっと震えた。
2012-03-09 03:03:49そうして、そっと、 そぅっと、細く、細く戸のすきまを開く。閉じきられていたよりもほんのすこしだけ、鮮明にきこえる換気扇の音。 いがらっぽい、煙のにおいが、すん、と鼻のなかに沁みこんできた。
2012-03-09 03:24:47かんがえて、気がついて欲しい自分に気がついた。 きっと、1番ちいさな豆電球の灯りのなか、ぼろで油臭い換気扇の下で煙草を吸っている彼に。
2012-03-09 03:30:49彼がまた、息を吐く気配。今度は少し、さっきより浅い。ため息のようで、ため息じゃない、そんな中途半端な感じがした。単なる呼吸を、気持ちばかり深く吐いたような、ため息を途中で短く切り上げたような、そんな。
2012-03-09 03:54:43聞こえていたら、明日の(今日の?)朝ご飯はメープルシロップたっぷりのふわふわのパンケーキか、ベルギーワッフル。ハーシーズのチョコシロップをかけて、バニラアイスが載ったら素敵。イングリッシュ・ブレックファストの紅茶を煎れよう。
2012-03-09 04:14:36そのまままぶたを閉じてしまえば、あとはもう、朝日がくるまでねむるだけ。できることなら、パンケーキを焼く甘いにおいで目をさましたい。彼は、わかってくれるといいんだけど。
2012-03-09 04:21:44