山本七平botまとめ/『日本にはまだ自由はない』~日本人の思考を制限する或る「力」とは何か~

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヶ条』/自由とは何を意味するのか/309頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①先日あるアメリカ人の記者と話し合った。私は、キッシンジャーが日本の記者はオフレコの約束を破るからと会見を半ば拒否した事件を話し、これは言論の自由に反する事ではないか、ときいた。これに対して彼は次のようなまことに面白い見解をのべた。<日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヶ条

2012-03-09 08:56:10
山本七平bot @yamamoto7hei

人間とは自由自在に考える動物である。いや際限なく妄想を浮べ続けると言ってもよい。自分の妻の死を願わなかった男性はいない、などともいわれるし、時には「あの課長ブチ殺してやりたい」とか「社長のやつ死んじまえ」とか、考える事もあるであろう。

2012-03-09 09:26:08
山本七平bot @yamamoto7hei

③しかし、絶えずこう考え続ける事は、それ自体に何の社会的責任も生じない。事実、もし人間が頭の中で勝手に描いている様々の事がそのまま活字になって自動的に公表されていったら、社会は崩壊してしまうであろう。

2012-03-09 09:56:03
山本七平bot @yamamoto7hei

④また、ある瞬間の発想、たとえば「あの課長ブチ殺してやりたい」という発想を、何かの方法で頭脳の中から写し盗られたら、それはその人にとって非常に迷惑な事であろう。というのはそれは一瞬の妄想であって、次の瞬間、彼自身がそれを否定しているからである。

2012-03-09 10:26:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤もしこれをとめたらどうなるか、それはもう人間とはいえない存在になってしまう。 「フリー」という言葉は無償も無責任も意味する。いわば全くの負い目を負わない「自由」なのだから、以上のような「頭の中の勝手な思考と妄想」は自由思考(フリー・シンキング)と言ってよいかもしれぬ。

2012-03-09 10:56:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥今もし、数人が集まって、自分のこの自由思考(フリー・シンキング)をそれぞれ全く「無責任」に出しあって、それをそのままの状態で会話にしてみようではないか、という場合、簡単にいえば、各自の頭脳を一つにして、そこで総合的自由思考をやってみようとしたらどういう形になるか。

2012-03-09 11:26:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦言うまでもなくそれが自由な談話(フリー・トーキング)であり、これが、それを行なう際の基本的な考え方なのである。

2012-03-09 11:56:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧従って、その過程のある一部、たとえば「課長をブチ殺してやりたい」という言葉が出てきたその瞬間に、それを記録し、それを証拠に、「あの男は課長をプチ殺そうとしている」と公表されたら、自由な談話というもの自作が成り立たなくなってしまう

2012-03-09 12:26:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨とすると、人間の発想は、限られた個人の自由思考(フリー・シンキング)に限定されてしまう。それでは、どんなに自由に思考を進められる人がいても、その人は思考的に孤立してしまい社会自体に何ら益することがなくなってしまうであろう。

2012-03-09 12:56:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩だからフリー・トーキングをレコードして公表するような行為は絶対にやってはならずういうことをやる人間こそ、思考の自由に基づく言論の自由とは何かを、全く理解できない愚者なのだ、と。

2012-03-09 13:26:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪要約すれば、彼の言った事は以上の通りであった。そして、この『虜人日記』の全てを通じて、自由人の小松真一氏が負の形で描き出したものは結局、自由という精神のない世界、従って「自由な談話」が皆無で、その為、どうにもならなくなり、外部からの強力な打撃で呪縛の拘束が打ち破られて(続

2012-03-09 13:56:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫続>その時、その瞬間だけその通常性の表出を可能にする世界だった訳である――「軍の計画はその意気を示すだけである」……これは軍人そのものの性格ではない、「日本陸軍を貫いている或る何かの力が軍人にこうした組織や行動をとらしめているのだ」

2012-03-09 14:26:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬前述のようにこの力が貫いていたものは、軍人だけでなく、全日本人であり、それは昔も今も変わりはない。その力はどう作用しているのか。一言で言えば各人の自由を拘束している、これは、その力なのである。

2012-03-09 14:55:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭戦後は「自由がありすぎる」などという。ご冗談を!どこに自由と、それに基づく自由思考と、それを多人数に行なう自由な談論があるのか、それがないことは、一言で言えば「日本にはまだ自由はない」という事であり、日本軍を貫いていたあの力が未だに我々を拘束しているという事である。

2012-03-09 15:26:07