日本仏教史瞥見

近代の狂信的国家神道を許した一つの背景としての、日本における仏教の教理的解体についての私見。
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東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

1)渡辺真也さん(@curatorshinya)がツイートされていた、元寇の暴風雨を「神風」と評したことが、本地垂迹(日本の神々は仏の化身であるという思想)を神本仏迹へと逆転させるキーになったのではないかという着想が大変興味深かった。http://t.co/5kUJBOv7

2012-03-11 01:25:59
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

2)中世に芽生えた「神本仏迹」は近世を経て明治維新では新政府の根本政策になり、やがて太平洋戦争という破局に向かっていく。明治政府は明治元年に一連の「神仏分離令」を発して、それまでの神仏習合的な寺社の形態を改めさせ、事実上の国教としての「国家神道」へのレールを敷いている。

2012-03-11 01:27:13
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

3)鎌倉後期に成立した『八幡愚童訓』がなぜ「神風」という語を記したかは不明だが、あるいは単純に自然界の現象を「諸法善神」と見る本地垂迹の文脈の中で書かれただけなのかもしれない。それが太平洋戦争を遂行していく中で、国民を幻惑させる国策イデオロギーとして利用されていったのは事実。

2012-03-11 01:28:08
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

4)ただ、1000年の歴史を俯瞰して見ると、「鎮護国家の仏教」を受容したはずの日本が「神州不滅」の狂気へと変質していった大きな流れは明らかで、その主要な原因は日本の仏教が早い時期から教理的に解体されて批判能力を失っていた上、江戸期に「葬送の宗教」へと変質したことだと思う。

2012-03-11 01:28:41
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

5)「鎮護国家の宗教」として輸入され、平安初期には比叡山を頂点とする教理体系を整えていた仏教は、まもなく3つの方向に変質していく。第1は密教化。真言宗の台頭と天台宗の密教化。密教は政敵を呪詛し自門の隆盛と性愛の成就を祈祷する秘儀として主に朝廷貴族に支持されていく。

2012-03-11 01:29:46
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

6)しかし、それは本来ブッダが乗り越えようとしていたバラモンの宗教へのいわば退行であり、普遍的な教理体系を掲げていたはずの仏教は、マントラを唱え九字を切って「加持祈祷」という秘術をおこなうマジックの世界へと変容していった。

2012-03-11 01:30:42
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

7)第2は、浄土教の流行。「自帰依」「法帰依」の宗教だった仏教は、事実上の「一神教」へと変容していく。第3は、経典の教理よりもメディテーション(瞑想)を重視する禅への傾倒。かくして仏教は、平安~鎌倉期には教理的に解体され、まさしく末法のカオスへと転じていった。

2012-03-11 01:32:48
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

8)国策として輸入した仏教を民衆の生活次元にまで浸透させていく過程で、仏教独特の寛容的な布教方法として土着信仰を包摂したのが本地垂迹思想だが、中世以降、武家政権による「統一国家」の体をなしていく途次で、新たな国家アイデンティティの必要から生まれたのが神本仏迹だろうと思う。

2012-03-11 01:42:48
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

9)国家アイデンティティとして「仏」ではなく「神」がふさわしかったのは、神道が民衆統治に便利な国内の民族信仰であるのに対し、仏教は国家や民族を超える普遍的な概念だから。天下統一を図った秀吉や家康がキリスト教を危険視したのも、この国家権力すら相対化してしまう普遍性が原因。

2012-03-11 01:42:56
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

10)明治政府が権力の正統性として国家神道を創作し、太平洋戦争期には国家ぐるみの狂信へと転落していくわけだが、それを許した背景には、教理的に早くから崩壊し、やがて葬送ビジネスへと換骨奪胎された仏教の惨状があり、論理よりも情緒へと流れる日本人のメンタリティがあると思う。(了)

2012-03-11 01:43:03
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

やっぱり当初の「8」が行方不明になってますね。書いた内容は、カオスの象徴としての真言律宗でした。真言宗と律宗をミックスさせた、いわばスピリチュアルと保守を折衷したようなこの新宗教は、叡尊、忍性、文観といった僧によって巧みに朝廷や幕府の中枢に食い込んで政治の裏面史に暗躍します。

2012-03-11 02:56:24
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

新興勢力ゆえに荘園など経済基盤を持っていなかった真言律宗は、権力者と急接近することで庇護と利権を得ていく。公開の場で教義論争を挑んできた日蓮を、忍性が幕府中枢に手を回して処刑に追い込もうとした事件は、カオスの鬼子としての彼らの性質をよく物語っている。

2012-03-11 03:03:44
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

ちなみに、建武の新政の主人公・後醍醐帝が重用していたのも真言律宗の文観。当初、文観に倒幕の祈祷をさせていた後醍醐帝は、やがて自ら倒幕の加持祈祷をするようになる。楠木正成が拠点とした河内国の観心寺も文観の影響下にあった寺。ただし、正成が加持祈祷にかぶれた形跡はなし。

2012-03-11 03:09:52
東 晋平 /『蓮の暗号』発売中 @shinpei23

鎌倉期に思いつきのように生まれて、特定の権力者と繋がることで隆盛を誇った真言律宗は、その後、歴史から消えてしまう。教団として持続可能な最低限の教理体系も持たず、政治のパワーゲームのみに依存していたからだろう。

2012-03-11 03:12:47