ストーリー第12回目 第三幕 主人公は死ぬ。そして復活。“欲しいもの”に最接近する

いずれ、YouTube に動画をアップして動画と一緒に説明できればいいですね。ってそれ大変じゃん!
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榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中!!! @chimumu

0.はーい、chimumuだよー、今日は久しぶりに映画のストーリー&シナリオについてのお話しをするよー。

2010-06-06 23:16:23
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1.僕が話すのは、主として商業映画のエンターテインメント系のストーリーの構築です。構造としてはハリウッドの三幕構成を基盤にしています。

2010-06-06 23:16:41
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2.実は、今日、黒沢清監督の『アカルイミライ』とそのドキュメンタリー『曖昧な未来』をDVDで観たんだよね。『曖昧な未来』で黒沢監督は、「キャラクターの設定も行動も曖昧で多義的にしたい、そうしないと嘘になる」(大意)と発言している。

2010-06-06 23:18:09
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3.もともと映画とは嘘(というかillusion)なのである。けれど、黒沢監督がそう発言する気持ちも分かる。そして、この問題は特に、ジャンルであってジャンルではない「ドラマ」というジャンルを撮る時に浮き上がってくるのだが、今日は無視します。

2010-06-06 23:19:01
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5.要点を一つだけいうと、ストーリーとは、主人公が“欲しいもの”を求める旅だということなんだ、ということであります。

2010-06-06 23:20:03
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6.で、第三幕というのは、“欲しいもの”に主人公が猛チャージをかける場面です。ここで大事なのは、主人公は一時的にボロボロにならなきゃいけない(一時的に死ぬ。死に近づく)ということです。場合によっては、主人公だけがかろうじて生き残り、他の仲間は死んでしまうという状況だってある。

2010-06-06 23:21:35
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7.自主映画の人たちは総じてここが弱く、実にあっさりしているんだ。自主映画のストーリーの全体的な傾向は、主人公に甘いということ。主人公はいじめ抜け。

2010-06-06 23:22:13
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8.で、このボロボロのさなかに主人公は“何かを掴む”。今まで僕は何度も「ストーリー全体を通して主人公は変化しなければならない(Character Arc)」と言ってきたが、決定的な変化はここで起きる。

2010-06-06 23:23:01
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9.脚本の教科書を読むと、この辺は色々と細かく法則や段取りを述べているものもある。が、あまり気にしない方がいい。大事なのは、主人公が ①どん底に落ちて、②何かを掴み ③復活する という三段階を経て、“欲しいもの”へと再度激しくアクセスすること。これが第三幕のほとんどすべてだ。

2010-06-06 23:24:17
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10.では、“何かを掴む”の何かとはなんぞやということになるが、これは各自で考えるしかない。必殺技を思いつくこともあるだろうし、誰かから助言をうけることもあるだろうし、妻から「勝って」と励まされることもある。今言ったのはみんなわかりやすいよね。

2010-06-06 23:24:50
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11.“何かを掴む”は僕の用語だが、これは seazing the sword(剣を握る)という(『神話の法則』By クリストファー・ボグラー)。ここまで来たら、あとは丁々発止のやりとりを書けばいい。あとはどうやって勝たせるか(負けさせるか)のアイディアを練り込む。

2010-06-06 23:26:23
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12.しかし、この時の変化の微妙なプロセスは言葉にならないことも多い。“何かを掴む”と書いたが、実際には“何かが訪れる”と言い直した方がいい場面が多々ある。ちょっと見てみよう。

2010-06-06 23:26:52
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13.『がんばれ!ベアーズ』のウォルター・マッソーはダメチームになんとか勝たせようと、わざとデッド・ボールになれとサインを出したりするが、選手達はこれを無視し始める。怒ったマッソーは子供たちをベンチに集めて怒鳴り散らす。が、はたと悟って「もういい、自由にやれ」と言う。

2010-06-06 23:28:09
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14.この変化は映画ではどう描かれているか、子供たちの顔とマッソーの顔のクローズショットがクロスカッティングされるだけだ。表情と表情、まなざしとまなざしの交差で勝負しているんだ。

2010-06-06 23:28:45
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15.主人公ではないが、『アパートの鍵貸します』のシャーリー・マクレーンは不倫の相手との食事の最中、相手が席を外して一人になった時に、ふいに自分が本当に好きな男はジャック・レモンだと悟る。ここは、もの憂げなシャーリー・マクレーンの表情がほころんでいくクローズアップで表現している。

2010-06-06 23:30:15
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16.この二つのシーンとも積極的に“何かを掴む”というよりもふいに“何かが訪れる”のだ。だから、シナリオには書けない。書けなくてもいいのである。不安になって「あ、私が好きなのはあの人よ」と台詞で書いてしまっては、一番いいシーンを台無しにしてしまう。

2010-06-06 23:31:54
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17.三幕目についてもうひとつ話しておこう。僕が前に話した、セントラル・クエスチョンという言葉を思い出して欲しい。セントラル・クエスチョンとは第一幕で設定される。“主人公は○○できるか”というストーリー全体への問いかけだ。 http://togetter.com/li/18053

2010-06-06 23:32:43
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18.セントラル・クエスチョンを設定しているのなら、“欲しいもの”に最後に主人公がアクセスする段階で“○○できなかったらどうなるか?”と問いかけてみて欲しい。その時“○○できなかったら、主人公は大変なことになる”という状況を設定することは効果的だ。

2010-06-06 23:34:15
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19.これを“掛け金を上げる”という。これができると、クライマックスのテンションは高まる。背水の陣に追い込まれながら主人公がなんとかして“欲しいもの”を手に入れなければならなくなるからだ。

2010-06-06 23:36:00
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20.いちおう作者はクライマックスを作っているつもりなのに、観客の方は「いーんじゃない、勝とうが負けようが」「いーんじゃない、誰が犯人でも」「いーんじゃない、誰と結ばれても」てな気持ちになってしまったら、負けである。主人公が“欲しいもの”は観客にも欲しがってもらわないといけない。

2010-06-06 23:38:02
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21.この問題はホラー映画にはない。人里離れた小屋でチェーンソー持った怪人が襲ってきたら、誰だって「助かりたい!」と思う(“欲しいもの”が一致)。けれど「私は自由に絵を描きたいだけ!」と主人公が叫んだ時に、観客に「寝言かよボケ」と思われたらアウトである(“欲しいもの”の不一致)。

2010-06-06 23:39:17
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22.ところが、現在においてはこの「“欲しいもの”における観客と主人公の気持ちのシンクロ」がなかなか難しいのである。

2010-06-06 23:41:41
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23.ここがうまくいかない時は、大抵一幕目の状況設定を疑った方がいい、と脚本の教科書には書いてある。確かにそうだが、しかし、それだけでは説明がつかない場合がある。これは脚本の技術の問題を離れて考えなければいけないかも知れない。

2010-06-06 23:43:07
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24.つまり、主人公が生きている世界を作者がどこまで深く考えているかということにかかわる問題だ。たとえば「“ただ自由に絵を描く”ってそんなことできるのか」なんてことを考え抜いた上で主人公にそう言わせているのか、それとも「ま、この辺で」程度で書いた台詞なのかということだ。

2010-06-06 23:47:25