ICRPがLNT仮説を採用する理由、及び日本でICRP基準が厳し過ぎる論が優勢になった理由

島薗(@shimazono)先生のツイートまとめです。
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島薗進 @Shimazono

日本の放射線生物影響の専門家の多くは仏国の専門家と共に「ICRP厳しすぎる」論に立ち、低線量放射線リスクを小さく見積もりLNTモデルを疑問視。彼らの立場と、ICRP、UNSCEAR,BEIRそれぞれの立場の関係は放医研編『虎の巻 低線量放射線と健康影響』が便利。以下①~③に紹介

2012-03-20 08:55:52
島薗進 @Shimazono

1ICRPがLNT仮説を採用する根拠①(2つあるうちの1つ)土居雅広他編『虎の巻 低線量放射線と健康影響』医療科学社、2007が分かりやすいp57-9。電離放射線による遺伝子損傷は、いかなる低い線量においても一定の確率で生成される。γ線のような透過性の高い放射線であっても、

2012-03-20 08:56:23
島薗進 @Shimazono

2ICRPがLNT仮説を採用する根拠①「生体物質との相互作用から生じる電子飛跡(トラック)は、たとえひとつの飛跡であっても、特定のDNA部位に二重鎖切断や塩基損傷を複数もつクラスター損傷を生成することが、飛跡の物理学的シミュレーション計算によって示されている。このような放射線

2012-03-20 08:56:50
島薗進 @Shimazono

3ICRPがLNT仮説を採用する根拠①「物理過程(遺伝子切断)による直接効果、あるいはOHラジカルの誘導等の化学過程による間接効果によって生成される損傷の数は、線量に比例して(一次関数として)増加する。生体応答としての修復機構では、クラスター損傷を完全に修復することは」

2012-03-20 08:57:13
島薗進 @Shimazono

4ICRPがLNT仮説を採用する根拠①「困難である。これらの放射線による遺伝子損傷が、発がんの起始(イニシエーション)として機能するならば、損傷がもたらす生体影響は線量に応じた一次関数により増加することになる。」もちろん反論はありうるが、他の証拠と照らし合わせて妥当とされている。

2012-03-20 09:00:25
島薗進 @Shimazono

1ICRPがLNT仮説を採用する根拠②もう1つの根拠は原爆疫学。「全固形がんについて、50mSv程度の線量まで統計的に有意な増加であると推定されている。500mSv以下の線量範囲に限定して行ったすべての固形がんに対する解析結果では、0~100mSvの範囲で統計的に有意な増加が

2012-03-20 09:01:36
島薗進 @Shimazono

2ICRPがLNT仮説を採用する根拠②「示されている」PierceとPrestonの2000年論文による。「これらの調査結果は、LNT仮説と矛盾しない」。次の説明は防護上LNT仮説が便宜があるという理由。「個々の損傷と生体影響の間に、このような線形性を認めるLNT仮説により、

2012-03-20 09:02:35
島薗進 @Shimazono

3ICRPがLNT仮説を採用する根拠②「直線的な外挿が可能となるだけでなく、複数回の反復被ばくの生体」影響において線量と影響を加算できる(線形性を有することになる)。これは放射線防護上のリスク管理をきわめてシンプルにする利点がある」。確かに防護すべきリスクがある。その上の「便宜」

2012-03-20 09:03:15
島薗進 @Shimazono

4ICRPがLNT仮説を採用する根拠②以上は、土居雅広他編『虎の巻 低線量放射線と健康影響』医療科学社、2007による。この書物は放医研で作られたものだが、放医研の中でも土居氏は、安易にLNT仮説を否定するような方向に抵抗していたらしい。2006年7月旅先で倒れ死去。

2012-03-20 09:03:37
島薗進 @Shimazono

1ICRPがLNT仮説を採用する根拠③ICRPはもちろんBEIR(米国科学アカデミー電離放射線の生物学的影響に関する委員会)を無視できない。『虎の巻 低線量放射線と健康影響』p99「LNT仮説は、もはや「仮説」ではなく、科学的事実に裏付けられた事実であるという見解を示しているのが

2012-03-20 09:04:21
島薗進 @Shimazono

2ICRPがLNT仮説を採用する根拠③「BEIR-Ⅶ報告書(2005)である。BEIR-Ⅶ報告書は、広島・長崎の原爆被爆者の健康影響調査以外に、マヤック(旧ソ連)の原子力施設事故の健康影響調査などを総合的に見直している。これらの疫学的調査を総合した100mSvの被ばくにおける

2012-03-20 09:05:13
島薗進 @Shimazono

3ICRPがLNT仮説を採用する根拠③「発がんリスクの推定は、有意なリスクが証明され、LNT仮説は科学的な根拠のある理論(theory)であると主張している」旧ソ連のマヤック軍事工場の健康影響調査については放影研HPに要約紹介がある。http://t.co/qbq93ye7

2012-03-20 09:06:04
島薗進 @Shimazono

4ICRPがLNT仮説を採用する根拠③マヤックの複合施設で1948年から 1972年の間に働き始めた核施設作業者約21,500人のコホートにおけるがん死亡の調査(2003年報告)。「マヤック複合核施設の作業者におけるがん死亡リスク」(放影研報告書(RR)5-02)の紹介による。

2012-03-20 09:06:34
島薗進 @Shimazono

5ICRPがLNT仮説を採用する根拠③「肺、肝臓、および骨格 (主なプルトニウム沈着部位)のがんと、その他の固形がんをまとめた場合のリスク増加は共にプルトニウム被曝と関連していた」。マヤック調査はγ線による影響(外部被ばく)とプルトニウム被曝(内部被曝)とを関連づけた研究。

2012-03-20 09:07:02
島薗進 @Shimazono

6ICRPがLNT仮説を採用する根拠③以下は私の推測。BEIRⅦはついに内部被曝を認め低線量被曝による健康影響の核心的問題に踏み込んだ?ICRPもそれを無視できなくなっているのでは?マヤック調査への言及がそれに関係している?ならば、原爆調査、ハーンフォード調査も見直しが必然?

2012-03-20 09:08:10
島薗進 @Shimazono

1ICRP厳しすぎる論の専門家が日本で優勢になったわけ①ICRP厳しすぎる論の専門家の多くは医学畑ではない。放射線影響学・放射線生物影響学・放射線防護学等とよばれる学問分野で学び研究を進めてきた人々。この分野は、当初は保健物理Health Physicsとよばれていた。

2012-03-25 08:08:30
島薗進 @Shimazono

2ICRP厳しすぎる論の専門家が優勢になったわけ①保健物理の由来についてはいくつかの叙述があるが、ここでは主に辻本忠「これまでの保健物理」(保物セミナー2009)http://t.co/gLWoggeC を参照する。保健物理は1942年のシカゴでの原子炉完成時に成立。

2012-03-25 08:09:03
島薗進 @Shimazono

3ICRP厳しすぎる論の専門家が優勢になったわけ①「原子炉から出る放射線及びプルトニウムのような放射性物質から作業者や研究者及び環境を物理的方法で護ための研究」。保健物理を学問体系とするのはひじょうに難しいと辻本氏は述べる。新しい学問であることと「実学」であるため。

2012-03-25 08:09:31
島薗進 @Shimazono

4ICRP厳しすぎる論の専門家が優勢になったわけ①そこで「人によっていろいろと見解の相違がある。また、実学であるので時代の影響を大きく受ける。」日本の保健物理研究は、1956年に発足した特殊法人日本原子力研究所の中の保健物理部から。原子力研究で研究も行うが管理部門でもあった。

2012-03-25 08:09:52
島薗進 @Shimazono

5ICRP厳しすぎる論の専門家が優勢になったわけ①辻本氏はアメリカの保健物理の草分け、カール・モーガンの言葉を引く。「国は研究所を助成し、研究所長は保健物理部を助成している。そして、保健物理部では部長、室長、研究員、技術者、秘書などが一致協力して仕事を進めていく」

2012-03-25 08:10:49
島薗進 @Shimazono

6ICRP厳しすぎる論の専門家が優勢になったわけ①「そして、その成果が直接研究所の頭脳に報告できるような組織でなければならない」軍隊みたいですね!京大原子炉研究所の初代から3代までの(?)所長だった柴田俊一が言ったように「管理優先、研究尊重」が本来のあり方だと辻本氏はいう。

2012-03-25 08:12:06
島薗進 @Shimazono

1ICRP厳しすぎる論の専門家が日本で優勢になったわけ②70年代までの保健物理は国や大学から冷遇され、地位が下落したと辻本氏はいう。京大原子炉研究所は学術的レベルが低いとの評価を受け、「研究優先、管理尊重」に方針を変えた。これは本来ではない。大学の原子力工学科内でも冷遇。

2012-03-25 08:13:44
島薗進 @Shimazono

2ICRP厳しすぎる論が日本で優勢になったわけ②そこで70年代半ばに保健物理の地位を回復させるよう要望も行われた。そして1975年に金沢大学理学部に低レベル放射能研究施設が、1976年に京都大学に放射線生物研究センターが設けられた。これからは保健物理をさらに発展させるべきと。

2012-03-25 08:14:33
島薗進 @Shimazono

3ICRP厳しすぎる論が優勢になったわけ②鳩山由紀夫首相の国連気候変動サミットでの発言を引いて、辻本氏は「この目標を達成するには原子力発電所の役割が非常に重要になる。原子力発電所を発展させるには保健物理の活動が必須である」「これからも原子力発電を発展させていくには

2012-03-25 08:14:54
島薗進 @Shimazono

4ICRP厳しすぎる論が日本で優勢になったわけ②「保健物理が活動しなければならない」辻本氏は保健物理を原子力発電は発展させるための実学で、時代の要求に応じて研究を発展させていくべきだという考えをもち、70年代半ば以降その方向での努力が積み重ねられたと捉えている。

2012-03-25 08:15:12