ザ・ファンタスティック・モーグ #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第三部「不滅のニンジャソウル」より:「ザ・ファンタスティック・モーグ」 #2

2012-03-27 11:18:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あのお婆さん本人からは何も出ないわね」殺風景な時間貸しのレンタル会議室に二人は居た。ナンシーは机に何枚かのスクラップ・メモを並べた。「家族構成は虚言じゃ無い。旦那も10年前に亡くなっている。自営のセントー経営者だったけれど、彼女は3年前に引き払って、市街区に」 1

2012-03-27 11:47:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「3年間。独りか」ニンジャスレイヤーは呟いた。「荒らされた部屋には特に手掛かりとなるもの無し」彼は机に写真を置いていった。「微量のニンジャソウル痕跡があった。恐らくは私が殺したナイトサーバント一人のものだ。痕跡のアトモスフィアが似ていた」「ニンジャの空き巣」「……」「冗談よ」 2

2012-03-27 12:00:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「企業と揉めた話も無し」ニンジャスレイヤーはナンシーを見た。彼女は頷いた。ニンジャスレイヤーはナンシーのスクラップ・メモを手に取った。「ならば、しきりに話に出てきた息子……サラリマンだったな。サラカイカ・ヘクト?」「それ、ね」ナンシーは言った。「勿体つけるつもりは無いけど……」3

2012-03-27 12:32:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「既に調べたか」「ヒトミ・ギンザは死んでるの。それも先週」ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。「先週?死んだと?」「それ、サラカイカ・ヘクトの社内報、社葬の記事……」「社葬……」ニンジャスレイヤーはスクラップをめくった。 4

2012-03-27 12:36:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『サラカイカ・ヘクトの優秀な会社員ヒトミ=サン』『泣きたい話です』『死後に二階級昇進して部長待遇』『忠誠心』『とにかく愛社』といった言葉が並ぶ。そして社葬の写真。企業墳墓に遺体を運んでゆく霊柩車と、サラカイカ・ヘクトの社章のノボリ……。 5

2012-03-27 12:46:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

社葬とは日本独特の風習であり、サラリマンの奴隷的献身、愛社精神の礎ともなっている。企業のために戦い、功績を上げ、死ぬ事によって、彼らは企業をあげたセレモニーをもって葬られ、企業墳墓に安らう事ができるのだ。言わばそれは彼らにとってのヴァルハラであった。 6

2012-03-27 13:54:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはどうであったろう。ダークニンジャに家族を殺され、彼のかつての全未来は最悪の形で潰えた。たとえばあの悲劇が存在せず、サラリマンとして家族を愛し、天寿を全うしたとする……果たして企業墳墓への埋葬を望んだだろうか?やはり、無かろう。彼には家族がいた。彼は物思いを中断した。7

2012-03-27 14:04:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒトミ=サンは、なぜ死んだ」「心筋梗塞という事になってはいるわね」ナンシーは答えた。「これ以上は、外部から探りようがない。妙にネットワークセキュリティも硬い会社で、今の私のタイピング速度でここのファイヤーウォールを破れるとも思えない」「……中に入るのか」ナンシーは頷いた。 8

2012-03-27 14:11:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「実際もう準備は済ませてある。勿体つけるつもりは無いんだけど」「今から行くのか」とニンジャスレイヤー。ナンシーは微笑んだ。「そんなところ。今の私で細工できるところを、既に弄らせてもらった……また連絡する」レンタルルームのコトダマイメージが0と1に分解され、ホワイトアウトした。 9

2012-03-27 14:34:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

IRCセッションは終わりだ。ナンシーは右耳の後ろのバイオLAN端子からケーブルを引き抜いた。携帯端末を折りたたみ、個室休憩所のドアを開けると、足早に退出した。既に彼女は秘書めいたスーツに身を包んでおり、硬い合成大理石床をピンヒールがカツカツと鳴らす。 11

2012-03-27 15:12:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ」「ドーモ」サラカイカ・ヘクトの庭園作りの中庭をナンシーが歩くと、カチグミ・サラリマン達がにこやかにアイサツする。サラカイカ・ヘクト社は大手の製紙業だ。特にオリガミ部門が強い。枯山水、一列に並ぶシシオドシ、頭上高くのパネルに映る青空の映像。会社の勢いの誇示。 12

2012-03-27 15:48:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エスカレーターの脇、真鍮の巨大なオリガミ・ツル・オブジェが台座の上で優雅に回転している。台座からはアンビエントなオコトBGMも流れ、リラグゼーション効果が実際著しい……ナンシーはまるでそれが日常の通勤風景であるかのような自然さで、エスカレーターに足をかけた。 13

2012-03-27 15:54:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ツケナミ=サン?……ツケナミ=サン?」ツケナミ=タイシは甘美な白昼夢の中にいた。課長……降って湧いた課長職!ジゴクをくぐり抜けたツケナミに与えられた、いわばこれは、褒美だ。同期のライバル二人は今回振るわれた大鉈によって二人ともセプクした。会社に捨てられればそれしかない。 15

2012-03-27 22:07:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ツケナミには正直、今回の再編成を生き残る自信は無かった。同期の二人のほうがよほどできる連中だったのでは?いや……きっと、必要以上にできたからダメだったのだ。奥ゆかしさが足りなかったのだろう。ナムアミダブツ。二人とも悪い奴ではなかった。それが自ら死を選ぶ事になろうとは……。 16

2012-03-27 22:11:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここを去ったのち自らセプクせず、ランクを落とした別会社に再就職するなどした奴はいただろうか?……ツケナミはぼんやり記憶を辿る。一人、屋台を始めた奴がいたような気もするな。相当な変わり者だった、上司の叱責も柳に風だった。それぐらいの図太さがなければ、ショックで自殺するのが定石。17

2012-03-27 22:18:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(俺もセプクしたかな、もしクビを切られていたら)ツケナミは死体めいたイマジネーションを膨らませた。セプクをすれば、少なくとも名誉が保たれる。カチグミ・サラリマンとして死ねる。社葬してもらう事ができる。社屋の裏手にあるあのアンコールワットじみた様式の墳墓に安らうことができる。 18

2012-03-27 22:24:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サラカイカの企業墳墓の凄さは同業他社と比べても抜きん出ている。名誉を重んずるからこその、ブランドパワーなのだ。ただ、ウシミツアワーまで残業した日など、窓からあの巨大なシルエットを見ると、正直ゾッとする。愛社的な感情とは言えない。だが怖いものは怖いのだ。19

2012-03-27 22:34:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

皆、表立って口には出さないが、そうした恐怖はツケナミひとりの特殊感情では無い。その証拠に、あの墳墓にまつわる詠み人知らずの企業内伝説が幾つも存在し、語り伝えられているのだ。曰く、墳墓の入り口にユーレイが逆立ちしていた……墳墓が夜、光る……決まった時間に墳墓の写真を撮ると…… 20

2012-03-27 22:39:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

特に、同期二人も死んだ、最近の例の大規模な再編成……セプクした人間が多いせいで、またぞろ、生々しい怪談が幾つか生まれてしまった。ウシミツアワーにIRCを立ち上げると、死んだサラリマン達の怨念が混線して……「ツケナミ=サン? 」「アイエーエーエエエ!」 21

2012-03-27 22:44:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ツケナミは我にかえった。課長用ビヨンボ・パーティションの影から事務員のヨキネがひょっこりと顔を出した。「居眠りしてたんですかあ?」「エッ?参ったね、ははは」ツケナミは頭をかいた。「まだお昼休み前ですよ。浮かれてるんでしょオ」ヨキネは笑った。愛想が全然違う!昇進前と! 22

2012-03-27 22:55:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何を言ってるんだ、君ィ!」彼は慌てて手近にあった湯呑を取り、チャを飲んだ。粉末では無いオーガニック・チャ!課長の味だ。「慌てちゃって」ヨキネはくすくす笑い、「でもカワイイですよね!知らなかったです……あのォ、新しい秘書の人、今日からですよォ」「え、秘書?秘書か」 23

2012-03-27 23:00:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「金髪の綺麗な人なんですって!ダメですよ、変な事考えたらァ。あと、私をメッセンジャーがわりにしないように、カカリチョに言ってくださァい」「ああ、ああ、金髪?秘書?ああ……わかった」「絶対ですよォ!」ヨキネは笑い、去っていった。(これは……いける?ラブメンテナンス重点なのか?)24

2012-03-27 23:08:41