量子力学の特徴とは?谷村省吾教授(@tani6s)による解説

名古屋大学の谷村省吾教授によるベルの不等式における非局所性の位置づけについてのツイートをまとめました。 日経サイエンス2012年3月号「光子の逆説」 http://www.nikkei-science.com/201203_032.html 数理科学2012年4月号「量子力学の数学的技法」 http://www.saiensu.co.jp/?page=magazine&magazine_id=1 も併せてどうぞ。
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TANIMURA Shogo @tani6s

「量子力学の講義で「量子力学は非局所性を持つ」と教えるのは、マズイと思うのですが、先生は、どう思われますか?」という質問をいただきました:

2012-04-03 16:57:31
墓所の某(前世紀の尻尾) @kafukanoochan

@tani6s 量子力学の講義で「量子力学は非局所性を持つ」と教えるのは、マズイと思うのですが、先生は、どう思われますか? 局所性の定義:ある地点で行われた行為とか起きた事象により、遠方の実験結果が、即ちに変わることはない。これを局所性という。 (「新版 量子論の基礎」p214)

2012-03-31 06:45:18
墓所の某(前世紀の尻尾) @kafukanoochan

@tani6s つづき:  つまり、「ある地点で行われた行為とか起きた事象」と「遠方の実験結果」に因果関係はない ということ=俗に言えば、超光速通信は不可能 という意味と理解しています。したがって「量子力学は非局所性を持つ」が「超光速通信は不可能」という文言は、 自己矛盾です。

2012-03-31 06:47:37
墓所の某(前世紀の尻尾) @kafukanoochan

@tani6s もちろん、非局所的である状態の収縮。Entangled状態の非局所的相関は、 あります。しかし、量子力学に非局所性があるからでは ありません。僕は、「量子力学は、局所性を前提とした理論であり、非局所的相関が出てくるのは、量子論特有の干渉効果でおきる」と思っています

2012-03-31 06:52:25
TANIMURA Shogo @tani6s

@kahukanoochan 私の回答が遅れましたし、他の方もいろいろ回答されているようですが、私なりに考えるところを述べます。

2012-04-03 16:59:37
TANIMURA Shogo @tani6s

結論から言えばh-morimotoさんの理解の仕方でおおむね正しいと思います。

2012-04-03 17:00:12
TANIMURA Shogo @tani6s

現行の量子力学は局所的理論です。厳密に言えば、空間的に離れた2つの場所で測定される2つの物理量、あるいは光速以下の速度では連絡できない時空の2点で測定できる2つの物理量は可換である、というのが局所性の定義です。

2012-04-03 17:00:57
TANIMURA Shogo @tani6s

で、現行量子力学はこの要請を満たすように作られています。

2012-04-03 17:01:17
TANIMURA Shogo @tani6s

この局所性の定義は、平たく言えば《ある地点で行われた行為や事象により、遠方の実験結果が、影響・変更を受けることはない》という要請に言い換えられます。

2012-04-03 17:01:39
TANIMURA Shogo @tani6s

理論だけのことを言えば、局所性の要請を満たさない量子力学のモデルも作れます。その意味では、局所性は量子力学の「前提」ではありません。

2012-04-03 17:02:14
TANIMURA Shogo @tani6s

もちろん、そういう言い方が意味を持つためには「どこからどこまでが量子力学なのか」という輪郭を明確に規定しないといけないですが、

2012-04-03 17:02:20
TANIMURA Shogo @tani6s

「ヒルベルト空間の状態ベクトルと、物理量を表す演算子と、時間発展を表すハミルトニアンがありさえすれば量子力学と言ってよい」という立場をとると、量子力学の枠組みはかなり緩くて、局所性を守らなくてはならない理由は、この枠組みの中からは出て来ません。

2012-04-03 17:02:41
TANIMURA Shogo @tani6s

むしろ局所性は、量子力学に対する物理的・付加的要請だと言った方がよいと思います。局所性の要請を見やすくしたものが「相対論的場の量子論」になります。

2012-04-03 17:02:57
TANIMURA Shogo @tani6s

h-morimotoさんの《量子力学の講義で「量子力学は非局所性を持つ」と教えるのは、マズイと思うのですが、先生は、どう思われますか?》という質問に答えますと、マズイでしょうね。私はそういう安直なものの言い方は避けています。

2012-04-03 17:03:16
TANIMURA Shogo @tani6s

あえて言えば、非局所的なものは「物理量」ではなく「状態」です。

2012-04-03 17:03:31
TANIMURA Shogo @tani6s

状態は、系全体がどう見えるかということを特徴づける概念なので、大域的な概念です。「非局所的」と言うとおどろおどろしいイメージが伴いますが、「大域的」と言えばビビる必要はない印象を与えると思います。

2012-04-03 17:04:13
TANIMURA Shogo @tani6s

状態が大域的なので、離れた場所での測定にも相関があるわけですね。ただし、あくまで「相関」であって、「影響」ではない。その点もh-morimotoさんは理解されていると思います。

2012-04-03 17:04:30
TANIMURA Shogo @tani6s

そして、ベル不等式の破れのような古典論理では説明のつかない相関現象は、状態の大域性と、物理量の非可換性が相まって生じる干渉効果です。

2012-04-03 17:04:46
TANIMURA Shogo @tani6s

そのことは清水明さんの『新版量子論の基礎』のp.229あたりにちゃんと書かれています。

2012-04-03 17:04:58
TANIMURA Shogo @tani6s

ベル不等式の破れは「非可換性」と「干渉効果」の結果であるということを私も論文で詳しく論じました:http://t.co/fYNdJks1

2012-04-03 17:05:15
TANIMURA Shogo @tani6s

雑誌『理系への数学』に「21世紀の量子論入門」という連載記事を書いたのですが、その2010年12月号に「ベルの不等式とミステリー姉妹 」という記事を書きました。こっちはだいぶ易しい解説のつもりです:http://t.co/LiXBbWey

2012-04-03 17:05:31
TANIMURA Shogo @tani6s

非局所性はベル不等式の破れにとって本質的なものではありません。ただ、ベル不等式を証明する論理をクリアにするために局所性を見せびらかしているのです。

2012-04-03 17:05:46
TANIMURA Shogo @tani6s

量子力学の特徴は「非局所性」と言うよりは「非可換性」ですね。

2012-04-03 17:05:58
TANIMURA Shogo @tani6s

非可換性の方に注目すべきなのに、「非可換」と言っても地味なイメージしか湧かず、「非局所的」と言った方がインパクトがあるので、そっちの言い方がもてはやされるのだと思います。

2012-04-03 17:06:45
TANIMURA Shogo @tani6s

でも「ベル不等式の破れは、局所性の破れだ」という言い方は嘘になってしまうので、やめた方がよいですね。

2012-04-03 17:06:55