山本七平botまとめ/『「大義」と「武器」が人を狂わす』

山本七平著『一つの教訓・ユダヤの興亡』/「大義」と「武器」が人を狂わす/196頁以降より抜粋引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】日本は中国を侵略し、その国土の主要部分はことごとく被害をうけたといって過言ではない。しかし日本の敗戦で陸軍が引き揚げる時、全ての地方が同じように日本軍を扱ったのでなく、そこには大変大きな「まだら」があった事は、終戦時の記録が示している。<『一つの教訓・ユダヤの興亡』

2012-04-05 04:25:50
山本七平bot @yamamoto7hei

2】住民から惜しまれながら去った――というと語弊があるが――それに等しい状態で引き揚げた部隊もある。理由は全て、そこの部隊長が公正な人でその部隊の兵隊が中国人に何らかの不正を働けば遠慮なくこれを処罰したような部隊である。勿論その逆もある。

2012-04-05 04:55:54
山本七平bot @yamamoto7hei

3】また台湾などは、日本の植民地から解放された筈なのに、林景明氏によると「犬が去って豚がきた」という言葉を生じ、ついに大暴動になった。彼らは確かに大日本帝国から解放され、「犬」すなわち全ての実権を握って、吠えかつ威張っていた日本軍も日本人も去った。

2012-04-05 05:25:54
山本七平bot @yamamoto7hei

4】しかし日本は一応ここに法的秩序を、それが手前勝手なものでも確立していた。しかし新しく駐留した国民党軍はそうでなく、温順な庶民の生活を侵害した。それが大暴動の原因であった。彼らにとっては「解放」された事より「日々の生活への侵害」の方が大問題であった。これは当然である。

2012-04-05 05:55:58
山本七平bot @yamamoto7hei

5】アメリカの日本占領は史上最も成功した占領であるといわれる。皮肉な言い方になるが、これは両者の生活水準が当時余りにかけ離れており、アメリカ人が「侵害」の誘惑に駆られる様な直接的対象が当時の日本には何もなかったからだといえる。――大和撫子を除けば。

2012-04-05 06:25:50
山本七平bot @yamamoto7hei

6】事実、焼野原になった大都市の防空壕に屋根をかけて住んでいるシラミだらけの日本の一般庶民の生活に、当時、世界最高の給与を誇ったアメリカ軍一般兵士が、「侵害」の誘惑を感ずるものが何もなくて不思議ではない。

2012-04-05 06:55:53
山本七平bot @yamamoto7hei

7】だが、東南アジアを占領した日本軍はそうではなかった。勿論この地は一般的生活水準は低いが、富裕者は当時の日本の庶民が全く知らないものをもっていた。日本軍はまず最高級の車を徴発してこれを各宮家に贈呈した。これには当時の副官の証言がある。更に一級落ちる普通の車は皆軍用に徴発した。

2012-04-05 07:25:49
山本七平bot @yamamoto7hei

8】以下は省略するが、その実体は収容所へ運ばれる日本軍への彼らの罵声が「ドロボー」であった事に象徴されている。温順な一般庶民を怒らすのは、政治的暴動への弾圧よりも、徴発という名の「ドロボー」が公然と歩きまわり、それを訴えれば逆に処罰されるという状態なのである。

2012-04-05 07:55:54
山本七平bot @yamamoto7hei

9】それは、勿論彼らが「植民地」という状態に満足していたという事ではない。だが、一方で「ドロボー」をしつつ、一方で「大義」や「東亜新秩序」や「白人支配からの独立」を説いたところで、それは無駄である。私は南部レバノンにおける様々な実態調査を読むと、この事を思う。

2012-04-05 08:26:18
山本七平bot @yamamoto7hei

10】「暗黒の九月」にフセイン王麾下のヨルダン軍に敗れて、というより「弾圧」されて南レバノンに雪崩込んだPLOは、文字通り「着のみ着のまま」であった。一方レバノンは、かつての南方のように富の偏在がはなはだしいとはいえ、中東最高の生活水準を誇っていた地であった。

2012-04-05 08:55:56
山本七平bot @yamamoto7hei

11】また衰えたとはいえベイルートは中東の金融の中心であり、また最高の設備を誇る保養地でもあった。更にレバノン人には中東の近代化は自分達が始めたもので、中東の最先進国であるという誇りがあった。~略~富の偏在があるとはいえ~略~その生活水準は「暗黒の九月」直後のPLOとは違いすぎた

2012-04-05 09:26:00
山本七平bot @yamamoto7hei

12】しかし、レバノンの一般庶民は武器はもっていない。一方、PLOは武器と「大義」をもっていた「武器」と「大義」、この二つが結びつくと個人的倫理感を喪失させ、その結果いかに人を狂わせるか

2012-04-05 09:55:55
山本七平bot @yamamoto7hei

13】六十歳以上の日本人なら、直接にあるいは間接に体験しているし、戦後の人も連合赤軍の「総括」にその一端を垣間見たであろう。そして、これによって「狂わせられた」のは何も日本人だけではなかった。 全ての人間が狂うといってよい。

2012-04-05 10:26:05
山本七平bot @yamamoto7hei

14】「大義」――この言葉は、それを掲げた者にはすべてが許されるという妄想を生む。そして一方には、それを行ないうる武器がある

2012-04-05 10:56:00
山本七平bot @yamamoto7hei

15】そうなったとき、ローマの支配から同胞を解放するという「大義」を掲げた二千年前のユダヤ人も、聖地を奪還するという「大義」を掲げた十字軍も、東亜を解放するという「大義」を掲げた日本軍も、アラブの「大義」の尖兵となったPLOも、何とよく似た行動に走ることであろう。

2012-04-05 11:26:07
山本七平bot @yamamoto7hei

16】その前には、庶民の日常生活への侵害などものの数ではなくなってしまう。そして、日常生活の侵害を守ろうと抵抗する者は、この「大義」に叛逆する者として、遠慮なくなぎ倒されていく

2012-04-05 11:55:59
山本七平bot @yamamoto7hei

17】~略~ここでヨセフスの指摘している事は重要である。いわば「ローマからの解放の大義」を呼号されれば、人はそれに反対できない。しかしこの呼号している者は、その為には庶民の平穏な生活などは考慮しない。そうなると、同じくそれを考慮しない盗賊や暴力団がこれに一体化する

2012-04-05 12:26:02
山本七平bot @yamamoto7hei

18】というのは、現象として現われる点では、庶民にとっては同じだからである。共産党による銀行強盗が戦前にあり、それは勿論、日本を資本家の支配から解放する為の資金として用いるつもりであったのであろうが、強盗された側にとっては普通の強盗に入られたのと何の変りもない

2012-04-05 12:55:58
山本七平bot @yamamoto7hei

19】しかし「イデオロギーを掲げて強盗する側」の論理では、自分は解放の「大義」を掲げ、それを遂行する為の資金を獲得しているのだから、何ら良心に恥ずる事はないという結果になる。これが巨大化すれば、東亜解放の「皇軍」が同時に「ドロボー」であるという現実を生ずる

2012-04-05 13:26:02
山本七平bot @yamamoto7hei

20】この「現実」を無視して戦争中は「大義」を掲げた者を「大義」とし、戦後は自らの戦時中の報道に頬かむりをして、これを一方的に「ドロボー」と決め付けている日本の新聞の態度は、ヨセフスが鋭く指摘している現実を無視している。そして、これは現在でも変りはない

2012-04-05 13:55:58
山本七平bot @yamamoto7hei

21】『月曜評論』に「ここにも大新聞の”大曲解”難民虐殺調査報告書の意味」という高木桂蔵氏の論文が掲載されている。この論文とほぼ同じ内容のことは前に記したが、その際、またそれ以後、私が蒐集した資料から見てこの論文は極めて公正であると思われるので、次に引用させていただく。

2012-04-05 14:26:19
山本七平bot @yamamoto7hei

22】《イスラエル司法調査委員会の難民キャンプ虐殺事件の暫定報告は、日本の新聞がいかに中東問題でデタラメな事を書いているかを証明するものとなった。

2012-04-05 14:55:58
山本七平bot @yamamoto7hei

23】11月24日、イスラエル司法調査委員会が発表した9月のベイルート・サブラ難民キャンプ虐殺事件についての暫定報告は、ベギン首相ら政府・軍の首脳九人に責任があるというものだが、この『責任』とは、日本の大新聞が九月にとりあげているそれとは全く逆なものである事が明白になった。

2012-04-05 15:26:07
山本七平bot @yamamoto7hei

24】『ベギン首相はレバノン軍(ファランヘ党員のことを指す)が果すべき役割について適正に考慮せず、難民キャンプ内住民に対する報復行為、流血の惨事が起きる可能性を無視した』責任を問われているとしている。

2012-04-05 15:56:05
山本七平bot @yamamoto7hei

25】これは簡単にいえばレバノンではPLOが同国民に極めて恨まれ、これまで二十万人近いレバノン人を殺害・暴行しており、一般レバノン人は極めて深い恨みを抱いているのを知っていて、ベギン首相はレバノン軍が報復に出る事を事前に阻止するような適当な措置をとらなかったといっているのである。

2012-04-05 16:26:07