チューブド・マグロ・ライフサイクル #5

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「チューブド・マグロ・ライフサイクル」#5

2012-04-08 22:35:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「火災ドスエ……火災ドスエ……」ヨロシサン製薬地下研究所の統合モニタ室には、電子マイコ音声による無機質なアラートが鳴り響いていた。非常ボンボリが回転し、室内は赤と黒、そしてUNIXが放つ緑色の光に支配される。 1

2012-04-08 22:45:30
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捕獲されていた哀れな鹿たちは、野火に終われる狂った獣の群のごとく、地上に向かって突き進んだ。一部のアルバイターは、持てるだけのドリンク剤を持って脱出したが、大半の者は火災報知設備の誤作動を疑い(下層ではよくあることだ)、バイト代を満額貰うためにリラクゼーションホールに残った。 2

2012-04-08 22:52:51
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モニタ室にはLAN直結でマザーUNIXを操作するマサムネ、その左右に控えて数十個のモニタ映像を見るヨシチュニ、セントール。部屋の隅には、拘束具を着せられたヨシダ先生。白い床ではネギトロめいた死体に変わった2体のクローンヤクザの血液が、緑からどす黒い赤へと酸化するところだった。 3

2012-04-08 22:57:10
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「こんな反抗は無意味だ、マサムネ=サン!」ヨシダ先生は体をよじらせながら言った「すぐに本社が異常に気付き施設のUNIX権限を奪い返す!クローンヤクザ軍団が雪崩れ込んできて、君らを殺すぞ!無関係の研究員も死ぬかもしれない!良心の呵責が原因なら、独りで静かにセプクでもしたまえ!」 4

2012-04-08 23:05:39
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「……良心の呵責?」マサムネは自嘲的な笑みを浮かべ、6個のUNIX画面を青い瞳で睨みながら答えた「俺に良心なんていうものが、残っているとは思えないな……。そんな言葉で俺は止まらない。俺はブッダじゃない。研究員や、鹿や、アルバイター……全て救うことなんか、はなから……諦めてる」 5

2012-04-08 23:22:21
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「……セプクは後でするだろう」マサムネは誰にともなく言った「その前に、成すべきことがある……大切なことが……。……俺も昔は考えていた。バイオの力で幸福な未来が訪れることを。俺はアンダーガイオンの出だ。家族でただ独り、ネオサイタマに留学で送り出され、ヨロシサン製薬に入った……」 6

2012-04-08 23:29:50
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「……俺は薄情だったよ。カチグミに成りすますため、容姿を変え、思考を変え……いつしか……」廊下側で大きな物音がした。防弾ガラス越しに、クローンヤクザ軍団の姿が見える。ロックを物理的に破壊し、雪崩れ込もうとしているのか。セントールはそちらを向き、威嚇のために低い唸り声を上げた。 7

2012-04-08 23:37:37
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「クローンヤクザだ。今ならまだ間に合う。マサムネ=サン、無駄な抵抗をやめるんだ」ヨシダ先生は同じ繰言を続けている。三人のうち、誰も彼の動きを警戒する者はない。彼は冷汗を垂らしながら脳内UNIXにコマンドを送る。首の端子穴から寄生虫めいたバイオLANケーブルが生え、床を這った。 8

2012-04-08 23:44:30
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流石はヨロシサン製薬の管理職。冒涜的な特殊肉体改造だ。LAN端子はそのまま、天井の監視カメラ銃に這い寄る。「……俺は結局、けちな人間なのさ。より善い社会なんか、どうでもいい。……助けたいと思った人間だけを助けたい……」マサムネはUNIX制御に集中し、この動きを察知していない。 9

2012-04-08 23:53:29
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「統制下な」「統制下な」「統制下な」「統制下な」……UNIX画面に次々と重点ウィンドウが出現し、極太ミンチョ体でアラートメッセージが点滅する。ヨロシサン製薬キョート支部が異常に気付き、施設制御権をリモートで奪い返しにきたのだ。火災警報が止まり、モニタ室のロックが……解除! 10

2012-04-08 23:58:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「ザッケンナコラー!!」」」雪崩れ込んでくるクローンヤクザ軍団!「ニィイイイイーッ!」身を挺して突撃するセントール!「……ブッダファック!あと少しで……!」マサムネがLAN直結のタイピング速度をブーストし、統制権の再奪還を試みる。ヨシダ先生の制御するカメラ銃が……動く! 11

2012-04-09 00:03:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マサムネから預かったオートマチック拳銃で廊下側を警戒していたヨシチュニは、ヨシダ先生の繰言が止まった事に嫌な予感を覚え、背後を振り向いた。ナムアミダブツ!水色のLANケーブルがいつの間にか天井に!?監視カメラ銃が動いた!?「マサムネ=サン!アブナイ!」絶叫するヨシチュニ! 12 

2012-04-09 00:05:55
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ヨシチュニは生まれて初めて銃を使った!闇雲にトリガを引く!セントールは銃器で武装したクローンヤクザと戦闘を続ける!「ニィイイイーッ!」「グワーッ!」「アバーッ!」BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!室内に入り乱れる銃声と絶叫!「グワーッ!」「グワーッ!」「アバーッ!」 13

2012-04-09 00:10:11
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……1分後。ヨシチュニは床で仰向けに倒れていた。頭痛を堪えながら、目を開く。視界の周囲が、霧の掛かったように白くぼやけている。体に銃創は無い。クローンヤクザに背後から頭を殴り飛ばされたのだが、彼はそれを覚えていない。無我夢中で叫び、トリガを引いていたからだ。 14

2012-04-09 00:13:26
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ヨシチュニは起き上がった。室内は数十体以上のクローンヤクザの死体と真っ赤な血で染め上げられていた。部屋の隅ではヨシダ先生が絶命し、足先をビクビクと痙攣させていた。モニタの中では彼の最高傑作であるスカベンジャーがちょうど爆発四散をとげていたが、彼はそれを見ることなく息絶えた。 15

2012-04-09 00:15:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ニィィィィーッ……」低く哀しげな鳴き声を聞き、ヨシチュニは身体を強張らせた。背後を振り向く。傷だらけの怪物が力無く横たわるマサムネを両腕で抱え上げていた。「……ニィィィィィーッ……ニィィィィーッ……」怪物は鳴き続けた「……ニィイイイ……サン……ニイサン……オニイサン」 16

2012-04-09 00:23:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……兄さん?」ヨシチュニは頭を押さえながら言った。ヨシチュニの声を聞いたセントールは、荒々しい嘶き声をひとつ残し、マサムネを抱えたままモニタ室から走り去っていった。拳銃を握ったままモニタ室に残されたヨシチュニは、セントールの作った死体の道を追って、ヤバレカバレで脱出した。 17

2012-04-09 00:28:11
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アンダーガイオン下層部の工場エリアで、第1シフト労働終了を告げる雅楽的サイレンが鳴った。地下都市アンダーガイオンに夕暮れは無い。ガコン、ガコンという武骨な機械音が上空で鳴り響き、擬似太陽が消灯される。ディジタル的に一日のサイクルが形作られる。 19

2012-04-09 00:30:39
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オレンジ色の作業服を着た労働者ヨシチュニ・ヒロシは、監視ゲートで労働賃金を受け取ると、オミヤゲ・ペナント工場を後にした。労働者の群れは、今夜のスシや電脳マイコセンターを求め、魚群めいてオイシイ・ストリートへ向かう。ヒロシも数時間ぶりにIRC端末を操作しながら、流れに乗った。 20

2012-04-09 00:32:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アンダーガイオンも、下層労働者たちも、ヨロシサン製薬も、何も変わってはいない。工場事故は隠蔽され、またいつものトカゲの尻尾切りだ。変わったのは、ヨシチュニ・ヒロシの生活だけである。暗黒メガコーポの恐怖を工場の仲間たちに説こうとした彼は、アナーキストと思われムラハチにされた。 21

2012-04-09 00:34:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いつまでここに居られるだろう。ヨシチュニは不穏なアトモスフィアと疑念の視線を感じながら、環状水槽を泳がされるマグロめいた労働者たちの列に並んだ。ネギトロ丼に並び、トークンを入れて、購入し……それから、また不安感に襲われて、ヨロシサン製薬の合法栄養ドリンク剤販売機の前に立つ。 22

2012-04-09 00:36:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((マサムネ=サン、僕は強くないんです。戦えませんよ……)))自販機のLEDメッセージボードに、「不安が病気」のドット文字が流れる。ヨシチュニの指が、購入ボタンに向かう。その手を止めるマサムネは、もういない。ヨシチュニはしばし葛藤し、それから……硬貨返却ボタンを押した。 23

2012-04-09 00:40:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「僕には観察力とコミュニケーション能力しかないんです。あなたのように強くないんです。だから、あなたのような人を、また、探します……そのために……」ポケットに入れた万札の感触を確かめながら、彼はパンクス用ヘアサロンへと向かった。ターコイズ・モヒカンとして生まれ変わるために。 24

2012-04-09 00:44:21