科学哲学は物理学について何か「指導的なこと」を言えるか?

名古屋大学の谷村省吾教授(@tani6s)による科学哲学に対する疑問についてのツイートのまとめです。 疑問に対する科学哲学者(でない人も含む)からの返答、 『科学哲学は物理学をどうしたいのか?』に対しての返答 →http://togetter.com/li/286243 も併せてご覧ください。 谷村先生の仕事についてはこちら、 続きを読む
科学 小澤の不等式 異分野間コミュニケーション 物理学 科学哲学 数学
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TANIMURA Shogo @tani6s
私の「哲学vs物理学」つぶやきが、思いもよらぬ反響を集め、肝をつぶしました。togetterは、公開後2日間で、のべ8172回閲覧していただいたようです:http://t.co/I9tyjs7N
TANIMURA Shogo @tani6s
「仕切りなおしてご議論したい」と申しましたが、私が「哲学vs物理学」の全議論を仕切り直すという意味ではありません。そんな力量が私にあるはずもなく、またツイッターという場を誰かが仕切れるはずもありません。たんに、自分の考えを仕切り直して表現したい、という意味です。
TANIMURA Shogo @tani6s
また、哲学全体について語るのも、焦点がぼけてしまうし、私の力量を遥かに超えてしまうので、哲学全体について云々することも控えます。
TANIMURA Shogo @tani6s
「科学哲学」と呼ばれる(らしい)分野に絞って議論します。また、その分野と親和性が高いと思われる、数学・論理学にも関わる議論をしたいと思います。
TANIMURA Shogo @tani6s
そして、念を入れる必要もないと思いますが、私は物理学者という立場で、ものを考え、発言します。
TANIMURA Shogo @tani6s
私の基本的な疑問は、科学哲学が物理学について何か「指導的なこと」を言えるか?というものです。あるいは、科学哲学は物理学をどうしようと思っているのだろうか?という疑問です。
TANIMURA Shogo @tani6s
科学哲学の源流は、経験主義(目に見える・手に触れるといった感覚こそ確かな知見の源であるとし、理論概念の実在性を認めない立場、反実在論)と、合理主義(法則的・合理的な概念は「本当にそこにある何か」だと認める立場、実在論)の対立にあると聞きます。
TANIMURA Shogo @tani6s
そこまで行くと遡り過ぎかもしれませんが、そういう議論の延長上に科学哲学が位置するらしいです。この時点で私の認識が間違っていたらすみません。
TANIMURA Shogo @tani6s
一知半解ですが、科学哲学の話をどこかで聞いて印象的だったのは、Ian Hackingという人の「介入実在論」という考え方です。
TANIMURA Shogo @tani6s
介入実在論とは、おおざっぱに言えば《電子というものは直接見えないけれど、電子の運動を計算してデザインした実験装置がちゃんと設計通りに動作して、未知の現象を引き起こし、観察する手段として使えるくらいなのだから、「電子は実在する」と認めざるを得ないじゃないか》という考え方のようです。
TANIMURA Shogo @tani6s
例として、1978年のSLACでの中性カレント実験で使われた偏極電子ビームが挙げられるようです。
TANIMURA Shogo @tani6s
これは、素粒子論の電磁相互作用と弱い相互作用の統一理論をテストするという重要な実験でした。この実験は、電子の実在性をチェックしたくて行われたのではなく、中性カレントの存在を確かめたくて行われました。
TANIMURA Shogo @tani6s
そのために「偏極電子ビーム」という特殊なビームを作る装置が開発・改良されました。この装置開発には大変なイノベーションがあり、実験家の間では有名な話のようです。
TANIMURA Shogo @tani6s
そうして装置が組み立てられ、実験が行われ、設計どおりの性能を発揮し、Glashow-Weinberg-Salam理論が一番よい理論だということが検証されました。
TANIMURA Shogo @tani6s
そこまではよいのですが、哲学的立場の「介入実在論」がこの実験を引き合いに出して言いたいのは、《これだけ実験がうまくいったのだから、もはや「電子の実在性」を疑う余地はないでしょう、実在とはこういうものではないですか?》ということです。
TANIMURA Shogo @tani6s
私が驚いたのは、(1)科学哲学者が中性カレント理論をわざわざ勉強して知っていたことと、(2)そんなマニアックで大げさな例を引っ張り出して来てまで「電子の実在性」を説得すべき相手がいるのか?という点です。
TANIMURA Shogo @tani6s
Hackingが介入実在論を唱えたのはいつのことか知りませんが、ともかく1978年よりは後でしょう。
TANIMURA Shogo @tani6s
私の感想は、この時代になってもまだ電子の実在性に疑念を持てる人がいたのか!という驚きと、
TANIMURA Shogo @tani6s
電子が設計通りに動いていることなんて、真空管を見ても、テレビのブラウン管を見ても、蛍光灯を見ても、毎日飽きるほど確かめられていることじゃないか!それをわざわざSLACのPEGGY II電子銃を引き合いに出すなんて!科学哲学はそんな議論をやっていたのか!という驚きです。
TANIMURA Shogo @tani6s
私はこの偏極電子実験の素粒子物理学上の意義は理解できますが、哲学的議論の対象とする意義はさっぱりわからない。
TANIMURA Shogo @tani6s
非常に悪い言い方をすると、哲学者が最新の加速器実験のエピソードをダシにして、物理学的にはどうでもいい議論を楽しんでいたとしか思えない。物理学者のネタを使って哲学者はそんな議論をしていたのか、というのが私の感想でした。
TANIMURA Shogo @tani6s
この場合、「介入実在論」は物理学上の発見・進歩の役に立っていません。役に立ったのは、電磁気学や工学やWeinbergの電弱統一モデルです。「介入実在論」を教えてもらわなくても、物理学者たちは介入実在論的に考え行動しているのですから、大きなお世話だ、と思うでしょう。
TANIMURA Shogo @tani6s
これが私の、科学哲学に驚き、呆れたケースの一つです。
TANIMURA Shogo @tani6s
「そんなのは昔の話です、いまでは科学哲学者はそんな素朴な議論はやっていません」と言われるかもしれません。また、「自然言語でなく、数学・論理を使って、もっと緻密な議論をしています」と言われるかもしれません。
TANIMURA Shogo @tani6s
もう一つ例を挙げます。最近、小澤正直氏の不確定性不等式の検証実験の発表があり、物理学者やそうでない人たちの関心が集まりました。
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コメント

来生自然 @KISUGI_JINEN 2012年4月10日
物理学者でも哲学者でもないですが、小澤の不等式に関心を持っている一人です。量子力学での「実在」という概念に深く関係する「標準偏差:ゆらぎ:σ」の取扱自身が小澤氏ですら揺らいでおり(測定前、装置全体etc.)、まさに哲学的か物理学的かに相同するようです。
来生自然 @KISUGI_JINEN 2012年4月10日
電子の実在性については、量子力学的な二重スリットの実験(日立の実験等)にて、多くの人々が「不思議」に思っています。量子力学的な「ゆらぎ」と同時に「実在」について自身で納得するには、そういったレベルの実験を自身でトレースするしかないのでしょう。
来生自然 @KISUGI_JINEN 2012年4月10日
科学哲学が「何を・誰を」相手にしているか?ですが、少なくとも「自分自身」を相手にしているのではないでしょうか?そうして、そのような説明を欲している一人(自分自身)がいるということは、他にも同じような説明を欲している人々がいる可能性を否定できないということなのかも知れません。
来生自然 @KISUGI_JINEN 2012年4月15日
この後、『科学哲学は物理学をどうしたいのか?』に対しての返答 http://togetter.com/li/286243 に続いているようです。
{白,黒}のカピバラの左随伴右随伴 @ainsophyao 2012年6月11日
自然科学で大学院まで行っていなければ、まず、大学教授でも絶望的なほど科学を誤解しているので、少々とんちんかんな例示の方法でも、彼らに科学を紹介するという意味で、科学哲学は実に重要だと思いますね。全員に研究を経験させるほどのリソースはないのです。
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