パセリは激怒した
- lucifer_af
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パセリは激怒した。必ずといっていいほど己を除け者にする人間どもを除かなければならぬと決意した。パセリには厨房でのやりとりが分からぬ。パセリは、草である。料理に寄り添い、暮らしに彩りを添えて暮らしてきた。けれども残飯に関しては、他のどの草よりも敏感であった。
2012-04-14 04:26:34
https://t.co/ILBSEM01 きょう未明パセリは畑を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のファミレスの厨房にやって来た。パセリには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人パセリだ。この妹は、畑の或る律気な一セロリを、近々、花婿として迎える事になっていた。
2012-04-16 13:23:55受粉も間近かなのである。パセリは、それゆえ、花嫁のプランターやら植替えの肥料やらを買いに、はるばるホームセンターにやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから駐車場の大路をぶらぶら歩いた。パセリには竹馬の友があった。クレソンである。
2012-04-16 13:26:23今は此のステークガストで、付け合せになっている。その友を、これから注文してみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、残すかもしれないが楽しみである。歩いているうちにパセリは、まちの様子を怪しく思った。
2012-04-16 13:28:23ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、ガスト全体が、やけに寂しい。のんきなパセリも、だんだん不安になって来た。
2012-04-16 13:28:55路で逢った若いウェイターをつかまえて、何かあったのか、二年まえに此のガストに来たときは、夜でもバーミヤンで皆が若鶏の甘酢しょうゆを頼み、チャーハンで安定であった筈だが、と注文した。若いウェイターは、首を振って答えなかった。
2012-04-16 13:36:56しばらく歩いて老執事に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして注文した。老執事は答えなかった。パセリは両手で老執事のからだをゆすぶって注文を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
2012-04-16 13:37:39「人間は、パセリを残します。」 「なぜ残すのだ。」 「洗って再利用している、というのですが、誰もそんな、再利用はしておりませぬ。」
2012-04-16 13:39:13「たくさんのパセリを廃棄したのか。」 「はい、はじめは刺身のタンポポを。それから、御自身のツマを。それから、エビフライのしっぽを。それから、サクランボさまを。それから、ミックスベジタブルを。」
2012-04-16 13:40:42「おどろいた。人間は乱心か。」 「いいえ、乱心ではございませぬ。食を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、一分でも消費期限の過ぎたお弁当は廃棄せよと命じて居ります。御命令を拒めば値引きのシールも貼られずに、廃棄されます。きょうは、六パセリ廃棄されました。」
2012-04-16 13:43:35聞いて、パセリは激怒した。「呆れた人間だ。生かして置けぬ。」 パセリは、単純な草であった。買い物を、背負ったままで、のそのそファミレスにはいって行った。たちまち彼は、調理の のコックに捕縛された。
2012-04-16 13:45:09調べられて、パセリの懐中からは苦味が出て来たので、エグ味が大きくなってしまった。パセリは、人間の前に引き出された。 「このパセリは何をするつもりであったか。言え!」 モンペは大声で、けれども阿呆のように問いつめた。そのモンペの顔は真っ赤で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
2012-04-16 13:48:01「パセリを暴君の手から救うのだ。」とパセリは悪びれずに答えた。「おまえがか?」 モンペは、苦笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、パセリのまずさがわからぬ。」
2012-04-16 13:48:52「言うな!」とパセリは、いきり立って反駁した。「付け合せをを疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。人は、食の信頼をさえ疑って居られる。」
2012-04-16 13:49:33「残すのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、付け合せたちだ。人の味覚は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」 店員は落着いて呟き、ほっと突き出しを出した。「わしだって、完食を望んでいるのだが。」
2012-04-16 13:51:17「だまれ、下賤の草。」 モンペは、さっと手を挙げて報いた。 「見た目は、どんな清らかな緑にでもなれる。わしには、パセリ筋張った茎の完食が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、フリーズドライになってから、乾いて詫びたって聞かぬぞ。」
2012-04-16 13:54:29「ああ、人間は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと残される覚悟で居るのに。食べて欲しいなど決して懇願しない。ただ、――」と言いかけて、パセリは根もとに視線を落し瞬時ためらい、
2012-04-16 14:00:39「ただ、パセリに情をかけたいつもりなら、廃棄までに三日間の表見期限を与えて下さい。たった一パセリの妹に、セロリを持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は畑で受粉を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
2012-04-16 14:01:36「ばかな。」とモンペは、キーキーと高い声で笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がしたブラックバスがキャッチで来るというのか。」「そうです。キャッチ・アンド・リリースです。」 パセリは必死で言い張った。
2012-04-16 14:04:30「、よろしい、このガストにクレソンという付け合せがいます。私の無二の友草だ。あれを、草質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここにしなびてしまったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
2012-04-16 14:05:56それを聞いてモンペは、残虐な気持で、そっとほうれん草んだ。生姜なことを言うわい。どうせ帰って来ナスにきまっている。この嘘つきに騙 されたきゅうりして、放してやるのも面白い。そうして身代りのクレソンを、三日目に廃棄してやるのも黄身がいい。
2012-04-16 14:10:35パセリは、これだからまずいと、わしは悲しい顔して、その身代りのクレソンを捨ててやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
2012-04-16 14:18:30