ドゥームズデイ・ディヴァイス #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(親愛なる読者のみなさん:今日のこうしん作業は、いつもよりもひんぱんに長時間の中断とかがなんか挟まったりしつつ行われるかもしれないであろう事は、やぶさかではないでしょう。わかりましたね?ありがとうございます。)

2012-04-16 09:36:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二部「キョート殺伐都市」より:「ドゥームズデイ・ディヴァイス」 #2

2012-04-16 09:38:20
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……キョート城、サウザンド・オジゾウズの間! 1

2012-04-16 09:39:55
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決して狭くは無いが、薄暗く息苦しい空間である。長方形の部屋の壁を埋め尽くす不気味なオジゾウを、無数のロウソクが照らし出す。ロウソクは奴隷オイランが定期的に巡回し、火を絶やす事は無い。 2

2012-04-16 09:43:20
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部屋の中央には真鍮の台座が備えられている。台座のこちら側にはフジオ・カタクラ……ダークニンジャ。向こう側には二人。一人はニーズヘグ。もう一人はパーガトリーである。ともにグランドマスター位階の強大なニンジャだ。 3

2012-04-16 09:47:19
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二人のグランドマスターが無言で見守る中、フジオはまず、ブレーサー(手首装甲)を外し、台座に載せた。次に、クナイ・ダートのベルトを外し、同様に台座へ載せる。パーガトリーが手を伸ばし、クナイのひとつひとつをあらためる。そして頷く。 4

2012-04-16 09:51:03
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次にフジオはワキザシ・ニンジャソードの帯をほどき、これも鞘ごと、台座に載せる。そして、最後の武装……フジオと分かち難い凶運の刃、暗黒剣ベッピン。フジオは眉ひとつ動かさず、ためらい無しにこれをも手離した。彼の手が離れる時、微かな金属音の残響が部屋に木霊した。 5

2012-04-16 09:54:52
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「不安かね」パーガトリーがうっそりと言った。「いえ」フジオは首を振った。「必要な事です。なにより私自身のカラテがありますれば」「その通り」パーガトリーは頷いた。ニーズヘグがフジオに目配せした。「強制休暇中はこれを所持したまえ」パーガトリーが別のニンジャソードを手渡す。 6

2012-04-16 10:00:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジオは恭しく受け取る。強制休暇。一定以上の位階を所持するザイバツ・ニンジャに等しく課されるシステムだ。休暇期間は六日間。この間、対象とされるニンジャは任を解かれ、己の邸宅に近づく事も許されない。六日間の抜き打ちの休暇期間は、叩いて埃の出るようなニンジャを炙り出すには十分だ。 7

2012-04-16 10:29:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

偉大なるロードを除き、上位階級者の中でこのシステムから自由なのはパラゴンただ一人である。そしてパラゴンに私邸は無い。ザイバツ・ニンジャには、ロードの目の届かぬプライバシーは存在しない……建前上は、そういう事になっている。おそらく、さまざまな秘匿の抜け道はある事だろう。 8

2012-04-16 10:34:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パーガトリーが手渡したニンジャソードには発信機が仕込まれている。強制休暇中の私邸はギルドによってあらためられる(既に私邸の鍵も預けてある)。だがフジオは問題視しなかった。疑いの種となるものなど無い。ニーズヘグの後ろ盾もある。叛意をでっち上げて失脚させるありがちな企みは不可能だ。9

2012-04-16 10:41:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「せっかくの休暇だ。もとより貴公はロードの覚えもめでたき者。何も考えず、自由に羽を伸ばすとよい。自由にな」最後にパーガトリーはフジオを空港エントランスめいてあらため、他の余剰装備が無い事を確認したのち、言った。フジオは頷いた。戸口にアデプトのニンジャが現れ、彼を送り出した。 10

2012-04-16 10:50:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このまま敢えてキョート城内に待機する事も不可能ではない。推奨はされないが、その程度の事であれば、ニーズヘグが押し通す事はできよう。だがフジオにはガイオン地表で確かめておくべき事があった。ごく個人的な、他愛の無い理由と言ってよい。強制休暇もサイオーホースというものか……。 11

2012-04-16 10:57:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カフェテリアの窓際で所在なさげにしている男の名はマコ・ツキノミ。他のアッパーガイオン生活者の無造作な優美とは、見るからに異質なナリである。他の客がマコに視線を送ったりする事はない。奥ゆかしくないからだ。しかし店内のアトモスフィア全体が、彼にプレッシャーをかけている。 13

2012-04-16 11:04:01
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目深にかぶった野球帽、革のブルゾン。カップのコブチャ・ラテを一口すすり、皿の上に戻す。すると思いのほか大きい音が出て、彼の肩は震える。通り過ぎるウエイターを見やる。ウエイターは微笑んでいる。それだけでマコはいたたまれない気分になる。窓の外を歩く人々……輝くような街並み……。 14

2012-04-16 11:11:20
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やがて戸口の風鈴が鳴り、店内に新たな来客有り。マコはそれを帽子のつばの陰から目で追った。灰色がかった髪色。シンプルで嫌味のない、黒いコートを着た男。マコのテーブルを通り過ぎ、すぐ後ろの席、マコの背後の席に、背中合わせのように座る。「ドーゾヨロシク」とウエイターが接客に行く。15

2012-04-16 11:17:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ハイヨロコンデー」ウエイターは去って行く。(無言!メニューを指差してオーダーしたのか)マコは耳をそばだてて聴いてしまう。「知っているか」背後の男は椅子に深くかけると、低く呟く。誰に言った?「……振り向かずに」男は付け加えた。マコは冷や汗をかいた。自分に言っているのだ。 16

2012-04-16 11:24:19
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「ビュッフェの横の店員」と灰色髪の男。マコは横目でそちらを見る。男は続ける「腕の付け根のあたりに不自然な膨らみがある。わかるか。あれはオートマチック・ピストルだ」マコは青褪めた。「それから、店内を巡回しているあの白服」「……!」「トレイで片手を隠している。当然、その手に銃」 17

2012-04-16 11:30:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あんた……」「こちらを見ず、チャでも飲んでいろ」と男が言う。「それからバーテンダー。カウンターの裏にはショットガンがある。つまり……君は?銃はその紙袋の中か?それとも風変わりに帽子の中か?どちらにせよ、やめておいたほうがいい。返り討ち……犬死にだ」 18

2012-04-16 11:35:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんでそんな、事を?」マコは声を絞り出した。「俺を始末するのか?」「……この前、偶然に君を見かけ、もしやと思って後を尾け、色々と調べさせてもらった」「畜生……!」「インディアンは?」唐突に灰色髪の男が言った。脈絡のない文言を。マコは雷に打たれたようにびくりとした。 19

2012-04-16 11:39:48
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「さ、魚の舟」マコは震え声で言った。「夜に網打ち」と灰色髪の男。マコの目に涙が浮かぶ。「太陽に……うう……太陽に、弓撃つ……た、太陽……」マコは嗚咽を始めた。「振り向くな、まだ。マコ=サン」「う……あんたは……あんた……まさかそんな……フジオだっていうのか……?」 20

2012-04-16 11:43:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「その通りだ」「なんでキョートに……げ、元気だったかよ」フジオは呼び鈴を鳴らし、ウエイターに言った「席を替えていいですか」「ヨロコンデー」彼はマコの向かいに座り直した。「……ドーモ。無事でなりよりだ」「お前こそ」とマコ。涙を拭う。フジオは頷く。「俺に免じて、乱射はやめておけ」21

2012-04-16 11:49:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なあ、他の奴らと連絡をとっていたりするのか?」マコは訊いた。「いや」フジオは首を振った「誰が生き延びたかも知らん。もとより、おれ以外の全員が死んだものと考えるようにしていた」「そうか……そうだよな……そりゃ色々あったよな?あれから」「色々な」フジオは無機質な笑みを浮かべた。22

2012-04-16 11:55:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二者の脳裏には、おそらくそのとき、同一のイメージが去来していた筈だ。バイオピラニアを満載した堀で囲まれた、あの忌まわしいネオン遊戯の伽藍……山羊角を生やした堕落のブッダ・カリカチュア・ネブタと、七色の明かりを投げるボンボリ群の威容。オイラン達の嬌声、湿った廊下の闇。 23

2012-04-16 12:05:46