数字のいい加減さ・難しさ
- ShinShinohara
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学生さんの研究を指導していると「じゃあ、その資材の数字を教えて下さい」と質問が来る。「いや、数字は君が出すんだよ」というと、キョトンとする。ネットか論文を調べれば世の中のどこかに正解が転がっていると思いこんでしまう。旧帝大でもそんなもの。
2012-04-18 12:17:39たとえば鉄はよく知られた資材で、たくさんの教科書が数字を示してくれている。しかしいざ自分で調べてみると、同じ鉄なのにサンプルによって出てくる数字がバラバラ。「誤差」が非常に大きいことがよく分かる。自分で実験すると、教科書にある数字は「参考までに」の数字でしかないことが分かる。
2012-04-18 12:19:51実験科学者であれば、示された数字には「誤差」という幅があることを体験的に知っている。だから、原発関係者の発表する数字も鵜呑みにしない。「その数字を出すのにどんな実験をしたか」が想像できるから、「どの程度いい加減な数字か」もおおよそ予想できる。
2012-04-18 12:22:05では、なぜ研究者はその「いい加減な数字」にこだわるのか。「イイカゲンはよい加減」だからだ。数字が「正確な数字」であることは実験科学ではあり得ないのだが、参考にはなる。その数字を出すための実験環境をイメージできればさらに感覚が良くつかめる。「参考」にするために、数字を大切にする。
2012-04-18 12:24:08除染で何%下がったという発表がなされても、その数字を鵜呑みにせず、「どうやってその数字をはじき出したのか、測定条件はどうしたのか」を実験科学者は訊きたがる。すると、その数字が「良い加減」なのか、「イイカゲン」なのかが分かる。良い加減なら参考になるが、イイカゲンなら参考にならない。
2012-04-18 12:26:19数字を出しても、測定現場では誤差が大きくて幅がある。誤差が小さくても、取ったデータが少なければ、都合の良いデータだけ取っただけかも知れないから信じがたくなる。実験科学者は、どんな測定条件だったかを訊くことにより、イイカゲンと良い加減を見極める。
2012-04-18 12:28:42実験したことのない理論家は、たとえば鉄について色々論じるだろう。固い、錆びる、塩酸に溶ける・・・しかし超高純度の鉄は、錆びないし柔らかいし塩酸に溶けない。一般に知られる性質の「鉄」は実は不純物。世の中には、分かったつもりでいて、実験してみないと分からないことがたくさんある。
2012-04-18 18:25:12理論家は数字に疑いを持たないが、実験科学者はその数字をどうやって出したかを訊かないと納得しない。測定値がいかにブレるかをよく知っているから。その視点で言うと、原子力関係で挙げられる数字は実にイイカゲン。それを確定的、断定的に言う人は、既に科学者としての資格を失っていると思う。
2012-04-18 18:30:02その意味で、一般の方々にも注意して頂きたい。一般の人の中には「もっと確定した数字を出せ」という人がいるが、測定現場はいつも数字がぶれている。ブレのない数字を自信満々で示す人、数字を基にして持論を展開し、他の意見を聞こうとしない人はもうそれだけで妖しい。
2012-04-18 18:42:45マクナマラという人物は、数字を駆使してベトナム戦争を遂行した。政敵が「おかしい」と疑問を示しても、明確な数字を列挙し即座に否定し、誰もが論破されてしまった。しかし、戦場から上がってくる数字はデタラメだった。「明確だが間違った数字」より「あいまいだが素朴な疑問」の方が正しかった。
2012-04-18 18:48:30数字は非常に強い説得力があるが、どんな測定の仕方をしたのかを確認しないうちは鵜呑みにしない方がよい。「東大話法」で使われる数字は信用ならない。どんな測定法ででた数字なのか、どんな条件だとその数字はアテにならなくなるのか、数字の力の限界を知っている人の言葉こそ、信頼できる。
2012-04-18 18:55:33