首都上空の決戦も終わり、ICKX兵工技研にも平穏な日々が戻ってきた。 「いよぅ、ナヴァホ。今晩一杯どうだ?」 愛機の整備を終えたらしい猟犬がナヴァホを呼び止める。 「悪いな、明日もフライトでね。また今度にしておくよ」 そう言うとナヴァホは格納庫に鎮座する相棒を見上げた。
2012-04-23 23:15:44「わかればいいのです」 エフィはそう言うと明日のフライトシミュレーション作業にリソースを振り直す。 「しかし……こうも平和だと何か刺激が欲しくなるな」 ピロリッ♪ 「おいお前、今ろくでもないことを思いついただろう」 軽快な電子音が鳴り、Y1のメインフレームが起動する。
2012-04-23 23:18:02エアバッグが作動し、ナヴァホの後頭部をシートのヘッドレストに押し付ける。 「もがもがもが」 「面白いでしょう?」 「二回目じゃ笑いはとれんぞ、全く。エアバッグの復元、自分で整備クルーに頼めよ」 ナヴァホはエアバッグを右手で払いのけると大きくため息をついた。
2012-04-23 23:22:20「おはよう、昨日の夜はどうだった?」 「あぁ、シールドのやつ誘ったんだけどよ、あいつ三杯で潰れやがった」 猟犬は右手の指を三つ立てる。 「どうせお前がぐいぐい飲ませたんだろう。アルハラだぞ」 流星は呆れたようにため息をつく
2012-04-23 23:28:20「してねーよ! 嬢ちゃんの話になったらあいつ急にピッチ上げたんだよ」 「あぁ、わかる気がする」 ナヴァホは苦笑しながら腰を下ろし、猟犬の向かいに座る。 ナヴァホがトーストの一口目をかじろうとした時、それは起こった。 突然、デパートの迷子アナウンスじみた音が艦内に響き渡る。
2012-04-23 23:32:58「あ、なんだ?」 『おはようございます、今日は皆さんに重要なお知らせがあります』 艦内のあらゆるモニター、ディスプレイに神妙な顔をしたフルトが映し出される。 『前回の事件以来、私に距離感を感じているクルーやパイロットも多いでしょう』 『そこで……』
2012-04-23 23:38:33フルトは意を決したように深呼吸すると、両手に持っていたものを被った。 『今日から私のことは"フルトにゃん"っって呼んで欲しいニャン♪』 フルトが両手で猫の手真似をし、カメラに向かってウインクした瞬間、フォートクォートの時間は止まった。
2012-04-23 23:41:02「ブゥーーハッ」 ハウンドは口に含んでいた朝専用コーヒーを盛大にテーブルの上に吹いた。 「な、なんだこれは……おい、ナヴァホ、これはどういうことだ!?」 コメットは目を白黒させながらナヴァホの肩を揺するが、ナヴァホだってこんなことに心当たりはない。いや、一つだけあった
2012-04-23 23:45:10――ちょっとしたイタズラです。 「そうか……エフィ……」 「フルト…にゃん…あの…嬢ちゃんが…ふっくく…にゃん…猫耳…くっそ…息できねぇ」 ナヴァホが深刻な顔で頭を抱える一方、ハウンドはテーブルを叩きながら笑い転げていた。
2012-04-23 23:48:20コメットはと言えば、画面の中で色々なポーズをする猫耳所長をじっと見ていた。 「か、かわいい……」 「おい、コメット。しっかりしろ」 今度はナヴァホがコメットの肩を揺するが、反応はない。 「落ち着け、ここは冷静に……ステイクールだ、ナヴァホ」
2012-04-23 23:49:52大きな音とともに、食堂のドアが開く。フルトだった。お気に入りのひらひらした服を着ている。顔は真っ赤に上気し、小さな肩が呼吸のたびに上下する。 「皆さん、これはどういうことですか!」 もちろん猫耳などついていないし語尾にニャンもついていない。
2012-04-23 23:53:27「ナヴァホさん、説明していただけますよね?」 つかつかとナヴァホの隣に歩み寄り、肩に手を載せる。その手が怒りで震えているのが分かった。 「えぇはい、うちのナビがやったんだと、思います……」 なるべくフルトの目を見ないようにしながら、ナヴァホは蚊のささやくような声で答えた。
2012-04-24 00:03:34ありがとうございます。ちょっとあの子にはお説教が必要なようです。 小さくお辞儀をすると、フルトは踵を返して格納庫の方へと向かう。 「黒い、黒いぞ…」 ナヴァホは彼女の右手に無骨なブロートーチが握られているのを見逃さなかった。
2012-04-24 00:06:57