研究者としてなにをなすべきか ~温暖化ムラの住人より~
- yagitakeshi
- 3655
- 0
- 2
- 0
1)科学的事実に関しておかしなことを言う人がメディアに露出し、低水準で間違いだらけの書籍が平積みで売られるようになり、ネットで「この人の言うことこそが真実だ!」という記述が多く見られるようになったとき。普通まともな人たちは無視を決め込みます。
2012-04-29 13:30:042)そんな低レベルな話に関わりたくないと思うからでしょう(私もそうです)。しかし、それを放置するといつの間にかそのおかしな説が流布します。それは知識のないモノズキの方々のみならず、知的活動において十分な実績のある社会的成功者(の、多くは老人)まで何故か雷同し始めます。
2012-04-29 13:30:153)もともとがおかしな話なので「放っておけばそのうちいなくなる」と思っていると、意外やさにあらず、小さな雑音だと思っていたものが無視できない大きさまで成長し、関係者が対応を迫られる事態に発展します。特にそれが政策の争点に直接関わる場合には政策担当者は無視できません。
2012-04-29 13:30:254)いわゆる専門家は、自分のフィールド、すなわち学術誌や学会で勝負すればいいと思うのが普通です。そしてそのような場であれば観衆も専門知識があり思考の訓練を積んでいますから、明らかな初歩的間違いを含んだものは支持されませんし、ほとんど勝負にもなりません。
2012-04-29 13:30:365)しかし政策の争点となるような事態においては、政策に影響を及ぼす世論が形成されるフィールドは学会ではありません。観衆であるところの多くの国民は専門知識がありませんし、その分野に関する思考の枠組みを共有しませんし、また一般的な論理的思考の練度も様々です。
2012-04-29 13:30:466)そのような人々によって形成される世論を政策担当者が無視できない以上、政策が確認された事実の確からしさに基づいて策定されるためには、おかしなことを言う(そして何故か人気のある)人たちと同じ土俵に上がる必要があります。それは一般向けの書籍であったりテレビ番組であったりします。
2012-04-29 13:30:557)洞爺湖サミットの前後にかけて、温暖化問題についてこのような状況が発生し、当初しばらく静観を決め込んでいたいわゆる主流派の研究者も、彼らと同じ土俵に上がり始め、またそのような場での戦術も徐々に磨かれていきました。よくある疑問に関するQ&Aも複数作られました。
2012-04-29 13:31:068)ということを経験した地球温暖化関連の研究者として思うことは、おかしなことを言う人を放置してはいけない、必要ならば向こうの土俵に上がり、事実の集積とよく検討された論理をもって率直かつ徹底的に対処しなければいけない、しかも観衆に合わせて、ということです。
2012-04-29 13:31:1610)以上のような状況が進展していたとき、私は大学院生でした。これから自分が入っていこうとしている世界ではこのようなことがあるのかと、あまり歓迎したくない気分ではありましたが、民主主義社会で政策に関連する研究をする以上、そのような義務もあるのだろうなと思ったものです。
2012-04-29 13:32:4811)博士の学位を授与され、今の場所(といっても院生の頃と同じ部屋の三つ隣の席ですが 笑)で研究員として働きはじめてからおよそ一年後、2011年3月11日がやってきました。当日私は会合へ出席するために外国におり、ホテルのテレビの前で涙を流すことしか出来ませんでした。
2012-04-29 13:33:0012)この状況で研究者としての私に何が出来るだろうか。大学院で防災に関する教育は少し受けましたし、環境汚染の一種としての放射能汚染も学んだことはあります。しかしいずれも、勉強はしたので基礎知識は知っていても研究者としては専門外で、私の出番ではない、と思いました。
2012-04-29 13:33:1313)個人として出来る寄付のほかに、研究者として出来ることといえば、地震で機能停止していたつくばの共同研究者のお仕事をいくつか肩代わりすることくらいでした。しかし当時の仕事は、やっているつもりでしたが全く手についていなかったということが、今振り返ると分かります。
2012-04-29 13:33:2514)そこへ、電力の需給に関する問題が起きました。昨夏の問題は原子力だけではなく、東京電力・東北電力の主力となっていた太平洋側の大規模な火力発電所も津波で被災したことが大きく響いていたので、とにかく大停電を起こさないこと、という命題が浮上しました。
2012-04-29 13:33:3515)私は温暖化対策の研究者です。日本で温暖化対策といえばエネルギーが中心で、方法はおおざっぱに言えば二つ。エネルギーをなるべく使わないですむようにすること、そしてエネルギー源を低炭素排出のものにすること。昨夏の問題はこのうち「使わない」ほうに関係がありました。
2012-04-29 13:33:4416)昨夏からずっと問題になっている需給の問題は、まず基本的にはピーク需要の問題でした。温暖化対策の視点とは少し違うのですが、少なくとも対象は同じですし、基本的な知識は持っていますし、データの読み方も知っています。そのような解説くらいは出来るかもしれない、と思いました。
2012-04-29 13:33:5517)そこでツイッターで電力各社のでんき予報を流したり、その状況下で家庭でできる節電とは何か、特に、ピーク対応が問題なのであって、ピーク時以外の省エネの重要性は低いことなど、何度か繰り返しツイートしています。
2012-04-29 13:34:0518)一方、私の専門はモデリングといって、いわゆるコンピューター・シミュレーションによって政策の決定に必要な情報を計算する手法の開発です。そしてその実用とは政策策定に必要な情報を提供し、直接的に支援することになります。
2012-04-29 13:34:1419) シミュレーションによって決定を支援することを仕事の一部とする研究者として、以下のようなまとめもつくりました。いまさらながら、SPEEDIについて http://t.co/HvYhevRr 続 http://t.co/CpbZyC6V
2012-04-29 13:34:2220)そこで大学院生の頃から一貫している私達の立場があります。それは「科学的・技術的な基盤に基づいた情報によって、政策を策定するための選択肢を示す」ことであり、どのような選択をするかは社会、より具体的には政治、のすることである、ということ。
2012-04-29 13:34:3321)研究者に対して、ある問題と、その解決とは何かが与えられたならば、「それを解決するためにはこうするべきである」ということは答えることが出来ます。しかし、そもそもその問題を解決すべきかどうか、そもそもその解決とは何か、というのは社会の側にあることです。
2012-04-29 13:34:4322)昨年からずっと議論になっている既存の原子力発電所の稼働の是非に関して私は、「こうするべきだ」ということを一度もここでは書いていません。いち国民としての意見は持っていますが、京都大学の研究者という肩書で活動しているtwitterでは表明しないことにしています。
2012-04-29 13:34:52